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双神・人伝説  作者: 安堂遼介
第一章『シャカ国編』
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4.黒雷とリシア


「【永久(とわ)の炎、彼岸の花束、()は聖火を灯す者。非業の死を光に、憎悪を糧に、我は全てに報いる者。汝に不消の羽衣を纏わせたまえ】【アルヴィス・バファス】」


 炎を固体化させ、斧と槍を一体化させたハルバードを手に空を飛ぶ。

 堕天使ーそれはアルカンティアの天使の成れの果て。堕天使との戦いは至極単純だ。腕っ節が強いやつが勝つそれだけ。

 天使はそもそもアルカンティア………いやこれからは天界と呼称しましょう、天使は天界を維持したり神々の娯楽や世話をするために作られた魔力の塊です。よって意思と呼べるものは無く、生物と言うより精霊や植物に近い。

 だからわたしは世間が言う「天使は天界で犯罪をして堕とされる」というのはあまり信じていない。考える力がない者が犯罪をするのは違和感があるから……。


 前方に7体の下位堕天使、、切る!!


「はあっ!!」


 体を回転させ、刃を敵に突き立て三体をまず両断し、左足で一体頭を潰し、また3度力を振るい残りを焼き切る。


 キエーー!!

 ギェーーーー!!!


 仲間がやられたことに興奮し、堕天使の意識がこちらを向く。やはり多い。さっき倒したのを下位だけ、上位となればそう簡単には倒せない。半年早いせいか、いつもよりも上位は少ないが、やはりわたしだけでは無理がある。

 ほぼ確実にわたしは死ぬことになるだろう。

 だが!やらないといけない!できなけばならない!この国はわたしが守る! おじ様に繋ぐんだ!


 ピリッとした音が聞こえた。なんだろう?後ろを振り向けばありえないことが起きていた。


『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…………』


 何が起きているのかわたしのような愚者にはわからなかった。…エリンさんが人が変わったように気配が変わり、口調も声も変わってしまっている。そして彼の纏うこの感じ、電気ですか! いや帯電しているのか!人の体で!


 エリンさんの体からは黒い稲妻がビリビリと溢れ、遠くまでその磁気を感じる。 凄まじい電力、こんな力を持っていたとは、何故いままで隠していたのか?いや本当に使えなかったのか!わからない、でもエリンさんは少なくとも正気じゃない。どうすれば……

と考えていたとき、エリンの殺気が急激に高まった。

 彼は危険だと体の細胞が叫ぶ。

 体は条件反射するようにエリンを最優先とする。

 私は魔力を高め、鎧を熱くし、拘束魔法の詠唱を始めた。


「【炎の荊、その肌は人を恐れ刺す】【吾は魔に忠義を称えし聖女。縫い止めろ】【ソーン・アビス】!」


 しかし上位でさえ丸3日拘束する魔法は結局、意味をなさなかった。

 炎の荊が触手のようにエリンを包み込み縛り抑えようとしたとき、エリンは一度の瞬きの間に荊を切り裂き、私の視界から消えた。

 気づいた時には黒い雷は私の左肩を切り裂き、後ろにいた百前後の堕天使を全て両断し、鏖殺していた。


「くっ!いつ間に!見えなかった。貴方は本当にエリンさんなのですか?」


 朝に見た無害で無垢な青年は一人であるものの堕天使の群れの危険度を大きく超えている。堕天使が死ぬ時に発生する魔力の霧が充満し、鼻を腐った葡萄のような匂いが刺激する。


「エリンさん!聞こえていますか!わたしがわかるか!わかるなら返事をしなさい!わからないなら………少し強めに殴ります!……だから、……耐えてください……貴方が男だというのなら」


