5.旅路
リーシアで色々迷走しましたが僕は元気です
ガタガタと音を立てながら馬車が土と草でできた道をゆっくりと歩いて行く。
「さて、エリンさん。これからわたし達はシャカ国の首都『迦葉』に行きます。何か質問はありますか?」
あれから色々あった。
僕はリシアさんから僕のしたことや様子を聞いた後、村に戻った。どうやら村の人たちはリシアさんが全て倒したと思っているらしく、狂ったように歓迎され、祝われた。
リシアさん曰く、そうした方が都合の良いとのことだ。
「僕は…そうですね、全部……全部を知りたいです。魔法とか国のこととか、神様のこととか、…………それに、僕自身のこととか、全部が知りたいです、僕は」
「そうですか、わかりました。ではいくつか質問します。貴方は魔法とは何か知っていますか?」
魔法?前世のラノベの知識ぐらいしか僕は知らないぞ。
「魔力から魔法を発動させて、炎とか水とかを出すぐらいしか知らないんですが〜」
「そこまで知っているのなら問題ありません。魔法の発動には二つ条件があります。一つ目は貴方の言ったように魔力が大事です。元々人は生まれながら大なり小なり魔力を持っています。魔力量は生まれた時から変わらず、魔法の鍛錬は魔法の術式の理解力を高め、発動を早くすることが普通です。」
「生まれながらに持つって……僕も魔力を持ってて、もしかして、ま、魔法がつかえるんですかー!!」
魔法が使えるんだったらめちゃくちゃ嬉しい。二次元大好きの元高校生が魔法使えたら厨二心をくすぐられる。
「いえ、おそらく使えません。」
「え!そんなーー、ぬか喜びさせないでくださいよーリシアさーん、うぅ」
「ああ、すみません、まだ決まったわけではないのです!もし貴方が神であるならば魔法を使うことはできませんし、そしてわたしの見解では貴方は神なんです。あの闘い方は明らかに人のものではない。そして貴方とは別の人格の者が攻撃する際に『御業』とはっきりと言いました。それこそがわたしの確信です」
「御業ってなんですか?技の何かなんですか?」
「技ではありません『御業』です。御業とは神が使う魔法のようなものです。奇跡の実体化など様々な言い方がありますが、とにかく凄まじい力があるのは確かです。ひとまず、話を続けます。――二つ目の魔法の条件、それは」
「「詠唱!!」」
ハモった。
「そうですエリンさん。詠唱です。詠唱はわたしのものを聞いていましたね。それです。」
「アルヴィスなんとかとか言ってたやつですよね。」
「詠唱は通常、長ければ長いほど基本的に魔法は強くなります。発音や早さ、言葉の正確さ、その全てが完璧であるほど魔法は綺麗に発動します。もしどこかにズレが出れば、魔法は暴発します。魔法にもよりますが魔力を多く使う魔法であれば、暴発した時に術者が死ぬことも少なくありません。だからこそ魔法学校などでは共通魔法などの短文詠唱の簡単な魔法を扱います。」
つまり、強い魔法は難しいし、失敗した時も危なくなるのか。
「それで結局、僕は魔法を使えるんですか?」
「今からそれを確認します。人の属性を見る魔法は難しいですが、わたしなら可能です。本来は機械を使うので真似はしないように。」
リシアさんは馬車の手綱を離し、僕の額に右手を当てた。
「えっとーーー、これでわかるんですか?」
「いいえ、これからわたしが魔法を使います。これは共通魔法の中で最も難しい超長文詠唱の魔法です。…………だから、その……気を散らさないでお願いします。わたしも得意というわけではないので」
「さっき難しい魔法は死ぬ可能性があるって言ってませんでしたか!」
「だ、大丈夫です、わたしはもし暴発しても死なないぐらいには頑丈ですので…………はい、」
「いや、僕は!」
「………………」
「リシアさん!!!」
「何かを欲すれば何かを賭けよと誰かに聞いたことがある、…………つまり…………がんばり……ましょう、」
「リシアさん!!!!」
「と、とにかく始めますよ!」
リシアさんはそう言って、無理無理詠唱を始めた。
