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~side 神聖帝国コンファールト の付近~
吾輩は“元”宰相のニャンガンである。
20年勤めた神聖帝国コンファールトの宰相の職をステルス辞職して、首都を出たのである。
今は首都が一望できる場所から、最後となる光景を見ているのである。
首都の周りには3万を超える兵士が押し寄せて来てるのがわかるのである。
会議では、聖'sノール軍の出発は吾輩が伝令をする役目になってたのである。
しかし、吾輩が今、ここに居ることで、誰も出発出来ないのである。
決して職務放棄では無いのである。
戦いが始まったら、この国は滅亡するので、これは吾輩の優しさなのである。
それに吾輩は辞職した身なので、責任は無いのである。
辞表は・・・吾輩の机の鍵のかかった引き出しの中なのである。
まだ誰も気が付いて無いとしても、吾輩のせいでは無いのである。
それでも・・・
首都周辺の農村で働く者には、悪い事をしたと思うのである。
聖'sノール軍が出発出来ず、食料が尽きた為、略奪を始めたのである。
家は焼かれ、収穫前の麦は踏み荒らされ、反抗する者は無残な姿を晒しているのである。
手際が良いので、あれは略奪のプロなのである。
吾輩が首都を出る時には、既に門は閉ざされていた為、首都内での略奪はまだ起きて無いように見えるのである。
それも時間の問題なのである。
数日で飢餓の限界を超えた聖'sノール軍が、暴徒と化して首都内になだれ込むのである。
混乱が起こる前に、領内の視察と言って門を抜けられて良かったのである。
吾輩はこれから一旦西へ向かい、平原を抜けてから北の国境へ向かうのである。
平原を抜けるまでに8日、そこから北の国境まで5日の予定である。
国境を越えればラグナ王国である。ラグナは平地が少ない為、経済的に恵まれてはいないが漁業と牧山羊が盛んな国である。
猫人の吾輩としては新鮮な魚があれば天国である。
吾輩は長旅に備えた品を詰め込んだカバンを背負い、その上に丸めた毛布を乗せた。
これならどこから見ても旅行者である。
神聖帝国コンファールトの“元”宰相とは誰も気が付かないのである。
「さて、出発するのである」
しかし、吾輩の旅は、唐突に終了するのである。
平原を進む事2日。
地平線の向こうから、旗印を掲げたシャハル帝国の騎兵が押し寄せたのである。
騎兵の後方には、地平線を埋め尽くす10万を超える人々。兵士に守られるように、家畜を連れた遊牧民が大地を埋め尽くしたのである。
吾輩に逃げ場は無く、捕虜にさせられたのである。
神聖帝国コンファールトの兵力が減ると侵略されるという、吾輩の予想は間違っていたのである。
鉄人が再び現れれば、混乱に乗じて、植民し、建国出来るとシャハル帝国は考えたのである。
つまり、鉄人の再臨を待っていたのである。




