第2話「光と影の記憶」
放課後の光が、校舎の窓から細い帯になって差し込んでいた。
割れたガラスの向こう、埃が舞い、そこだけ時が止まったように静かだった。
「……やっぱり、この写真、どこかおかしい」
机の上に広げられた一枚の白黒写真。そこに写るはずのない“もう一人”が、うっすらと輪郭を浮かべていた。
真奈が息をのむ。
「これ、誰? この教室、今は使われてないはずだよね」
「三年前に廃部になった、写真部の部室らしい」
そう答えたのは瑞樹。
ガラス片を拾いながら、彼は慎重に言葉を選んだ。
「……でも、この人物、どう見ても――」
言葉の先を、風がさらっていった。
⸻
放送室で流れる古びたカセットテープ。
〈……光と影が交わるとき、記憶は閉じる〉
そのノイズ混じりの声を聞いた瞬間、真奈の頭の中に断片的な映像が走った。
眩しい光。
黒い影。
そして――カメラを構える、自分の手。
「私……この場所、知ってる……?」
真奈の声が震える。
記憶の底から、何かが這い上がってくる。
瑞樹は彼女の肩にそっと手を置いた。
「思い出すな、真奈。まだ、早い」
だがその時、廊下の奥で“カシャン”と音がした。
振り向くと、誰もいない。
だが床には――割れたフィルムケースが転がっていた。
「……誰か、いる」
瑞樹が低く呟く。
窓から差す夕陽が、長い影を二人の足元に落とした。
その影が、もう一つ――見知らぬ形に歪んでいくことに、気づいたのはほんの一瞬後だった。




