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ラウンド3:民草を養いし「人口」と「繁栄」!

(ラウンド2の知的な興奮が冷めやらぬスタジオ。中央のホログラムスクリーンには、黄金の稲穂が揺れる豊穣な大地、活気あふれる市場、そして様々な民族の人々が笑顔で暮らすイメージ映像が映し出される。やがて、温かくも力強い音楽と共に、ラウンドタイトル「ラウンド3:民草を養いし「人口」と「繁栄」!」が浮かび上がる。)


あすか:「歴史に名を刻む帝国の『偉大さ』。それは、その版図の広さや、後世への影響力のみならず、どれほど多くの民をその翼の下に庇護し、彼らにいかなる『繁栄』をもたらしたのか、という点にも現れるはずでございます。胃袋を満たし、心を満たし、そして未来への希望を育む…それこそが、民を思う為政者の本懐でありましょう。ラウンド3のテーマは『人口と経済的繁栄』!皆さまの帝国が、いかに多くの民を養い、どのような豊かさを築き上げたのか、お聞かせいただきたく存じます。まずは、その治世において世界最大の人口を誇ったとされる、清朝の乾隆帝陛下!その圧倒的な民の数と、帝国の繁栄ぶりについて、お話しいただけますでしょうか。」


乾隆帝:(穏やかな表情で、ゆっくりと頷き)「民は国のもといにございます。その数が多く、かつ安寧に暮らしておることこそ、為政者にとって何よりの喜びであり、また誇りでもありましょう。我が清朝の最盛期、18世紀の半ば頃には、その版図の内には実に4億を超える民が暮らしておりました。これは、当時の世界の総人口の実に3分の1以上に相当すると聞き及んでおります。(クロノスに映し出される清朝の人口統計グラフを指し示す)この膨大な人口を養うことができましたのは、何よりもまず、長きにわたる国内の平和と安定があってこそ。戦乱がなければ、民は安心して農耕に励み、子を育てることができまする。我が朝廷は、黄河や長江の治水事業に力を注ぎ、新種の稲作を奨励するなど、農業生産力の向上に努めました。その結果、広大な国土の隅々まで田畑は開墾され、民の食卓は豊かになったと自負しております。また、手工業も大いに栄え、景徳鎮の磁器や蘇州の絹織物などは、遠く西方の国々にも輸出され、帝国の富を増しました。国内の商業も活発で、大運河や整備された街道を通じて、物資の流通は滞りなく行われておりました。これら全てが、我が清朝の『泰平の世』がもたらした繁栄の姿なのでございます。」


(乾隆帝は、自国の安定と民の豊かさを、静かな自信をもって語る。ヴィクトリア女王は、その人口規模に感嘆の表情を見せつつも、どこか比較するような視線を向けている。)


あすか:「4億を超える民…!まさに圧巻の数字でございます。そして、その民を養うための農業振興や産業の発展。乾隆帝陛下のお話からは、安定した社会基盤こそが繁栄の礎であるという強い信念が伝わってまいります。さて、続きましてはヴィクトリア女王陛下。大英帝国もまた、その広大な版図の中に、非常に多くの臣民を抱えておられましたね。その『数』と『多様性』、そして帝国の経済的繁栄についてお聞かせください。」


ヴィクトリア女王:(軽く咳払いをし、背筋を伸ばして)「ええ、案内人さん。我が大英帝国もまた、その最盛期には5億3300万人を超える臣民を擁しておりました。その数は、乾隆帝陛下の清朝にも匹敵するものでございましょう。しかし、わたくしが特に誇りに思いますのは、その数の多さもさることながら、その『多様性』と、それらを結びつけた帝国の経済システムでございます。イギリス本国の人々はもちろんのこと、インドのヒンドゥー教徒やイスラム教徒、カナダのフランス系住民、オーストラリアの先住民や開拓者、アフリカの様々な部族、カリブ海の島々の人々…実に多種多様な文化、宗教、言語を持つ人々が、大英帝国の旗の下に、一つの経済圏として結ばれておりましたの。(クロノスに映る世界地図上の交易ルートを指し示す)産業革命によって飛躍的に高まった本国の生産力と、植民地から供給される豊富な原材料、そして世界中に張り巡らされた海運ネットワーク。これらが一体となり、前例のない規模での富の創出を可能にいたしました。インドからは茶や綿花、オーストラリアからは羊毛、カナダからは木材、南アフリカからは金やダイヤモンド…これらの資源が帝国の経済を潤し、また、イギリスで生産された工業製品が世界中の市場へと届けられたのです。このダイナミックな経済循環こそが、大英帝国の繁栄の源泉であり、多くの臣民に(程度の差こそあれ)その恩恵をもたらしたと信じておりますわ。」


(ヴィクトリア女王は、帝国の経済力とグローバルな繋がりを強調する。チンギス・カンは、その「富の源泉」について何か言いたげな表情で腕を組み、ピョートル大帝は「金にダイヤモンドか、そりゃ景気がいい話だ!」と目を輝かせている。)


あすか:「5億3300万人を超える多様な臣民と、それを繋ぐグローバルな経済システム…!ヴィクトリア女王陛下のお話からは、帝国の『規模』がもたらす経済的パワーが伝わってまいります。しかし、その繁栄の裏では、植民地における経済的搾取や、本国と植民地の間の著しい格差といった問題も指摘されておりますが、その点はいかがでしょうか?」


