第16事件 「美術室の消えた絵筆」 第1話 消えた絵筆
美術室の窓から差し込む光が、床に絵具の色を鮮やかに映していた。
しかし、その華やかさを台無しにする一言が部室に響く。
「……私の絵筆がない……」
美術部部長の佐倉リナが、机の上のキャビネットを見つめる。鍵はかかっている。
部員たちは驚き、互いに目を合わせた。
「まさか……盗まれたの?」
そう呟いたのは、部員のひとり。
ユウマは無言でキャビネットの前に立ち、観察を始める。
鍵は正常。キャビネット内の筆は乱れていないが、一つだけ、筆立ての位置がわずかにずれている。
さらに床には、微かに絵具の跡がついていた。誰かが絵筆を扱った痕跡だ。
「不自然だな……」
ユウマは眉をひそめる。
「何が不自然なの?」とミナトが訊く。
「絵筆は盗まれたように見えるが、実際には外から持ち出された形跡がない」
ユウマの指が、床の微妙な絵具の跡をなぞる。
「誰かが“内側から”移動させたとしか思えない」
ミナトは首を傾げる。
「内側から? 誰も閉じ込められてないのに?」
「いや……絵筆を盗むというより、誰かの心の想いが先走っただけかもしれない」
ユウマはキャビネットの鍵を見つめながら呟いた。
美術室に、静かな緊張が流れる。
そして、誰も気づかぬまま、事件の“色彩”は次の章へと広がっていく――。




