3.起こり
目が覚めると僕は貴族のような豪華な部屋で、羊毛と絹で作られたであろうキングサイズのベットの上を横たわっていた。
するとそこに金色の男らしい髪型をした筋肉質のしっかりとした体を持ち、笑顔に活気がうるさいほど籠る男性と透き通るような銀髪を肩ほどの長さでたなびかせ、サファイアのような誰もが虜になるような美形を持つ女性が部屋に入ってきた。
「おお!起きたかエリン。今日もとことん鍛えてやるからな覚悟しておけよぉ」
「やめなさいアナタ、エリンちゃんが寝込んだ理由だってアナタの特訓が厳しすぎたからでしょう。まだ10歳なのですから強くなる必要なんてありません。ねーエリンちゃん?」
「だがなー、イオ。俺が10歳の頃なんか龍の一つや二つ軽く屠っておったぞ。なのに今のエリンといったら天使の一匹に手ごずるほどだぞ。これでは俺の相手ができるのは、いつになるか…」
「相手がなんだってクソ旦那!また私に細切れにされたいの!」
向日葵のような笑みがいきなり針山のような顔に変わっていった。その変化の格差はギャップ萌えの域を超えて恐怖が圧倒してしまう。
その顔と言葉で貫禄のある男性も後退りするように声に覇気がなくなり、冷や汗をかき始めてしまう。
「いや、冗談だイオ。そ、そんな息子を自分の手合わせ相手になんてするわけないじゃないか、、 な、そうだろ? 君のような美しい妻の言うことを破るわけないじゃないか。なーエリン」
男の人の「助けてくれよ」という視線をよそに美人な女性の顔は一層険しくなっていく。なんだが第三者としてみると逆に面白くなってきた。
そしてわかったことといえば、この二人はエリンの両親で、母親の名前はイオということ。またこの記憶は体の持ち主であるエリンの昔の記憶ということだ。
何年前の記憶かはわからないが僕がこの世界に来た原因がわかるかもしれない。
それに男の人に少し違和感もあるんだ。なんとなくなんだけど男の人は人っぽくないんだ。人を美化しすぎているような気がする。
もちろん顔でいったらイオさんの方が美しいが、なんとなく血の気が良すぎるというか健康すぎるというか人としての状態が完成しすぎて人っぽくない。
まぁその違和感の原因はすぐわかったんだけど
「邪魔するぞ」「お、お邪魔します」
扉をノックしたあと、また人っぽくない人が二人入ってきた。一人は深い青色の髪?を持った長身の男性、そしてもう一人は漆黒の髪を紐で束ねたスラっとした体で女性だと言われても間違えるかもしれないような美形の男性。二人とも前世だったら世界をとれるような顔をしている。
「お前らも来てたのか。待ってたぞ、はは」
男は大笑いしながら二人の肩を叩き、迎え入れた。
「お兄様と呼べ、愚弟。お前の妻が可哀想でならん」
「お、お兄ちゃん、久しぶり。エリンは元気?」
黒髪の人は強く、威厳のある言葉を使い、青髪の人は人見知りなのかおどおどとした口調をしている。
「あ、お義兄様たち。いらっしゃって光栄でございます」
イオさんがワンピースの裾を持ち、軽くお辞儀をする。
「うむ、こちらも礼を言うイオ殿。エリンが目が覚めた気がしたのでな、冥界から遥々やってきた。まぁついでに海にも行って末弟も回収したがな」
「兄ちゃんのせいでお土産も用意出来なかったじゃないか。次こんなことしたら冥界にリューちゃんを突撃させるからな。もうしないでくれよぉ」
「お前のペットの大蜥蜴のことか?やるならやってみろ、我のバイデントで串刺しにしてやる」
この人たち、仲がすこぶる悪い気がする。
「はぁっはぁっはー、そんなことがあったら俺も混ぜてくれ。全員まとめて半殺しにしてやる」
「「あぁん!やれるのもならやってみろ」」
いや、前言撤回。この兄弟は気持ち悪いほど息がぴったりだ。
「さーて皆さん。兄弟揃って騒ぐのはいいですけど、エリンちゃんが起きたばっかりなのでこれ以上騒ぐなら私が力ずくで追い出しますよ。ふふふ」
軽く笑った顔には一ミリも陽の気配がなかった。……怖すぎ……
「む、すまなかったイオ姉。エリンもごめんな」
「我も謝罪するイオ殿。エリンよ、許してくれ」
あんな荒ぶってる二人を一言で謝らせるなんてイオさん何者!?
「がっはっはー、さすがは俺の嫁だな」
「はぁ〜、お前は言える身分ではないぞ、愚弟。またあの西のクソガキがいざこざを仕掛けて来たようではないか。あの性格で、しかも人間に似合わぬ力を持っている。どうにかせんとまた修復で10年は浪費するぞ」
黒髪の人がキレ気味に金髪の男性に忠告を挟む。クソガキって誰だ?
「そこは大丈夫だ。釈迦に頼べばなんとかしてくれる。あいつめっちゃ強いんだぜ」
「あのイオ殿の兄か。正直あやつも人ならざる力を持っている、むしろあやつはもう人と言うより神に近い。人にはイレギュラーが多すぎる。故に我は好かん。…あ、もちろんイオ殿は別だぞ」
「いいじゃねーか。だから面白いんだからさー。あいつ、多分もっと強くなるぜ。もしかしたら俺たちよりも…」
「無いと言い切れんのが怖い所だ。 せめてもっと威厳を出せ!」
「愚弟、お前は『全能神ゼウス』だということを努々(ゆめゆめ)忘れるな」
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「…きろ、…サイ、起きなさい!エリンさん!目を覚ませ」
頬を伝わる冷たさとかっこいい女性の声で夢から這い出た。 は!ここはどこだ。それになんで泣いて、確か何か賑やかな夢を見ていて、気づいたら覚めてて、…クソ!記憶があやふやだ。
「あ!そうだ。天使たちは、堕天使たちはどうなりましたか、…………リシアさん?」
リシアさんの顔は傷だらけで肩には見るに耐えないような深い切り傷がある。
「そう、やはり覚えていませんか、ちゃんと聞いてくださいエリンさん。ヒンメルフェアディニスは、………… ………」
「なんです?」
「………………………………エリンさん、貴方自身が全て殺し尽くしました」
「………………………………………………………………は!」