『ア゛ァーーーーーーーーー!!!』


「叫ぶことしかできませんか、エリンさん!わたしが躾をしてあげます!」


『オレノ邪魔ヲスルナニンゲン、オレハ(カタキ)ヲウツ。ソレ以外ヲ殺スツモリハ無イ。モシ貴様ガ邪魔スルノナラ、(テキ)ト判断スル。』


「喋ることができるのですか!そうですか……、貴方はやはりエリンさんではありませんね。貴方はなんなのだ! 答えろ!」


『オレモワカラン。コイツハタダオレノ体ニ居候シタ別の魂ダ。不愉快コノ上ナイガ…………話スギダナ、貴様ハ…………殺ソウ。ソノ方ガ楽ソウダ。』


 魂が同じ体に二つ存在する?そうなことがあり得るの! でも嘘をついていない。…………わからないことが多すぎる。


『オレノ名ニ応エロ、ケラノウス』


 エリンはそう唱えると右手を突然できた亜空間に突っ込み、光沢を帯びた名工であろう短剣を取り出した。短剣はドス黒く染まっていき、周りを跳ね回る雷が吸収し始める。

 まるで彼を中心に嵐が起こっているようだ。

 そして集まった雷は短剣の周りを激しく巻くように移動する。


「これは、吸収というよりも、、蓄電ですか! まずい!逃げなければ!」


『収束セヨ、我ガ眷属。御業(みわざ)解放、『雷神』!』


 短剣に溜まった雷はエリンを包み込み、体はより黒く染まり、より黒く輝く。それはまるで人の形をした隕鉄のように。

 きれぃ…… 油断はしなかった。それなのに

 気づいた時には地面に背中をめり込ませていた。


「が!」


 蹴られた!体が痺れる!いつのまに!血の味がする!早すぎる!上位なんて力じゃない!



……落ち着け!!わたしはリーシアだ。この程度でへこたれるな、武器を持て、魔法を唱えろ、堕天使を滅し、エリンさんも正気に戻す。それがわたしのやるべきことだ!

 気を引きしめ、立ち上がったわたしは想像もできない光景を目にした。


「堕天使たちが…自殺している!」


 なんと堕天使たちが自らの手で首を貫き、消滅していっていくのだ。

 どうやらエリンが雷を細かく分け、そのか細い雷が堕天使に当たった瞬間,自殺を始めるようだ。


「まさか神経系をいじっているのか!」


『死ネゴミドモ』


 理屈はわかる、でも相手の体の内部まで作用する魔法は存在しない。元来、魔法は使用者の体とその周りの空間や無機物にしか反応しない。 人の体の中は複雑すぎてすぐに魔法の術式が崩れてしまうのだ。

 完全に閉じた箱の内側を開かずに絵を描けるか?描けないだろう。それと同じだ


 なのにあれはちゃんと機能している。そんなの神の御業でもない限り…………、いや待て。まさかエリンは神なのか!おじ様以外に天界を降りた神なんて聞いたことがない!もしそうだとしてもいることがおかしい。何故、天界から降りれるのか、、

 不明な点が多すぎる!だがやることは変わらない!


「【アルヴィスの炎、それは不滅の聖火。】【アルヴィス・ハンス】」


 わたしの魔法【アルヴィス】は時間が経てば経つほど熱く、早く、強くなる。だが、代わりに体が熱くなりすぎて、行使し続ければ命に関わる。今のわたしだったら二十分も続けたら気を失って倒れてしまう。その前に早く……


「こっちを見なさいエリンさ……、いやわたしは馬鹿か!」


 今さっき一瞬でやられかけた相手だぞ、まだ五分ほどしか経っていない弱いわたしでどうにかできるわけじゃない。 落ち着け!幸い彼の相手は堕天使がしてくれる。それまで限界まで熱を上げなければならない。そうするしかない!


