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どうしてこうなった?
頭を掻こうとして、持ち上げた手が止まる。
なんだろう。なんか、感覚が可笑しい。
目の前には薄汚れた洗面台。その上にはヒビの入った鏡がある。
そこに映るのは見知った四十路の男ではなかった。
錆びた鉄板と素材不明な何かを組み合わせて創った人型のナニか。明らかに人ではない。
俺こと、中島ハヤテは、気が付くとロボットになっていた。
何の冗談だ。
夢か?
夢なのか??
宇宙人か未来人のイタズラで、俺の自我をロボにインストールでもしたのだろうか。
本当に意味がわからない。
鏡に映る変わり果てた姿を見つつ、人間だった頃の最後の記憶を思い出す。
確か・・・確か38時間勤務を終えて帰る途中、トラックに跳ねられた。
だが、死ななかった。
入院して全身に包帯だかギプスを巻かれてた覚えはある。
ん?
ちょっと待て!
全身に巻いてた包帯って、生身の俺の肉体に巻いてたんだよな?
勝手に改造手術して無いとは思うけど・・・鏡に映る無機質な物体を見てると、自信が無くなる。
しかし、見れば見るほど、この体は接客を目的とした汎用型とは思えない。
多分これ、軍事用じゃないかな。癒し要素とか親しみやすさとか皆無で、威圧感が半端ない。
まぁ、個人の感想だけどね。
まずは、現状把握と言う名のスペックの確認をしよう。
原因究明とかはあと!
だって、ワクワクするでしょ。ロボットが嫌いな男の子なんていませんから!
右腕を動かしてみると、お洒落なリストバンドがついてる。
ポイントは6つの銃身を束ねてガトリングガン風な所だね。オッサンにはチョットお洒落すぎかもしれない。
腕を前方に突き出しても、ガトリングガンは特に回ったりはしない。
やっぱり、お洒落なリストバンド以上でも以下でも無いね。
リストバンドをじっくり見るが安全装置のようなギミックは見当たらない。
指紋認証だろうか。
いや、ロボの体に指紋なんて無いぞ。
音声認識かな。
「安全装置解除」
すると、右腕のガトリングガンに電源が入ったような感覚が伝わった。
なんか初めての感覚だ。
ガトリングガンなんて実際に持った事無いし、腕に埋め込んだ事も無いから初めてで当然なんだけど、違和感が無い事に違和感を感じるよ。
「それじゃあ、試しに・・・ファイア!」
右腕のガトリングガンはうんともすんとも言わない。
うーん。
使い方がわからない。マニュアルは無いのかな?
「メンテ画面とか“ステータス”画面はないのか?」
そう喋った瞬間、目の前にポポーンと半透明のユーザーインターフェイスが現れた。
なるほど、なるほど。こういう感じですか。“ステータス”と言ったら、ステータスが見える。
「どこの異世界ファンタジーだよ!」
ステータス画面では、他にもいくつかの武器があるようだ。
だが、右腕に表示されている補助兵装『ガトリングガン』には残弾0となっていた。
マジかぁ。
弾が無けりゃ、お洒落なリストバンドじゃねぇか。
俺は気を取り戻して、残弾のある兵装を確認した。
弾があるのは肩のあたりの『ミサイル』と、左手の『サブマシンガン』だけのようだ。
ミサイルは残弾12発。サブマシンガンは400発あるようだ。
とはいえ、サブマシンガンって1秒に13発くらい撃てるだろ。400発有っても30秒で無くなる量だぞ。
それにミサイルなんて使う事あるのだろうか。いったい何と戦う想定で兵装してんだろう。不安というか不穏だな。
俺はステータス画面をポチポチする。
「ん?なんだ、この項目」
『弾薬製造』だと!?
もしかして、弾を自給自足できるのか。
フムフム。
弾の種類を選んで“製造”を押すだけか。電子レンジよりも簡単な操作だな。
試しに『ガトリングガン』の弾を指定し“製造”を押すと【素材を入れてください】というメッセージと共に、腹のあたりがカパッと開いた。
え?
まさかここに入れろと?
俺は部屋を見渡し、恐る恐る金属製の物を腹にぶち込んだ。
するとどうだろう、腹からワッシャワシャと金属を砕く音がする。決して体内から発して良いような音では無いが、聴かなかった事にしておこう。
ステータス画面を確認すると、徐々に『ガトリングガン』の残弾数が増えていく。
流石、未来技術。俺の理解力を超えている。まあ考えるだけ無駄かぁ。
これで弾の問題は解決しそうだ。
そろそろ部屋から出て、外の状況を確認するべきだろう。
俺の体がロボになってるんだ。社会というか世界が変わってても驚きはしないぞ。
てか、普通に警察とかに職質される方が困る。ミサイルを兵装してる時点で絶対捕まる。説明とか何を言えば良いんだ?
「目が覚めたらロボでした」
うん。頭がオカシイと思われるな。
考えてても仕方が無い。案ずるより産むがやすしだ。ロボが言っても説得力無いけど。
俺は意を決して、自分が居た廃墟っぽい建物を出ることにした。