第2話「星々の軌跡」
夜のプラネタリウム。
天井いっぱいに散らばる光は、現実の星空よりも静かで、正確で、どこか冷たい。
「この投影機……動いてないね」
司が呟く。
床の中央に置かれた黒い球体――古い型の星投影機は、電源ランプさえ灯っていなかった。
だが、星々は天井に映っている。まるで、機械が勝手に動いているように。
「誰か、別の場所から操作してる?」
詩織が制御卓を調べる。
スイッチはすべて切られ、ケーブルは外れている。
にもかかわらず、星空はゆっくりと回転を続けていた。
まるで、何かが導くように。
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控室には、一枚の投影スライドが残されていた。
そこには「星々の軌跡は、過去の涙を描く」という言葉と、見慣れない星座の図。
事件の前夜、プラネタリウム解説員・高峰がこの図を見て「これが“真の星図”だ」と呟いていたという証言もある。
「星座の線が……違う」
司が指でなぞる。
通常なら結ばれないはずの星と星が、ひとつの円を描いていた。
その中心には――亡くなった解説員・高峰の座席位置が、正確に重なる。
「まさか……投影自体が、犯人の仕掛け?」
詩織は息をのむ。
観客が見上げる角度、光の反射、座席の位置。
全てを組み合わせれば、「ある一つの星だけが見えなくなる」ように設計されていたのだ。
その“消える星”こそが、事件の鍵を握る“記録データ”を意味している――。
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「星々の軌跡は、過去の涙を描く」
それは詩ではなく、座標指示だった。
星の名前に対応する緯度経度を地図に写すと、
浮かび上がったのは“旧プラネタリウムの地下通路”へのルート。
「つまり――彼は最後まで、真実を空に描こうとしていた」
星々が静かに回る。
今夜も、亡き解説員が残した“星の証言”が、誰かを真実へと導いているのかもしれない。




