ゆいこのトライアングルレッスンB 〜小さなわがまま〜
街中でたくみを見かけた
二人組のキレイな女性と談笑していた
その光景になんだかムッとして、たくみに背を向けるとポケットからスマホを取り出し、画面にひろしの名前を表示する
『ねぇ、聞いてよ、たくみってばさ....』
そうひろしに言いつけてやろうと発信ボタンを押しかけた時
「たくみ」
たくみを呼ぶひろしの声がして瞬間的に振り向いた
そこにはたくみと2人の女性に笑顔で合流するひろしの姿
ひろし....?
たくみ....?
わたしはショックを誤魔化すようにくるりと踵を返し、早足で歩き出す
…..わかってる
ひろしとたくみはもう大人で、2人にはわたしの知らない生活があって....
いつまでも昔のまま3人でいられるわけじゃないことも、
2人がいつの日かわたし以外に大切な人を見つけてしまうことも....
わかってる!
わかっては....いる...けど....
あんな光景見たくなかった....
ねぇ、神さま....今日はわたしの誕生日だよ....?
今日じゃなくてもよくない....?
歯を食いしばっても込み上げてくる涙に視界が霞んでいく
と、突然わたしの両腕が誰かに掴まれた
「え....」
「ゆいこ!」
「あぶない!」
耳元で聞こえるひろしとたくみの声
と同時に、大きなクラクションを響かせて目の前をトラックが走り抜け、砂埃が混じった風を顔に浴びたわたしはびっくりして尻餅をついた
「ゆいこ!大丈夫か!?」
「たくみ?」
「怪我は?」
「ひろし?」
心配そうな顔でわたしを覗き込むたくみとひろし
いつもそう
ふたりはわたしのナイトだった
「....たくみ...ひろし....どこにも行かないで....」
「ゆいこ?どうした?」
ひろしが心配そうにわたしを覗き込む
「ゆいこ、どこか痛いのか?」
たくみの声も真剣だ
わたしは涙に霞む目をふたりに向けた
「誕生日なんて...祝ってくれなくていい。プレゼントだっていらない。だからお願い。....ずっと一緒にいて....ひとりにしないで....」
思わず泣き崩れたわたしをふわっとひろしの香りが包み込んだ
「何言ってるんだよ?俺らがゆいこをひとりになんてするはずないだろ」
「そーだよ。ゆいこをひとりになんてしておいたら何が起きるかわかんねぇのに...」
「誕生日だって...これからもずっとお祝いさせて欲しい」
「プレゼントだって、ほら、買って来たぜ」
「え、でも...さっきの女の人達は...?」
「女の人?」
「あぁ、二人組の?道聞かれただけ。向こうは逆ナンのつもりだったのかもしんないけど」
「ゆいこの姿が見えたから急いで追って来た」
話しながらふたりの手を借りて立ち上がる
「よし、ゆいこ、デートしようぜ」きゅっとわたしの手を握ってたくみがイタズラっぽく微笑んだ
「誕生日だしゆいこの好きなとこに行こう」
ひろしもわたしの手を自分の大きな手で包み込んでくれる
….この幸せがいつまで続くのかはわからないけど....
わたしは涙を拭いてふたりの手を握り返した
「大好き」
「ゆいこ」
「誕生日おめでとう」