-04-
兵士の遺体のおかげで、重症だった女性エルフたちは回復した。
死んでから他人の役に立つ兵士というのも、なかなか業が深い奴らだ。
しかし、檻に入れられていた全ての女性エルフを救えた訳では無い。薬を作ってる最中に死んでしまう重傷者もいた。仕方が無い事として諦めは必要なのだ。
意外だったのは、子供や夫の遺体を薬の製造に使ってくれと懇願された事だ。エルフの倫理観は、いい感じにぶっ壊れてるようだ。
ロボの体になった俺が、倫理観を解く事の方がオカシイとは思うけどね。
生き残ったエルフは若い女性ばかり。さっきまで檻に全裸で入っていたのだ。まだ半裸の者もいる。
眼福、もとい、目の毒だ。
俺が人間の体を持っていたら、確実に前かがみになっていただろう。
家と一緒に服も燃やされたから、未だに半裸の者がいるのかな。
住む家が無くなったのは今後の生活に大きな影響が出るだろう。
“衣”と“住”はOUTだけど“食”はどうなんだ。
「マキよ。村の食料はどうなっている?」
「はい。家畜は殺され、麦は焼かれました。共同の備蓄倉庫も燃えました」
はあ?
あの兵士たちはアホなのか?
食料は燃やさずに盗んで売った方が金になるだろう。
住民がゼロになる予定の村の食料をワザワザ燃やす意味が理解出来ないぞ。
とりあえず、ステータス画面をポチポチして食料品が作れないか探してみるか。
どうやら、雑草や木や川の水を素材にパンが作れるらしい。
美味しいかどうかは別にして、餓死だけは回避できそうだ。
今日の兵士たちは、また攻めて来るのだろうか。
俺はマキに村を攻めてきた人間たちの事を詳しく聞くことにした。
あの様子では交渉できそうな連中とは思えない。世界の安全の為にサクッと滅ぼした方が良いのかもな。
だけど奴は、俺の事を“蛮族の神”と呼んでたような気がする。
俺と言うよりも、俺のボディの事を言ってると思うけど、俺の現在の立ち位置がわからない。
「マキよ。“蛮族の神”とはなんだ?」
「おおぉぉおお恐れおおぉぉ多く、ももうぅしあげますすぅぅ!」
えっ?
いきなり土下座?
もう困惑しかないよ。この状況をどう理解したら良いんだよ。
「鉄人様が眠りについた後、エルフはヒトとの戦いに敗れました。今や辺境に極僅かな人数しかおりません」
マキさん。土下座のまま話を続ける気ですか。
情報が貰えるなら、俺としては気にしないんだけどね。
「鉄人様を奉る者は、もはやエルフとドワーフのみ。ヒトに至っては“蛮族の神”と口からクソを垂れる所業にございます」
よくわからないけど、俺は人間から敵視されてるって事で良いのかな。
俺が安全に暮らす為には、人間を絶滅させないとダメなのかぁ。元人間の俺としては、出来れば友好的に接したいんだけど・・・あの兵士たちを見る限り無理っぽいね。
「マキよ。ヒトが住む国の名と、場所はわかるか?」
「はっ。地図が御座います! 国の名は神聖帝国コンファールトと言います」
地図を持ってるなんて用意がいいな。
フムフム。
これって地図と言えるのか?
幼稚園児のお絵かきと大差ないぞ。
川の形と位置から推測して、下流の西の方かな。方角も曖昧だけど、距離に至っては推測すら出来ない。
「うむ。良く描けた地図だ」
中世の文化レベルに、航空写真のような地図を求めた俺が悪いよね。
「鉄人様は神聖帝国コンファールトに攻め込まれるのですか?」
「う、ウム。そ、そう、だな」
「女子供に至るまで全てのヒトを焼き殺し、奴らの文化も歴史も全てを灰にしてくださると!?」
そりゃあ、ドコの比叡山だよ!
この世界はヤベー奴しかいないのか?
神聖帝国コンファールトもヤベーけど、マキの思考も相当ヤベーぞ。
「ま、まぁ・・・な」
土下座しながら話すマキは目立っていたのだろう。俺に注がれる周囲からの視線を感じた。
未亡人エルフたちが、期待と歓喜の目で俺を見つめている。
村に来た兵士たちの罪は、同胞の子孫にまで及ぶのか。
それがこの世界のルールだと言うなら、自分の撒いた種なんだから甘んじて彼らも受け入れるだろう。
俺の場合は存在が敵視されるという理不尽極まりない理由なので、ルールなんて無視するけどね。
俺、対、神聖帝国コンファールトの残虐非道の無制限デスマッチだ。