第2話 灰色の推理
放課後の文芸部室に、夕陽が差し込んでいた。
机の上に広げられたのは、事件現場の見取り図――と言っても、ミナトの手書きだ。
線が歪んでいて、少し見にくい。
「つまり先生は、昼休みの五分前に職員室へ行って、戻ったら原稿が消えてた、ってことだな」
「そう。鍵を閉めたはずなのに、封筒が消えていた」
ユウマは頷きながら、部室の鍵を手の中で転がした。
銀色の鍵には、微かにインクの染みがついている。
「先生、この鍵は普段どこに?」
「ポケットに入れてた。あの日もそうだ」
なるほど、とユウマは小さく呟く。
部室の中をゆっくりと歩き、机の間隔を確かめるように見回した。
窓は二つ。片方はロック付きで開閉可能。もう片方は外れかけの古い木枠。
だが外は二階。飛び降りでもしない限り、侵入は難しい。
「じゃあ、犯人は部員の中にいるってこと?」
アヤの声が震える。
「そう決めつけるのは早い」ユウマは静かに返した。
「……この部室、毎日風通しが悪いだろ? だから先生、窓を少しだけ開けてた日がある」
先生が驚いたように目を瞬かせた。
「どうしてわかった?」
「机の上の紙の角が、いつも同じ方向にめくれてた。風の流れの癖だ」
ユウマは床の隅を指さす。
そこには、紙くずのようなもの――いや、封筒の切れ端が落ちていた。
「見ての通り、封筒は“破られた”んじゃない。誰かが“開けた”後、閉じずに外へ落とした」
「でも、鍵がかかってたら外から入れないよ?」
ミナトの問いに、ユウマは目を細めた。
「だから言ったろ。“封筒が自分で出た”って」
その言葉の意味を、誰も理解できなかった。
だがユウマだけが、窓の外に残る小さな糸の切れ端を見つめていた。
まるで、風に乗って飛び立った封筒が、誰かの手に導かれたかのように。




