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廃墟の外は緑にあふれた森の中だった。
小鳥がさえずり、川のせせらぎが聞える。一言で表すなら大自然。
しばらくの間、あっけにとられてしまった。
後ろを振り返ると、コンクリート製の廃墟。勿論、俺が目覚めた建物で、人の気配は全く無い。
朽ちた看板も見えるが文字は読める状態には無い。状況的に、病院か研究所だったのかも知れない。
今更この廃墟を調べても、現状の助けになるとは思えない。
わからないことをウダウダと考えるよりも、今後の事を考えよう。
まずは、人や街を探そう。
金属ボディのロボを受け入れてくれるかは謎だが、兎に角情報が欲しい。
川を下れば誰か住んでいるかもしれない。
水辺の近くに街を作るのはシミュレーションゲームのお約束だ。
インダスとかメソポタミアも川の近くだった、ような気がする。たぶん。
興味ないから、あんまり覚えて無いけど。
俺は水の流れる音がする方向に歩いていくことにした。
だが、歩き難い!
森の中で足元が不安定なのは仕方が無いが、視点の高さが感覚を狂わせるのだ。
身長が高くないか?
なんとなく、2メートル以上あるような気がする。
徐々に身長が伸びたなら問題無く順応できるだろうが、急に身長が変わっても違和感しか無い。
俺のボディを作った人は、その辺の所をもう少し考えて欲しかったな。
オマケに視力も異常なほど良い。
まぁ、見えないよりも見えた方が良いんだけど、違和感が半端ないのだ。
視野を広げて、こうして周囲を見渡すと・・・ん?なんか100メートル先に人が見えたぞ。
小柄で肌はくすんだ緑色。目が赤いヒューマノイド。どう見ても人間じゃない。
100歩譲って、進化の過程で見た目が変化した人類の可能性もまだ残ってる。文明レベルや知性で判断しよう。
緑色の小人は、何かのハラワタらしきものを川の水で洗っているように思える。
「どんな原始人だよ!」
待て待て、俺が住んでた日本だって、モツは大量の水や塩で洗って食べてた。食文化で判断するのはダメだろう。
それに、近所の居酒屋で食べたホルモンの炭火焼は旨かった。いや、あれはビールが旨かっただけかも。まぁ、どっちでも良いか。
緑色の小人が手に持ったハラワタを陸に放り投げて、刃物を取り出した。
そして俺に対して威嚇のような行動を取り始めた。
「ギャッギャァー。ギャギャギャギャアアア!」
あぁ・・・。
うん。無理。
俺は右手を緑色の小人に向け「ファイア!」と短く発言する。
すると右腕の『ガトリングガン』から炎の筋が走り、一瞬で奴は陸に置いたハラワタとまじりあって区別がつかなくなった。
「ちょっとオーバーキルかも。精度も威力も思った以上だった」
銃声を聞きつけたのか、先ほどの小人の仲間らしきものがワラワラと集まって来た。
それぞれ手には鉈や弓を持っている。どうやら中世レベルの武器しか持ってないようだ。
「おいおい、多く無いか?1匹見つけたら30匹いるというアレみたいじゃないか」
こりゃあ、弾がもったいないなぁ。
俺は左手の『サブマシンガン』を三点バーストに切り替えて、ササっと始末する。
銃弾を掻い潜り近付いて来た小人は、右手を振り回して蹴散らす。金属の右手を軽く振り回すだけで小人は吹っ飛んでいくが、思いの外ピンピンしていやがる。
俺は腕を振り回すのをやめて、踏みつけるのを優先する事にした。内臓を破裂させたり、背骨を粉砕すると効率が良いようだ。
「ふぅ。良い汗かいたぜ」
ロボの体は汗なんて出る訳無いんだけど、気分的なものだ。
それよりも、目の前に広がる惨状を作り出した本人が思うのも変だが、罪悪感とか悲壮感は全く感じない。人間的な感情が失われたのだろうか。
機械の体に引っ張られてるのかもしれない。まぁ、考えても仕方がない。これが今の俺なのだ。
それに、たぶん、正当防衛だろ。過剰防衛の可能性は有るけど、細かい事は気にしない!
最初にハラワタを洗っていた場所には、血の跡が森の奥へと続いていた。
その血の跡をたどって森の中を進んでいくと、俺が川辺で作った惨状がママゴトと思える程の光景が広がっていた。
「こりゃあ、酷い」
死んでるのは小人じゃなく、人間サイズの連中だ。人間との違いは耳が少し長い事くらい。ファンタジーで言えばエルフっぽい種族だ。
多くの死骸が腹を裂かれ、目をくりぬかれ、舌を抜かれたり、ちょっとグロ過ぎませんか。ロボの体には胃が無いので吐き気もしないけど、野蛮過ぎるでしょ。
死体の山の中を歩き周ると、一人だけ無事な人間を見つけた。
女の子が縛られていた。まぁ、そういうアレで生き残ってるんだろうね。
少女は金髪で背中まで髪を伸ばしている。体形はスレンダー。胸は・・・頑張れ!
女の子は不謹慎な事を考えている俺を見上げると、歓喜の色を見せた。
同胞の死体と血の海の中で、そんな表情が出来る少女は、ある意味狂ってるのかもな。
だが、その口から紡がれた言葉は意外とマトモな内容だった。
「鉄人様、私達をお救いになるためにお目覚めになられたのですね」
どういう事?
俺を神様か救世主だと思ってないか?
こんな時、どう対応するのが正解なんだろう。
ムムムムム。わからん!
とりあえず、話しを合わせて情報を訊いてみるか。
「娘よ。委細を、話せ」
「はい。私達は・・・ゴブリンに襲われ、皆殺されました」
うん。それは見ればわかる。
「・・・続けよ」
「村は人間により圧迫されてます。それで鉄人様の降臨を賜ろうと祈りをささげに参る所でした」
エルフの少女はモゾモゾと懐から何かを取り出し、俺に差し出して来た。
えーっと。表面に何か書いてあるな。『核融合バッテリー』!!
いや、めっちゃやばい奴やん!
サッサと棄てなさい!
いや、待てよ。もしかして、それって俺の動力じゃね?
一応受け取っておこう。
俺の右脇腹にサイズ的に入りそうなヘコみが有るな。
カチッ
うん。ジャストフィット。
一瞬だけ、バッテリーを確認したという内容のポップアップが出たぞ。
エルフ少女が歓喜と尊敬の眼差しで俺を見てるけど、どうすりゃ良いんだ?
村に行けば大人のエルフもいるだろう。この少女よりは多くの情報を持ってるだろう。
「娘、村に案内せよ」
「は、はいっ!よろこんで!!」