第11事件:夜の校門前で消えた部活ノート ⸻ 第1話 夜の目撃者
夜の校門前は、静かすぎるほど静かだった。
吹き抜ける風の音と、照明に照らされた落ち葉の揺れだけが、時の存在を告げている。
「これが……“消えたノート”の現場、か」
早瀬ミナトは、校門の前に立つユウマを見つめながら呟いた。
ユウマの視線の先には、小さな机と、上に置かれた銀色のプレートがあった。
そこに“置かれていた”はずの、写真部の部活ノート。
だが、監視カメラの映像には――誰かがそれを取る瞬間が、存在しなかった。
「……幽霊でも出たのかもな」
ミナトが冗談めかして言うと、ユウマは小さく首を振った。
「違う。
“見えなかった”んじゃない、“見せなかった”んだ」
「え?」
ユウマはしゃがみ込み、地面を指先でなぞる。
そこには、わずかに粘着の跡。掲示板の端に貼られた透明テープの切れ端だった。
「風向き、光の角度、そしてカメラの位置。
この3つが重なれば、――“存在しないもの”を映せる」
「まさか……そんなことができるのか?」
「できるさ。人間の目も、カメラも、同じ錯覚を起こす」
夜風がまた吹く。
掲示板のポスターが一瞬だけめくれ、その向こうに――かすかに鏡のようなガラスが光を反射した。
その瞬間、ユウマの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「やっぱり……“見えないトリック”だな」




