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最終ラウンド:「最大の帝国」とは何か?それぞれの結論

(ラウンド5の重く、しかし深い余韻が残るスタジオ。照明は再び明るさを取り戻し、中央のホログラムスクリーンには、これまでのラウンドで映し出された各帝国の象徴的なイメージ――広大な版図、文化的な遺産、経済的な繁栄、そして統治機構――などが万華鏡のように映し出され、やがて「最終ラウンド:「最大の帝国」とは何か?それぞれの結論」という文字が荘厳な音楽と共に浮かび上がる)


あすか:「皆さま、長時間の白熱した議論、誠にありがとうございました。版図の広大さ、後世への影響力、民の繁栄、そして統治の巧みさと存続期間、さらには帝国の栄光と影…。まさに、歴史のあらゆる側面から『帝国』という存在を深く掘り下げてまいりました。これまでの全ての議論を踏まえ、いよいよ最終ラウンドでございます。皆さまが考える『最大の帝国』の定義、そして、ご自身の帝国がその定義にどのように合致するとお考えになるのか。最後のお言葉として、魂のこもった最終弁論をお願い申し上げます。まずは、ヴィクトリア女王陛下、お願いいたします。」


ヴィクトリア女王:(深く息を吸い込み、背筋を正して、穏やかな、しかし決意に満ちた表情で話し始める)「…案内人さん、そしてご列席の皆さま。これまでの議論を通じて、わたくしは多くのことを学ばせていただきました。それぞれの帝国が、それぞれの時代において、それぞれの方法で『偉大さ』を追求してこられたこと、そしてその道程がいかに困難なものであったか、改めて痛感いたしました。『最大の帝国』とは何か…この問いに対するわたくしの答えは、これまでの議論で申し上げたことの繰り返しになるやもしれませんが、やはり、単に武力によって領土を広げ、民を支配することだけではございません。真に『最大』の帝国とは、その力と富を、世界全体の進歩と、そこに住まう全ての人々の幸福のために用いる、道徳的権威を伴った存在でなければならないと信じます。」


(ヴィクトリア女王は、まっすぐに前を見つめ、言葉を続ける)


ヴィクトリア女王:「我が大英帝国は、確かに多くの過ちを犯しました。その影の部分から目を背けるつもりはございません。しかし、同時に、我が帝国は、世界に法と秩序の重要性を説き、自由貿易の恩恵を広め、そして何よりも、教育と医療の普及を通じて、多くの人々の生活水準の向上に貢献したと自負しております。英語が世界の共通語となり、異なる文化を持つ人々が意思疎通を図る手助けとなったことも、その一つでございましょう。わたくしが夢見たのは、大英帝国の旗の下に、全ての臣民が平和に暮らし、その才能を自由に開花させることができる、そのような世界でございました。その理想は、完全には達成できなかったかもしれません。しかし、その理想を掲げ、一歩でも近づこうと努力し続けたこと、そして、その精神が形を変えながらも現代に受け継がれていること…それこそが、大英帝国が歴史に残した、真の『大きさ』であり、『偉大さ』なのではないでしょうか。力だけでは決して築くことのできない、永続的な価値…それこそが、わたくしの考える『最大の帝国』の姿でございます。」


あすか:「道徳的権威と、世界全体の進歩への貢献…ヴィクトリア女王陛下、ありがとうございました。続きまして、チンギス・カン陛下、あなたの考える『最大の帝国』、そしてモンゴル帝国の最終弁論をお願いいたします。」


チンギス・カン:(腕を組み、他の君主たちを見渡すように、しかしその視線はどこか遠くを見ているかのようだ)「…道徳だの、幸福だの、小賢しい言葉を弄するのは相変わらずだな、女王よ。だが、お前の言う『永続的な価値』とやらも、結局は力によって守られ、あるいは力によって打ち立てられるものだということを忘れるな。俺の考える『最大の帝国』とは、ただ一つ。歴史の流れを、己の力でねじ曲げ、新たな時代を切り拓く、圧倒的な『変革力』を持つ帝国だ。そして、その変革は、一部の者だけでなく、広大な地域、多くの民に影響を及ぼさねばならん。」


