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対談が終わって…

(舞台は、重厚なマホガニーのカウンターと柔らかな革張りのソファが並ぶ、隠れ家のような高級バー。控えめなジャズが流れ、琥珀色の液体を満たしたグラスがカランと音を立てる。先ほどの激論を戦わせた4人の君主たちが、それぞれ思い思いの飲み物を片手に、ソファでくつろいでいる。テーブルには、チーズやドライフルーツ、ナッツといった軽食が並べられている。対談中の緊張感はどこへやら、皆どこか解放されたような、リラックスした表情だ)


ピョートル大帝:(大きなジョッキに入ったエールらしきものを豪快に飲み干し、満足げに息をつく)「ぷはーっ!いやぁ、実に愉快な舌戦であったわ!特にあのチンギス殿!あんたの『力こそ全て』という割り切りっぷり、いっそ清々しい!さあ、こっちの酒も試してみろ!我がロシアのウォッカほどではないが、なかなか喉を焼く代物だぞ!」(隣に座るチンギス・カンに、年代物のスコッチらしきボトルを勧める)


チンギス・カン:(ピョートルの勧めるボトルを一瞥し、自身の杯に注がれた乳白色の酒――馬乳酒だろうか――を静かに呷る)「…フン。言葉だけの戦は好かぬと言ったはずだがな。だが、ピョートル殿、あんたのあの改革への執念、そして国家を引っ張り上げるという気概は、なかなか見所があったぞ。この酒も悪くない。草原の風の味がする。」(ピョートルに勧められたスコッチを、小さな杯で一口飲む)「…ふむ。確かに、喉を焼くな。」


ヴィクトリア女王:(小さなグラスに入った赤ワインを上品に嗜みながら、やや呆れたような、しかしどこか面白そうな表情で二人を見ている)「…お二人とも、本当にお酒がお強いのですね。わたくしは、バルモラルでいただく少量のウィスキーで十分ですわ。それにしてもピョートル大帝陛下、あの『外科手術』という例えは、いささか…乱暴ではございませんでしたこと?わたくし、少し肝が冷えましたのよ。」


ピョートル大帝:(ニヤリと笑い)「おっと、これは女王陛下には刺激が強すぎましたかな?だが、国を治めるというのは、時にメスを振るう覚悟も必要なのですぞ!それに比べて、女王陛下は、いささか…その、お優しいというか、言葉を選びすぎるところがおありのようだ。もっとこう、ガツンと言ってやればよいものを!」


乾隆帝:(穏やかな笑みを浮かべ、上質な中国茶と思われる湯呑みを手に)「まあまあ、ピョートル殿。ヴィクトリア女王陛下には、女王陛下なりの戦い方がおありなのでしょう。それにしても、あの案内人の娘…あすか殿と申しましたかな。なかなかの切れ者でございましたな。我々の痛いところを、実に的確に突いてくる。まるで、歴代の御史ぎょしのようであったわ。」(御史とは、中国の王朝で官僚の不正を監察する役職)


ヴィクトリア女王:「ええ、本当に。わたくし、アイルランドのことや植民地のことを指摘された時は、アルバートが生きていてくれたら、もっと上手く反論できたのに、と…。(少し寂しげに目を伏せる)でも、あのように異なる視点からご意見をいただくのは、確かに貴重な経験でしたわ。普段、わたくしの周りには、耳の痛いことを申し上げる者などおりませんもの。」


チンギス・カン:(ピョートルに勧められたスコッチをもう一口飲み)「…女子供に手厳しいことを言うのは好かぬが、あの小娘、確かに肝が据わっていたな。俺の目の前で『虐殺』だの『破壊』だの、よくもまあ臆面もなく言えたものだ。まあ、事実ではあるがな。」(どこか遠い目をする)


ピョートル大帝:「違いない!アレクセイの件を蒸し返された時は、さすがにカッとなったがな!(ジョッキをドンとテーブルに置き)だが、あれくらいでなければ、我々のような一癖も二癖もある連中を相手に、番組の舵取りなどできんだろう!あの『クロノス』とかいう板切れも、なかなか便利な代物だった。我が国にも一つ欲しいものだ。軍事作戦の立案に役立ちそうだ!」


乾隆帝:(くすくすと笑いながら)「ピョートル殿は、相変わらず何でも富国強兵に結びつけなさる。あれは、むしろ四庫全書の編纂に役立ちそうですな。膨大な書物の情報を、瞬時に整理できるとなれば、どれほど作業が捗ることか。」


ヴィクトリア女王:「わたくしは、あのスターゲートというものに興味がございますわ。あれがあれば、地球の裏側にあるオーストラリアやカナダへも、瞬時に移動できるのでしょう?大英帝国の情報網が、さらに強固なものになりますわね。」


チンギス・カン:「…俺ならば、あのスターゲートとやらで、一瞬にして敵の首都に大軍を送り込むがな。」(全員が、その言葉に一瞬黙り込む)


(ややあって、ピョートル大帝が大きな声で笑い出す)


ピョートル大帝:「はっはっは!さすがはチンギス殿!発想が違うわ!だが、それも面白い!いやはや、それにしてもだ。『最大の帝国』とは何か、などという答えの出ない問いに、あれほど真剣になるとはな!まるで、若い頃の模擬戦を思い出したわ!」


乾隆帝:「ふむ。答えが出ない問いだからこそ、語り合う価値があるのかもしれませぬな。それぞれの時代に、それぞれの『最大』の形があった。それを改めて認識できただけでも、この奇妙な酒宴の席は意義深いものと言えましょう。」


ヴィクトリア女王:「ええ、本当に。わたくし、正直に申しますと、最初はこのような…野蛮な方々(チンギス・カンとピョートル大帝をちらりと見る)と、まともな議論ができるのかしら、と少し不安でございましたの。でも、皆さまのお話には、それぞれに学ぶべき点がございましたわ。特に、乾隆帝陛下の、文化を重んじ、民の安寧を願うお心には、深く感銘を受けました。」


乾隆帝:(軽く頭を下げ)「女王陛下にそう仰っていただけるとは、光栄の至りでございます。わたくしもまた、女王陛下の、困難な時代に大国を導かれたそのご気骨と、ピョートル殿の改革にかける情熱、そして…チンギス殿の、良くも悪くも、世界を揺るがしたその圧倒的な力には、畏敬の念を抱きましたぞ。」


チンギス・カン:(意外にも、わずかに口元を緩め)「…フン。お前たちのような、文弱の君主どもにも、それなりの見所はあったということか。」


ピョートル大帝:「おいおい、チンギス殿、それは褒めているのか、貶しているのか、どっちなんだ?まあいい!今宵は細かいことは抜きだ!さあ、もう一杯どうだ?このバーにある一番強い酒を持ってこさせようじゃないか!」


(ピョートル大帝が陽気に声を上げ、ヴィクトリア女王は少し眉をひそめながらも微笑み、乾隆帝は穏やかに茶をすする。チンギス・カンは、無言で杯を差し出す。高級バーの柔らかな照明の下、時空を超えて集った君主たちの、一夜限りの奇妙で賑やかな宴は、まだもう少しだけ続きそうである)

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