第2話 色彩の影
翌日、放課後の美術室は昨日の事件の余韻を色濃く残していた。
夕陽が窓の格子を通して床に長い影を落とす。静かな室内には、わずかに絵具の匂いが漂う。
灰色探偵・ユウマは、回転棚の隙間や床に残る微細な痕跡をひとつひとつ確認していた。
ミナトと部長・早川サトルも、彼の後ろで静かに見守る。
「まず、棚の角度だな」
ユウマは手元の紙片を取り出す。そこには鉛筆で書かれた数字と記号が並んでいた。
「これは、棚を回転させる角度を示す指示だ。犯人は事前に動線を計算し、絵画を安全な場所に隠した」
サトルが眉をひそめる。
「でも、棚を回すだけで、どうして誰にも気づかれずに絵を動かせるんだ?」
ユウマは棚の側面を押してみせる。
微かに棚が回転し、隠し通路が姿を現す。
「ここだ。回転棚を使えば、密室を維持したまま絵画を移動できる」
ミナトが息を呑む。
「まさか、ここを通って絵を隠したのか……」
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ユウマは次に棚の裏を確認する。
微かに光る小さな鏡の破片が、彼の目に留まった。
「鏡か……」
彼は破片を手に取り、角度を変えて観察する。
「反射を利用すれば、絵画の位置をごまかすこともできる。目撃者がいても、そこに絵があると錯覚させられる」
サトルは床に落ちた絵具の飛び跡を指差す。
「これ、制作中の跡じゃないよね……?」
「おそらくは、動作の痕跡をごまかすための細工だ」
ユウマは静かに答える。
細かく散らばった絵具、わずかにずれた額縁、埃の流れ――
微細な証拠が、犯行の手口を物語っている。
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その時、ユウマはふと立ち止まった。
壁にかかる他の絵の角度が、微妙に揃っていないことに気づいたのだ。
「角度……」
彼は指で額の縁を軽く触れる。
ほんの数ミリずれているだけだが、それが心理的錯覚を作る。
見る者に「ここに絵はある」と思わせるトリックだ。
「なるほど……目に見えるものだけで判断してはいけないってことか」
サトルは感心したように言った。
ユウマは微笑む。
「密室は物理的な閉鎖だけでは成立しない。心理的錯覚も必要だ」
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その後、ユウマは床に残る足跡や埃を指差す。
「これが犯人の動線だ。微細な証拠は、逃れられない」
ミナトは小声で呟く。
「犯人は内部者だな……部員の誰か、しかも美術室の構造を熟知している」
そのとき、静かな足音が近づく。
藤井エリカが美術室に入ってきた。
「ユウマくん、もう結論出たの?」
その声は軽やかだが、瞳の奥にはわずかな動揺が見える。
ユウマはゆっくりと彼女を見つめた。
「君も、この密室の秘密を知っていたのか?」
エリカは視線を逸らす。
部屋に漂う緊張感。
微細な証拠は、すべて彼女を指し示していた。
ユウマは手元の紙片と棚、鏡の角度を示す。
「回転棚、鏡、絵具の飛び跡……読者もここで気づくだろう。密室の影に潜む犯人の存在を」
サトルは息を詰め、絵画の行方を想像した。
「黄昏の風景」は、いったいどこに隠されているのか――
ユウマは微かに微笑み、棚の奥を指差す。
「次回、全貌を明らかにする。犯行の手口、心理、そして真実の場所――
読者の皆も、密室トリックの結末を見逃すな」
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次回 第3話「黄昏の真実」
――回転棚の隙間、鏡の反射、微細な絵具の飛び跡――
巧妙な密室トリックと犯人の心理が暴かれる。