「【魔力、それ即ち、世界樹の残穢。】【魔法、それ即ち、御業の真似事。】【御業、それ即ち、奇跡の体現。】【世界樹、それ即ち、世界の源。】【神、それ即ち、柯の葉。】【人、それ即ち、源水。】【生は始まりを謳い、白く光輝き、命を与える。】【火は終わりの見えぬ不滅の化身、赤く子らを照らす優和の光。】【水は全てを守り、感じる慈愛溢れる清く蒼い光。】【風は切り裂き、前と行く神速の緑を纏う攻の化身。】」
リシアさんが謳うと僕を、いや右手を中心に一つずつ白、赤、青、緑と色の違う魔法陣がゆっくりと公転する。
それをするリシアさんはというと二つほどの汗を流しながら真面目な顔で文字を言う。
素人からしてもリシアさんはすごい人だとわかるほどだ。
まぁ、失敗したら僕は爆散するんだけど……
「【土は世界樹の元であり、模造の物、それ扱うはその者次第、かの褐色の光に幸あることを。】【死は全ての終わりして、無の始まり、黒き光は何を生み出す。】【生で始まり、死で終わる、それ転じて、死で始まり、生で終わることの永遠昇華。】【かの者は何を愛すのか、その道の光は人生の光。笑い笑い、狂え狂え、それこそ神越の道は開かれる。】【我が母、世界樹よ、我らにその道の始まりを与えたまえ。人は神であり、神は人。】【我が名はリーシア】【ヴァルグレイス・マニフェス・ガイア】!」
瞬間、右手を中心に回っていた6つの魔法陣がリシアさんに集まり、僕の頭へと流れていく。そして僕の心臓が目の開けられないほど輝きだした。
「うわ!これって!」
「これからその光が貴方を調べ、一色にひかります。もし何もなければ光は消えます。さあ、どうなるのか」
光は徐々に弱まっていき、光がなくなろうとしてきた。
「やはりありませんか、気にしないでくださいエリンさん。これはすごいことです。貴方は神だということですから。」
「いや、できれば魔法使いたかったですよぉ〜〜、なんでだよーー」
光が完全に消えようとした時、光は一気に光を増した。
「「え!」」
二人で驚いた後、光は白く輝きだした。
「これって、もしかしてリシアさん!」
「信じられない。貴方はどうやら人でも神でもあるようだ。本当にこんなことがあるとは!本当に貴方はわたしを驚かしてばかりだ」
「それでそれで僕って魔法使えるんですよね!!」
「え、ええ、使えると思います、……貴方が魔法を使いたいと強く願えば世界樹から詠唱を教えてもらえるはずです。しかし白色とは…………、生魔法とは珍しい。」
「生魔法って強いんですかリシアさん!もしかして伝説の選ばれし魔法だったりー!」
「いえ、生魔法は身体強化や治癒専門の魔法です、わたしも生魔法の使い手は知っていますが、その人は強いには強いんですがーー、そのーー、………………」
「なんです?」
「魔法で攻撃とかはせず、強化だけに使って拳で殴っていく人なんです。……なので貴方が想像するような炎や水を出したりすることはできません。」
「…………えーー!そんなのって、そんなのってー」
脳筋のゴリゴリ野郎しかなれないってことーーー!!!
「で、ですが使えないよりは全然いいと思いますよ。まぁ差別というか冷遇される魔法ではありますが」
フォローになってませんよリシアさーーん。(泣き)
「これから頑張りましょうエリンさん。首都まで1ヶ月はかかりますし、その間にわたしが教えますから。」
「え、一ヶ月もかかるんですか!!でも前にこの国の王様のシャカ様?は半日で着くと言ってませんでしたか?それにこの馬車以外と早いですし。」
「いえ、それは釈迦様がおかしいだけです。あの方を基準にすると自尊心とか常識とか全て無くなるのであまり気にしないほうがいい」
時速50キロ弱は出る馬車で一ヶ月かかるのを半日ってどういうことだ!
えっと、1日十二時間移動するとして1日に600キロは進める。それを30日だから〜〜〜………………18000キロ!!道がまっすぐではないにしても長すぎでしょ!
シャカって人、音速超えてるんじゃないの!!
「そんなことより見えてきましたよ、エリンさん、最も東に位置する商業都市ハウルが、」
と、僕は驚いている間に初めてこの世界の都会へと足を踏み入れた。