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 ~side 神聖帝国コンファールト~


 吾輩は宰相のニャンガンである。

 毎日毎日書類仕事をするのが吾輩の役目である。

 この職に就いて20年、そろそろ国の名前を変えるべきではないだろうか。


 《神聖帝国コンファールト》


 しかし・・・

 我が国は神聖でもなければ、帝国でもない。コンファールトでもない。


 《神聖》とは普通は宗教国家である。そして宗教のトップが政治を行うのである。しかし、我が国は他国出身の貴族が王様である。宗教とは無関係なのである。

 《帝国》なのにトップは王様である。もはや帝国と名乗ってはいけないのである。

 王様は北方のララサーバル王国出身で《コンファールト》とは無関係なのである。

 サッサと国の名前を変えた方が良いのである。


 じゃが、この国を動かしている貴族は考え方が斜め上なのである。


 コンファールトと関係ないなら、コンファールトと名乗る街や地域を全て併呑すれば良い。

 複数の国家を支配すれば帝国と名乗れるので、周囲の11の都市国家と23の氏族を併呑すれば良い。

 神聖さが足りないなら、併呑した蛮族共の神を焼き払い、統一宗教にすれば良い。


 無茶苦茶なのである。

 自国の名前を守る為だけに、侵略戦争を繰り返しているのである。


 大義名分の無い戦争であっても費用は必要なのである。吾輩は毎日書類と戦い、無駄な戦争の費用を捻出しているのである。

 もう諦めて、国の名前を変えた方が良いのである。




「宰相閣下っ!!! ニャンガン殿、一大事でごじゃる!」


 伝令が騒がしいのである。

 そういえばエルフの村にクロース騎士団長率いる100人の騎士が出陣中なのである。奴らは騎士と言っても貴族の次男や三男を集めた部隊、規律を守るような頭は持って無いのである。

 どうせいつものように、道中で街娘を誘拐したのであろう。自重も我慢も出来ない者を出陣させるのは勘弁して貰いたいのである。尻拭いをするのは吾輩なのである。

 いつも通り、宰相の力で揉み消せという話を持って来たのであろう。


「クロース騎士団長討ち死にでごじゃる!!!」


「ちょっ、えぇっ?・・・・・・えぇぇぇぇ?」


 クロース騎士団長が死んだ?

 意味がわからないのである。

 腕っぷししか能が無いクロース騎士団長が死亡した。まだ、部下たちの謀反により殺害された方が納得できるのである。

 討ち死にと言う事は、敵と戦って死亡したのであろう。戦いしか能が無いクロース騎士団長が敗北したのであるか?


 吾輩に事態を伝令した者も、理解が及んでいないのか「私に聞かれても困る」という表情をしてるのである。


「エルフの里から逃げ帰って来た騎士団の一人を連れてきたのでごじゃる。詳しい事はその者から訊いてほしいでごじゃる」


 騎士団長に勝てるエルフはいないのである。たぶん自然災害に巻き込まれたのであろう。

 この前は、台風で増水し濁流となった川で水泳の特訓をしておった。騎士団長は戦い以外ポンコツなのである。



 執務室に連れてこられた兵士は、酷くオドオドした様子。精神的なショックを受けたようにも思えるのである。


「わ……我々、騎士団は……無事、エルフの里に、到着し……クロース騎士団長、の、指揮の下……里を、包囲、しました」


「ゆっくりで良い。続けるのである」


「と……当初、作戦は、順調、でした。逃げようと、した、女、子供を、捕まえて、脅し……男どもを、里の中心に、集めて、から、皆殺しに、しました」


 人質を使っての皆殺しとは、卑怯・・・いや、効率的な作戦であるな。


「女エルフ、以外は……全員、串刺しに、しました。そ、その後、里に、火を、放ち、ました」


 殺したあとに見世物にするとは、相変わらずヘドが出るような作戦である。


「そ……その時、森の、奥から……砂色の、巨人が、現れ、ました」


「巨人であるか?」


「ひ……人の、形を、してたが……人では、なかった」


 人では無いとは、どういう意味であるか?


「きょ……巨人は、騎士団長の、槍を、平気で、受け止め……馬から、落とすと……踏んずけて、殺しちまった」


 巨人が騎士団長を踏み殺している間、兵士たちは加勢せずに見ていたのであるか?

 いまいち、要領を得ない説明であるな。


「そ……その後、巨人は、腕から、火を、噴くと……遠くの、兵士が……血を、吹いて、死んじまった」


 ふむ。

 遠距離からの呪いであるか。

 じゃが、呪術が使える巨人には心当たりが無いのである。


「か、雷の、ような、音が、して……何も、考え、られなく……なっちまった」


 広範囲の呪術も考えられるが、単独で使える者など居ないであろう。

 じゃが、気の狂った兵士の虚言とするには尚早であるか。


「うむ。わかった。下がって良いのである」


 敵の正体は、全く検討も付かないのである。

 呪術が使えるなら魔法も使えるであろう。

 巨人であるならオークやサイクロプスのように近接戦闘も得意であろう。

 トンデモない化け物という事だけは、わかったのである。


「勇者を! この国で一番の勇者を呼ぶのである!!」



 勇者とはこの国に住む人間の中で、最も多く《蛮族》を殺した冒険者に与えられる称号である。

 評価基準は蛮族の英雄を殺した数であり、人格や身分は一切考慮されないのである。

 つまり国家公認の《殺戮者》である。

 殺した蛮族の首をぶら下げていても、誰もその行動を咎めるものはいないのである。

 勇者の行動は、どんな奇行であっても、物理的に止める事が出来ないのである。


 宰相である吾輩の仕事は勇者がヤラカシた不祥事を揉み消す事である。

 貴族の娘を拉致したり、隣国の姫を強姦するなどは日常茶飯事である。

 勇者が立ち寄った街で流行病が発生し、街が地図から消える事も有るのである。


 エルフの里に現われた化け物と共倒れになってくれる事を願うのである。



 本日は、クロース騎士団長の弔い合戦という建て前で、勇者の出陣セレモニーを行う事になったのである。

 セレモニーが終わるまでは問題を起こさず、出陣して欲しいのである。


 そう言えば、騎士団長の経緯を勇者へ説明した時、気になる事を言ってたのである。


「こいつは当りかもな。鉄人かもしれねぇ」


 鉄人が何なのか吾輩は知らないが、勇者の意識がその鉄人に向いているなら問題を起こす可能性は減るであろう。



 布で飾られた壇上で、勇者が何かを演説しているのである。気持ち良さそうに壇上から集まった群衆へ何かをホザイているが、吾輩の耳には耳栓が入ってるのである。

 マジで、化け物と相撃ちで死んで欲しいのである。

・・・はぁ。天気が良いのである。勇者の尻拭いを誰かに押し付けたいのである。

 ・・・はぁぁ。あの雲は吾輩のような悩みなんて無さそうなのである。

  ・・・はぁぁぁ。空を飛ぶ鳥は気持ち良さそうなのである。

 ん?

 あの鳥は何であるか?

 羽根も無く、光ってるように見えるのである。


 次の瞬間、その鳥は真っ直ぐに勇者がいる壇上へ突っ込んで行き、轟音とともに勇者を肉塊へと変えた。




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