第5話「真実のシャッター」
校舎の廊下は、夜風が吹き抜けるたびに、古い木の床がきしむ音を立てた。
真奈と瑞樹は、最後の手掛かりを握りしめ、記録室の奥へと足を進める。
「ここまで導かれたのは、偶然じゃない……」
真奈はフィルムを見つめ、三年前の自分の影と、“もう一人”の影の距離を測った。
「この影、光の角度が違う。つまり……被写体は、現場にいなかった」
瑞樹は頷く。
「つまり、写真に写った“影”は偽装だ。立体物で、角度を操作して作られた――トリックだ」
真奈は息を呑んだ。
「じゃあ、私の記憶の中の誰かは……?」
その時、棚の奥からかすかな金属音。二人が振り向くと、古いカメラケースが静かに倒れ、中からもう一枚の写真が床に滑り落ちた。
写真には、三年前の写真部室。光と影の配置は、先ほどのプロジェクターの映像と完全に一致していた。
だが、その角に小さな紙片――手書きのメモが挟まっている。
〈私はあなたに見せたかった――過去を忘れないで〉
真奈は手に取り、震える指で広げる。
文字の筆跡は、三年前の部員――しかし、あの時すでに転校していたはずの人物のものだった。
「なるほど……」
瑞樹がつぶやく。
「写真に写った影は、誰かが意図的に作った“残像”。そして、その意図は、君に過去を思い出させることだったんだ」
真奈はゆっくりと写真に目を落とす。
確かに、そこには三年前の自分と、消えた部員の“心の影”が映っていた。
写真が語るのは、単なる映像ではなく、想いの記録だった。
「つまり――全部、私に気づいてほしかったんだ……」
真奈の瞳から、一筋の光がこぼれる。
「過去を忘れないで。だから、私の存在を……残しておきたかった」
廊下に、再び静寂が訪れる。
だが、真奈と瑞樹の胸には、確かに過去の“誰かの想い”が残響として響いていた。
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■この事件のトリック要素
•三年前の写真を再現する“光と影の残像トリック”
→ 写真に写る人物は、実際には現場にいなかった。小道具や光の角度で影を操作。
•記録室のプロジェクター演出
→ 過去の写真をスライドさせ、被写体の存在を錯覚させる。
•感情系ミステリ
→ 写真とメモは“消えた人物の想い”を伝えるために仕組まれていた。
•過去の出来事が現在に届く、ノスタルジックな余韻。




