第2話「影の証言」
「昨日の録音、再生タイマーは“19時32分”に設定されていた」
ユウマがそう言うと、ミナトが驚いたように眉を上げた。
「ってことは、ちょうど体育館が閉まる直前じゃん!
誰もいない時間に再生されるように……?」
「そう。そして“聞かせたい相手”は限られている。――バスケ部員だ」
二人は再び体育館へ向かった。
校舎の影が長く伸びる夕暮れ。
窓ガラス越しに見える体育館の中では、後輩たちが不安げに後片づけをしていた。
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「……昨日のあの音、正直ゾッとしました」
話を聞かせてくれたのは、1年マネージャーのサクラだった。
ミナトが優しく問いかける。
「サクラちゃん、音が流れたとき、他に何か気づいたことあった?」
「えっと……ライトが一瞬、点滅したんです。
音が終わったあと、ステージの上の照明が、パチパチって」
ユウマはノートを取り出し、記録をとる。
「なるほど。照明の電源経路とスピーカーの回線、同じ配電盤だな。
つまり、“スピーカーのタイマー作動”が“照明の電圧変動”を起こした可能性がある」
「……ってことは、“音声が流れた時刻”の照明の点滅が、
“録音装置の作動証拠”になるってことか!」
「そう。――“影の証言”だ」
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放課後、技術室。
電気担当の教師に頼んで、当日のブレーカーログを見せてもらう。
「19時32分に、体育館北側の“第2回線”に一瞬の過負荷。確かにあるな」
ユウマの目が鋭く光った。
「やっぱり。録音はあの時間に自動で流されたんだ。
でも――“なぜあのタイミング”だったのか?」
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その後、バスケ部の元副キャプテン・アスカが呼び出された。
彼はどこか気まずそうに、ユウマたちと向き合う。
「……たぶん、キャプテン(=卒業生のリョウ)が仕掛けたんだと思う。
“来年、あの大会のトロフィーを飾る資格があるか、見極めてやる”って言ってたから」
「つまり、“誇りを失えば、栄光は消える”――そういう意味の“封印”だった?」
「うん。でも、まさか本当に音声まで残してたなんて……」
ユウマは頷きながらも、静かに尋ねる。
「彼が使ってたスマホ、まだ手元にある?」
「……はい。卒業記念で、学校に寄贈されてます。部室の棚の中に」
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夜、再び部室にて。
ミナトがスマホの再生履歴を確認すると、
そこには“録音アプリ”のデータが残っていた。タイトルは――
【Echo of Glory(栄光の残響)】
「……リョウ先輩、最後まで演出家気取りだったんだな」
「でも、これは“愛のあるトリック”だよ」
ユウマはスマホを閉じて言った。
「後輩たちが“勝つためだけ”に練習していた今の姿を見て、
“誇り”を思い出してほしかったんだと思う」
ミナトは静かに頷く。
「たしかに……盗難事件ってより、“メッセージ事件”だね」
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帰り道。
夕暮れの風が体育館の方向から吹き抜ける。
ユウマはポケットの中のUSBメモリを取り出し、
録音データを保存したまま、ぽつりと呟いた。
「“音”は消えても、“想い”は残る。
――それが、この事件の“影の証言”だ」