(チンギス・カンは立ち上がり、その声はスタジオ全体に響き渡る)


チンギス・カン:「我がモンゴル帝国は、まさにそれを行った。分裂し、互いに殺し合っていた遊牧の民を一つにまとめ上げ、鉄の規律を持つ軍団へと鍛え上げた。そして、その力をもって、ユーラシア大陸の東から西までを席巻し、既存の国々を打ち破り、新たな秩序を打ち立てたのだ。多くの者が我々を破壊者と呼ぶだろう。だが、破壊なくして創造はない。我々が古いものを破壊したからこそ、新しいものが生まれる余地ができたのだ。パクス・モンゴリカの下で、東西の交易は空前の規模で活発化し、文化や技術が交流し、世界は一つに近づいた。我々の帝国は、確かに他の者たちほど長くは続かなかったやもしれん。だが、その短い間に世界に与えた衝撃の『大きさ』、その『変革の度合い』において、我々に勝る者はいないと自負する。火を恐れていては、何も燃やすことはできぬ。我々は、歴史という原野に、消えることのない巨大な炎を放ったのだ。それこそが、モンゴル帝国の『最大』たる所以よ。」


あすか:「歴史の流れを変える圧倒的な変革力…チンギス・カン陛下、力強い最終弁論、ありがとうございました。では次に、ピョートル大帝陛下、あなたの考える『最大の帝国』、そしてロシア帝国の結論をお願いいたします。」


ピョートル大帝:(大きく息を吸い込み、まるで演説でもするように、身振り手振りを交えながら熱く語り始める)「うむ!チンギス殿の言う『変革力』、それには俺も大いに共感するぞ!だが、ただ壊すだけでは意味がない!その後に、より強く、より優れたものを打ち立ててこそ、真の変革と言えるだろう!俺の考える『最大の帝国』とは、過去の惰眠から民を目覚めさせ、国家の潜在能力を最大限に引き出し、そして何よりも、未来への確固たる道筋を切り拓くことのできる帝国だ!そのためには、時に強引な手段も、非情な決断も必要となる!だが、その結果として国家が強大になり、民が(たとえ最初は苦しくとも)より良い未来を手にすることができるのであれば、それこそが為政者の本懐ではないか!」


(ピョートル大帝は、まるで臣下を鼓舞するように、声を一段と大きくする)


ピョートル大帝:「我がロシア帝国は、まさにそれを体現したのだ!私は、眠れる巨象であったロシアを叩き起こし、西欧の進んだ知識と技術を注入し、軍隊を近代化し、海軍を創設し、産業を興し、そして新たな首都を築いた!全ては、ロシアをヨーロッパの列強と肩を並べさせ、いや、それ以上の存在にするためだ!その過程で多くの困難があり、多くの犠牲も払った。だが、その結果として、ロシアは世界の舞台で無視できない力を持つに至ったのだ!私が蒔いた種は、その後のロシアの歴史の中で大きく花開き、実を結んだ!この、国家の運命を根底から変え、未来への扉をこじ開けた『ダイナミズム』と『国力増強への貢献』こそが、我がロシア帝国の『最大』たる所以であり、他のどの帝国にも劣らぬと、私は固く信じている!」


あすか:「未来への扉をこじ開けるダイナミズムと国力増強…ピョートル大帝陛下、情熱的な最終弁論、ありがとうございました。最後に、乾隆帝陛下、あなたの考える『最大の帝国』、そして清朝の結論をお願いいたします。」


