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第3話「過去を写すレンズ」

 


「この写真、どうして……私が写ってるの?」


真奈の声は震えていた。

机の上の白黒写真――割れたガラス片に反射した光が、まるでその一枚を照らすために存在しているかのようだった。

そこに写っていたのは、三年前の教室。そして、その窓辺に立つ少女。

確かに、今の真奈と同じ顔をしていた。


「ありえない。三年前、君はこの学校にいなかったはずだ」

瑞樹の言葉が空気を切り裂く。

だが真奈は、否定できなかった。

胸の奥に、確かに“その日の記憶”が残っている。

眩しい夕陽。レンズ越しに誰かを撮る感覚。

そして、シャッター音とともに――あの日、何かが終わった。



夜、校舎裏の旧写真部室。

割れたガラスを覆うように、月光が白く差し込んでいた。

瑞樹は古びた暗室を調べていた。

棚の奥から見つかったのは、一本の未現像フィルム。

ラベルには“2022年・文化祭 M.N.”の文字。


「……M.N.?」

「真奈・西原」

その名前を聞いた瞬間、真奈の脳裏に、また光が弾けた。



――暗室の赤い光。

シャッターを切る音。

そして、背後から誰かの声。


〈もう一枚、撮って〉


だが振り返った時、そこには誰もいなかった。



「瑞樹……私、誰かを撮った。でも、その“誰か”が思い出せない」

「思い出す必要はあるのか?」

「ある。だって――この写真、誰かが“私に思い出させようとしてる”」


その言葉と同時に、机の上のカメラが勝手にシャッターを切った。

フラッシュが弾け、真奈と瑞樹の視界が白く染まる。


次の瞬間、現像皿の中で新しい写真が浮かび上がった。

そこには――二人の背後に、もう一人の影が写っていた。

それは確かに、三年前の“写真部の誰か”の姿。


「過去が、まだ消えてない……」

真奈が呟いた。


その声を包み込むように、放送室のスピーカーがノイズを走らせる。

〈……次は、記録室へ。あの“レンズ”が、すべてを映す〉


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