第2話 灰色の推理
翌日、放課後の生徒会室。ユウマとミナトは、前日に見た“鏡の手”について再び確認していた。
「やはり誰もいなかったな……」
ユウマは鏡の前で、手をゆっくり動かしてみる。すると、光の反射が微妙にずれ、指の先に影のような線が走った。
「ほら、見えるか?」
「う、うわ……! 本当に手みたいに見える……!」
ミナトは思わず後ずさる。
ユウマは静かに、鏡の裏側を覗き込む。
「金具が少し緩んでいる。これで鏡をわずかに傾けられるんだ。そして、光の角度を考えれば――」
彼は紙を取り出し、机の上に光の通り道を示す簡単な図を描き始める。
「こうだ。窓から入る夕陽がこの角度で反射すると、鏡の中央にある位置に手のような影が映る。しかも鏡の裏に、教室のドアノブの影がちょうど重なる位置にある」
「え……つまり、昨日の“手”は、本物じゃなくて光と影のトリック?」
ミナトは図を指さし、目を丸くする。
「そう。しかも、この仕掛け、偶然じゃない。誰かがこの時間、夕陽を狙って鏡の角度を微調整していた可能性が高い」
ユウマは鏡に向かってそっと指を差す。
「誰が、そして何のために……それが次の課題だ」
その時、生徒会室のドアがノックされる。白石アヤが入ってきた。
「ユウマ君、聞きました……昨日の鏡の件。実は、生徒会の活動日誌から変なメモが消えているんです」
「変なメモ?」
ユウマは眉をひそめる。
「ええ、部室に残っているはずだった、次期行事の案が書かれた紙……消えていました」
「なるほど……つまり、鏡の影は単なる演出。目的は“何かを隠すため”だったと考えられる」
ユウマは机の上で紙の束を手に取り、軽く揺らす。
「誰かが、手を映すことで注意を引き、その裏で情報を抜き取った」
ミナトは息を呑む。
「影で気をそらして、別の犯行……!?」
ユウマは微かに微笑む。
「読者の皆さんも、ここまでで一度考えてみよう。昨日の“手”は光と影のトリック。消えたメモはどこに行ったのか。そして、誰がなぜそのトリックを使ったのか――」
鏡の前で二人はじっと立つ。
夕陽の光が再び差し込み、昨日と同じように鏡に影が揺れる。
その“手”は、まだ秘密を握ったまま――ユウマの推理を待っていた。




