第12事件 図書館外の返却ポストに潜む影 第1話:返却ポストの異変
放課後の図書館は、夕陽のオレンジに染まっていた。
静かな空気を破ったのは、司書の小田切さんの悲鳴だった。
「ちょ、ちょっと! 誰か来て――! 本が、返却ポストの中で……燃えてる!?」
燃えていた、というのは少し大げさだった。
実際には、煙がうっすら立ち上っているだけで、火の気はすぐに消えた。
けれど、その「異変」はたしかに起きていた。
「……燃えたってどういうことですか?」
最初に口を開いたのは、灰色のコートを羽織った少年――天城ユウマだった。
彼の隣で、助手役の早瀬ミナトが慌てて覗きこむ。
「ほんとだ、ポストの中がちょっと焦げてる……! てか、なんか紙が溶けたみたいにくっついてるよ!」
ポストは金属製の箱で、夜でも利用できるように外に設置されている。
図書館の返却口に入れれば、内部の袋に落ちる仕組み。
だが――その袋の中の一冊が、なぜか「焦げて」いた。
「電気のショートか何かですか?」と司書の小田切さん。
「まさかいたずらじゃないですよね……?」
ユウマは返却口の縁に手をかけ、目を細めた。
「焦げ方が妙ですね。ページの中央から黒くなってる。普通、外側から焦げるはずなのに」
「たしかに……。てことは、中から燃えた?」
「燃えたんじゃない。熱を持ったまま中に入れられたんだ」
ミナトが息を呑む。
「え、なにそれ……? どうやって?」
ユウマは返却ポストの投入口を軽く叩きながら言った。
「このポスト、金属製で密閉性が高い。普通なら酸素不足ですぐ火は消える。でも“熱源だけ”が入れられてたなら別だ」
「つまり……本を温めてから入れたってこと?」
「……もしくは、“本の中に”何か仕掛けられていた」
その言葉に、周囲がざわめいた。
そして――ユウマの目が、返却ポストの横に置かれた掲示板に向く。
そこには、こう書かれた貼り紙があった。
『今週の特集:放課後ミステリー特別展 ― “燃える本”と禁断の図書』
「……皮肉な偶然ですね」
ユウマの声は、冷ややかに静かだった。
だがその時、ミナトが小さく叫ぶ。
「ユウマ! 今、ポストの奥……動いた!」
その瞬間、ポストの中から――“カタン”と、何かが落ちる音がした。
ユウマは静かに微笑む。
「なるほど。やはり、“あれ”が中に隠れてたか」
「“あれ”って……?」
「今はまだ、言わないでおこう。
――犯人は、今この場にもいるかもしれないから」
ポストの影が、夕陽の中でわずかに揺れた。
まるでそこに、何かが潜んでいるかのように――。




