第1話 消えた光の書
放課後の図書室。
窓から差し込む夕陽が、埃に反射して微かに揺れている。
図書委員長・桐生マイは、いつものように閉館作業をしていた。
机の上には貸出リスト、棚には整理された蔵書。
静寂に包まれた空間――だと思っていた。
「……あれ?」
マイが棚の一つを確認すると、目が大きく見開かれた。
――“光の書”がない。
その古書は、学校でも有数の貴重本。
通常は鍵付きの棚に保管されている。
今そこには、空っぽのスペースしかなかった。
「……鍵は掛かっているはず……」
マイは息をのんで棚の鍵を確認した。
確かに、鍵は施錠されたままだ。
窓も確認する。
すべて閉まっており、施錠されている。
図書室の出入り口も、巡回後に誰も触っていないはずだった。
そのとき、背後で小さな足音。
振り向くと、灰色の髪を揺らした少年が立っていた。
「ユウマ……! まさか……?」
「見たところ、盗難だな」
ユウマは冷静に棚を見つめる。
そしてゆっくりと指を棚の隙間に滑らせ、埃の跡をなぞる。
「……ただの盗難じゃない。密室だ」
マイの息が詰まる。
「密室……? どういうこと?」
ユウマは棚を一瞥し、淡々と説明した。
「扉は施錠され、窓も閉まっている。
外部から侵入した形跡はない。
だが、ここから消えたのは事実。
つまり、犯人は“密室トリック”を使った」
ミナトが肩越しに覗き込む。
「密室トリック……? そんなの、どうやって……」
「その謎を解くのが、俺の仕事だ」
ユウマの声は静かだが、鋭い。
その目は、図書室のあらゆる角を見渡していた。
⸻
棚の間に落ちている、わずかな埃の動き。
床に残る、微細な足跡。
そして、棚の隙間に差し込まれた小さな紙片。
ユウマはそれを手に取り、微笑んだ。
「読者のみんなも、この紙片の意味に気づくだろうか。
これが事件の鍵になる――」
マイが驚いた顔で言う。
「ユウマ……どうやって、この密室を……」
だがユウマは答えず、棚の奥を指差すだけだった。
――この古書の行方は、まだ誰も知らない。
そして、犯人の影も、静かに図書室に潜んでいる。
⸻
次回 第2話「密室の影」
――回転棚の隙間、鏡面の反射、映像の乱れ――
密室を貫く微細な手がかりが、灰色探偵の前に現れる。