乾隆帝:(静かに目を閉じ、しばし瞑目した後、ゆっくりと、しかし威厳に満ちた声で語り始める)「…皆さまの勇壮なるお言葉、それぞれに感銘を受けました。変革の力、武力の輝き、それらもまた、帝国の姿の一面でありましょう。なれど、わたくしが考える『最大の帝国』とは、やはり、民の安寧を第一とし、文化を慈しみ育て、そして何よりも、悠久の時の流れの中で、その徳による治世を持続させることのできる帝国でございます。一時の華やかさや、急激な変化は、あるいは人々の目を引くやもしれませぬ。しかし、真の強さとは、嵐にも揺るがぬ大樹のごとく、静かに、しかし確実に大地に根を張り、枝葉を広げ、多くの生き物をその下に憩わせる…そのような存在ではないでしょうか。」


(乾隆帝は、その場にいる全ての人々に語りかけるように、穏やかに続ける)


乾隆帝:「我が清朝は、その理想を追い求めたと信じております。二百数十年にわたり、広大な版図に暮らす多くの民に、比較的平和な時代をもたらし、農業を振興し、商業を促し、そして何よりも、学問芸術を奨励し、中華数千年の文化遺産を後世に伝えるという使命を果たしました。確かに、その末期には多くの問題を露呈し、外圧の前に屈するという屈辱も味わいました。しかし、それでもなお、我が清朝が築き上げた安定と繁栄の時代は、多くの民にとって、かけがえのないものであったと信じたいのでございます。武力による支配は、いずれ武力によって覆される。急激な変革は、いずれ反動を生む。なれど、徳による治世と、文化の力は、人々の心に深く染み入り、容易には消え去ることのない、真の『影響力』と『持続性』を持つものでございます。それこそが、わたくしの考える『最大の帝国』の姿なのでございます。」


あすか:(各君主の最終弁論を、深く頷きながら聞き終え、厳粛な面持ちで一同を見渡す)「ヴィクトリア女王陛下、チンギス・カン陛下、ピョートル大帝陛下、そして乾隆帝陛下。皆さま、それぞれの信念に基づいた、そして帝国の誇りをかけた、魂のこもった最終弁論、誠にありがとうございました。道徳的権威と世界の進歩、歴史を変える変革力、未来を切り開くダイナミズム、そして民の安寧と文化の持続…。皆さまが提示された『最大の帝国』の定義は、かくも多様であり、そしてそれぞれに深い説得力を持っております。」


(ホログラムスクリーンには、4人の君主の肖像画が並び、その下にそれぞれの「最大の帝国」のキーワードが浮かび上がる)


あすか:「領土の広さ、影響力の大きさ、民の豊かさ、統治の巧みさ、そして存続期間…。『最大』を測る尺度は、決して一つではございません。そして、それぞれの帝国が、それぞれの時代において、他の追随を許さぬ圧倒的な『大きさ』と『輝き』を放っていたことは、この白熱した議論を通じて、誰の目にも明らかになったことでしょう。モンゴル帝国がその時代の連続的陸地面積で最大であったのに対し、大英帝国は分散した総陸地面積と世界的到達範囲でその時代の最大であったように、時代や状況によって『最大』の意味もまた変化するのでございます。軍事力という『ハードパワー』と、文化的影響力や安定した統治システムという『ソフトパワー』、その両方が帝国の長寿と影響力に複雑に絡み合っていることも、皆さまのお話から深く理解できました。」


あすか:「そして、いかなる偉大な帝国も、その栄光の裏には必ず『影』が存在し、広大で多様な領土と人口を管理することの難しさ、すなわち『帝国の過剰拡大』とも呼べる課題に直面してきたこともまた、忘れてはならない歴史の教訓でございましょう。これらの帝国の物語は、権力の力学、統治のあり方、異なる社会間の関係、そして歴史の長期的な発展プロセスについて、現代を生きる私たちに、数多くの重要な洞察を与えてくれます。」


(あすかは、穏やかな、しかし確信に満ちた声で続ける)


あすか:「今宵の『歴史バトルロワイヤル』が、皆さまにとって、この複雑で、しかし魅力に満ちた『帝国』という存在について、そして『最大』とは何かという根源的な問いについて、改めて考えるきっかけとなれば、案内人としてこれに勝る喜びはございません。」

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