 わたしが強くなるまで待っている間、エリンさんとは別の人格を持つ神は堕天使相手に圧倒的なまでに虐殺を続けていた。


『オレノ視界二入ルナ、クズノ奴隷ドモ。『破雷』』


 彼から出た膨大な電気は巨大な雷霆へと変化し、放たれ、直線上の敵を全て消滅させる。


 堕天使は何もできず、ある者は自殺を強要され、ある者は雷に撃たれ消滅する。

 まさに地獄絵図である。

 それが十分ほどした時には周りから堕天使はいなくなっていた。


 そろそろだろう。やってやる。


「貫け【クリムガン】!」


 炎が槍となって相手に向かう。


 だがそんなわかりやすい攻撃はすぐにかわされる。


「わたしを気絶させるつもりだったかもしれないが、わたしはまだ立っている。わたしと勝負だ!」


『マダ気ヲ保ッテイタカ、殺シタクナイノダガ、……仕方ナイ。殺スカ』


「できるものならやってみなさい!」


 高く跳躍し、炎のハルバードをエリンに叩きつける。右から下から、武器を振るっては短剣がそれを向かい打つ。


「エリンさん!いや貴方はなんだ!何がしたい!どうして堕天使だけを殺そうとする!」


『オレハエリンダ。ソレ以下デモソレ以上デモナイ。ソレニオレハ堕天使ダケヲ殺スノデハナイ。神ヲ全テ殺ス、殺シテ殺シテ殺シツクス。ソレダケダ』


「そうですか、、やはり少し痛い目にあった方がちょうどいいですね。…………もう貴方はわたしを止められない!!」


 素早く移動して視界から消え、後ろから切り裂く。


『クッ、先刻トハ速度ガ!小癪ナ。御業最大神力!消エ去レ邪魔者、』


 今までと比にならない天災のような黒雷がまた短剣に集まりそして一気に放たれる。どでかい雷霆がわたしを消し炭にしようと向かってくる。これはさすがに避けきれないって……………………まぁそれを待ってたのですが……。


 わたしの炎は1日に一度だけある特性がある。それはあらゆる事象を自らの炎の燃料にすること。それは攻撃にも適応される。

 すなわち一回だけなら敵の攻撃を自分の力に変える!


「【燃え光れアルヴィス。】【アルヴィス・ヘルン】!」


 雷は炎へと変わり、ハルバードは凄まじい速度で肥大化し、空を覆うほどの戦斧となっていく。


『ドウイウコトダ!!先刻トハ動きが違ウ!早過ギル!』


 確かに最初のわたしだったら、最初の斬り合いですでに負けている。

 だがわたしの魔法は身体能力や動体視力も活性化させる。

 わたしは元々単体相手向きだ!

 この程度で負ける道理は……ない!!!


「貴方の力、使わせてもらいます」

 

『ナ!オレノ御業ガ、吸収サレ、イヤ燃ヤサレテイルノカ!ソンナ馬鹿ゲタ斧ヲドウスル気ダ!』


 炎斧(えんぷ)は肥大化を続け、果てには空に覆い被さるほどまで大きくなる。


「どうするとは心外です。わたしがここまで準備したもの、用途など分かり切っている。 大人しくわたしにエリンさんを返してください。 それができないなら…こうするだけだ、はぁあ!!!!!」


 雲のような斧をリーシアが振りかぶる。避けることが馬鹿らしくなる斧はエリンを捉えた。摂氏2000度はあろう炎は彼を焼く。


『ウオォーーーーーー!貴様ゴトキニオレガ負ケテハ母上ノ敵ヲ取レナイ!負ケテハ…ナラヌノダーー!フザケルナヨ小娘ェー!!!』


「貴方もたくさん事情があるかもしれないが、とりあえず可愛げのあるエリンさんに戻り、なさい!!」


 斧はエリンを押し込みながら地面に押し付け周りを激しく吹き飛ばしながらクレーターを作る。土石流のような残骸の中でエリンは夢から目を覚ました。


「大丈夫ですかエリンさん、生きてますか?」

 

「あ!そうだ。天使たちは、堕天使たちはどうなりましたか、…………リシアさん?」


「そう、やはり覚えていませんか、ちゃんと聞いてくださいエリンさん。ヒンメルフェアディニスは、…………ディニスは………………」


「なんです?」


「………………………………エリンさん、貴方自身が全て殺し尽くしました」



「………………………………………………………………は!」


 

 


 

諸事情でリーシアの口調を大きく変更しました

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