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眷属のマキにこの地に名前を付けさせたけど、それが国王の任命と同義だとは思わなかったよね。
俺って知らない内に地雷を踏み抜いてる感じだけど、この先、大丈夫だろうか?
ここ数日、防衛設備の建築が忙しく、全く壁の外へ出ていなかった。
今回陣営に引き入れたパーブエルフからの情報だと、首都へ向かう人間の数が増えていたらしい。
俺がミサイルをぶっ放した影響が何かしら出ているのかもしれないな。
俺は上空を旋回させて待機状態にしてた無人機を、神聖帝国コンファールトの首都へ向けて飛行させた。
一応ミサイルは搭載しているが、今回は偵察だけの予定だ。
向こうの状況を俺は知ってるけど、向こうはバレてる事を知らない、って方が今後の予定を立てやすいからね。
しばらく飛行すると、神聖帝国コンファールトの首都が見えて来たが、その様相は前回訪れた時とまるで違っていた。
色とりどりの大小さまざまの天幕がいたるところに建ち並んで、それは首都の外壁をグルっと囲み周辺の畑にまで並んでいる。
天幕にはノボリが立てられ、色取り取りの旗が風を受けて揺れていた。
あちゃ~。もしかして、この天幕全部が敵なのか。
想像以上の大軍団になってる。
帝国っていうくらいだから、大勢いる貴族の私兵まで集めてたのかもしれないな。
倫理観はサル以下でも、予備兵力の概念とか、緊急時の対応マニュアルとかは作ってたのかもね。
これだけ人数がいるとミサイル2発では、全然足りない。
指揮官を狙うにしても、人が多過ぎて全くわからない。
撃つだけ損だ。
それに、周りにある3カ所の村から黒い煙が上がっている。
俺の予想が当たっていれば、ここに集まった兵全員を相手する必要が無くなる。
無人機からの映像は、首都に集まった兵が周辺の村を襲っている最中だった。
軍隊は存在するだけで食料を消費する。集まった兵がこれだけ大軍になれば、首都にある食料だけでは養えない。
移動手段が馬と徒歩の時代では、持ち歩ける兵站にも限りがある。
その結果起こるのが、略奪。
本来は敵から略奪すれば良いのだが、首都に敵はいないので略奪対象は味方からになる。それも一番弱い者からの略奪だ。
周囲の農村から食料を奪い、抵抗したら焼き払う。いや、むしろ抵抗した人を焼いて食べてる可能性の方が高いね。
教典に《汝、隣人を食せよ》と書いて有ったからね。
明日、もしかしたら数時間後には、首都内でも略奪が始まるかも。
皇帝が支配してる首都で、貴族の連れて来た兵士が略奪を行う。
略奪を止める為に皇帝は自分の兵を動かす。だが、そんな事で飢えた兵士が止まる訳無い。
戦って殺せば食料として食えるんだから、飢えた兵は次々に参戦するよ。
気が付くと首都内で内戦勃発。
こうなる寸前に、優秀な貴族は自分の兵を領地に戻すだろう。
最終的に俺と戦う兵数は、半数くらいになると思うなぁ。
1つ懸念があるとすれば、首都内の略奪が始まる前に、無理矢理にでも大軍を出発させる事だ。
これがゲームで皇帝の立場だったら無理矢理出発させるのが正解だね。
要するに出発が遅ければ遅い程、俺が得をするって事だ。
だから出来るだけの事はしておこう。
無人機のミサイルで、固く閉じた首都の門を破壊するのだ。
これで数分後には首都内で略奪が始まるよ!
俺が望む最良の結果は、この内戦で神聖帝国コンファールトが亡ぶ。又は軍を維持できずに解散する。
なんだけど、さすがに無理だよねぇ。
略奪する側は、ある程度略奪したら腹が膨れるから上官の指揮下に戻っちゃうんだ。
そしたら何時でも出発出来る状態になっちゃう。
これが可能性としては一番高い。
そして決戦までの時間は、そう多くは残っていない。
俺たちも防衛力の強化が急務だ。
パーブエルフの戦力化を急ぐのと、エルフ70人分の武装だ。
しかし素材の残量に不安がある。アサルトライフル50丁とアホ程の弾かぁ・・・
「お困りですか。鉄人様。迷いが顔に出ておりますわぁ」
俺に声をかけて来たのはパーブエルフの代表、メルダースだ。
てか、俺の表情が読めるのか?
何かの特殊能力?
「うっせぇアバズレ!鉄人様が迷う訳ねぇだろ! オラ、オラ、オラッ!!」
ズパァン! ズパァン! ズパァン!
「あっ。痛いっ、痛いですわっ。あっ、も、もっとぉ」
「やっと素直になって来たじゃねぇか!!それでこそ、エロ変態のパーブだぜ!」
何処からともなく眷属のマキが現れ、メルダースに後ろ回し蹴りの3連撃を放った。
マキさんってそんなに運動神経が良かったの?俺の中でマキさんの株が急上昇だよ。
そして、パーブエルフの“パーブ”ってそんな意味だったのかよ。
「待て、マキ。メルダース、意見があるなら申せ」
「うっフゥ、欲しがりさんは大好きですわ。・・・100年程前、この地はダンジョンからの資源で発展してましたわ」
え?
ダンジョンがこの世界にあるのか?
初耳なんですけど!
「そ、そうか。ダンジョンからの資源が有れば、モッコリのエルフ全員に十分な武器を用意出来るな」
「左様で御座います」
「それで、肝心の場所だが、知っているのか?」
「鉄人様。恐れ多くも、発言をしてもよろしいですか?」
マキさんが通常モードに戻って、話しに入ってきた。
「うむ。申してみよ」
「射撃場の的にしていた大岩が崩れ、岩の下にダンジョンの入口があったので、私たちが普通に訓練に使ってます」
「で、あるか」
言いたい事は沢山あるけど、的にしてた大岩を壊すって、どんだけ乱射してんだよ!
「・・・マキよ。ダンジョンへ行く。随行を許す」
「へぇぇぇぇ!」
「あら、私の随行は許して貰えませんの? こう見えても戦えますのよ」
随行を願い出たメルダースが取り出したのはコンパクトミラーのような何か。それをカパッと開くと中からいくつもの光球が飛び出してメルダースの周りを浮遊し始めた。
メルダースが小石を拾い放り投げると、光球から一斉に光弾が放たれ、一瞬で小石が砂粒になった。
スゲーな。
たぶん、小型の攻撃用ドローンだ。浮いてる技術は謎だけど、レーザー攻撃なら実弾を補充する必要が無いから便利だな。
メルダースの変態部族が世紀末世界で生き残れたのは、その超科学の武器のおかげだろう。
まぁ、中世レベルの人からは魔法と区別が付かないと思うけど。