ヴィクトリア女王:(少し表情を硬くし)「…帝国全体の発展のためには、ある程度の…そう、資源の効率的な配分が必要となる場合もございました。しかし、我が国は植民地のインフラ整備や教育の普及にも力を注ぎ、決して一方的な搾取を意図したものではございません。自由貿易の原則のもと、双方に利益のある関係を築こうと…」


チンギス・カン:(ヴィクトリア女王の言葉を遮るように、低い声で)「フン。女王よ、お前の言う『効率的な配分』とは、結局のところ、強い者が弱い者から奪うための言い訳に過ぎぬのではないか?民の数が多いのは結構だが、それが奴隷のように働かされていては、何の繁栄にもなるまい。我がモンゴル帝国も、最盛期には1億を超える民を支配した。数は清やイギリスには及ばぬかもしれんが、我々は彼らを単なる労働力として見たわけではない。我々が重視したのは、いかにして『富を生み出す仕組み』を作るか、だ。シルクロードを再興し、東西の交易を活性化させたことは既に述べた通り。これにより、帝国には莫大な関税収入がもたらされ、その富は帝国の隅々まで行き渡ったのだ。商人たちは安全に旅をし、都市は活気に満ち、職人たちはその腕を振るうことができた。奪うことばかり考えていては、いずれその泉も枯渇する。富とは、流れを生み出し、循環させてこそ、真に増えるものよ。お前の帝国の『富』は、一体誰のために、どこからどこへ流れていたのだ?」


(チンギス・カンの痛烈な問いかけに、ヴィクトリア女王は言葉に詰まり、スタジオには再び張り詰めた空気が流れる。ピョートル大帝は、そのやり取りを興味深そうに見つめていたが、やがて自身の主張を始めるべく、大きな咳払いをした。)


ピョートル大帝:「フム!チンギス殿の言う『富の流れ』、確かに重要だ!我がロシア帝国も、18世紀初頭には人口約1500万人ほどだったものが、19世紀初頭には約4000万人、そして1913年の第一次世界大戦直前には、実に1億7640万人を超えるまでに膨れ上がったのだ!もちろん、乾隆帝の清や女王陛下のイギリスには及ばぬかもしれんが、この増加率こそが、我が国の活力の証よ!だがな、ただ人が増えただけでは意味がない。その民を養い、国を富ませるための『エンジン』が必要だ。私は、そのエンジンを、この手で作り上げたのだ!」


(ピョートル大帝は興奮した様子で立ち上がり、ホログラムスクリーンに映し出されたロシア帝国の地図を指差す。)


ピョートル大帝:「見ろ!この広大なシベリアの未開の地を!私はここに探検隊を送り込み、毛皮だけでなく、鉄鉱石や銅、金銀といった地下資源を掘り起こさせたのだ!ウラル地方には200以上の製鉄工場や金属加工工場を建設し、ロシアは鋳鉄生産で世界有数の国となった!これにより、我が軍隊は最新の兵器で武装し、艦隊は黒海やバルト海でその威力を示すことができた!確かに、我が国には農奴制という大きな課題があった。民の多くは貧しく、重い税と賦役に苦しんだかもしれん。だが、国家全体の生産力を高め、ロシアをヨーロッパの列強と肩を並べるまでに押し上げたこの『国威高揚』こそが、何よりの『繁栄』ではなかったのか!?個々の民の小さな幸福も大事だが、国家という大きな船が沈んでしまっては元も子もないではないか!我が富は、まず国家を強くするために注ぎ込まれたのだ!」


あすか:「国家主導による産業振興と資源開発…!ピョートル大帝陛下の力強いお言葉からは、国家の富強こそが民の繁栄に繋がるという強い意志が感じられます。しかし、その過程で多くの民が犠牲になったという側面も無視できません。例えば、新首都サンクトペテルブルクの建設では、数十万の人々が過酷な労働条件のもとで命を落としたとも言われておりますが…これは、国家の繁栄のためにやむを得ない代償だったとお考えでしょうか?」


ピョートル大帝:(少し顔をしかめるが、すぐに力強く)「…大事業に犠牲はつきものだ、案内人!美しい都市を築くには、泥にまみれる者も必要だろう!確かに多くの者が倒れたやもしれん。だが、そのサンクトペテルブルクこそが、我がロシアの新たな顔となり、西欧への窓となったのだ!未来への投資と考えれば、決して無駄な犠牲ではなかったと、私は信じている!」


ヴィクトリア女王:(ピョートル大帝の言葉に、やや批判的な視線を向けつつ)「…ピョートル大帝陛下のおっしゃる国家の富強も、一つの形ではございましょう。しかし、その富が一部の支配層や国家機構に集中し、民草の生活が顧みられないのであれば、それは真の『繁栄』とは言えないのではございませんか?我が大英帝国は、確かに植民地との関係において様々な批判があることは承知しております。しかし、本国においては、産業革命によって生み出された富が、徐々にではありますが、労働者階級の生活水準の向上にも繋がりました。教育の普及、医療の進歩、都市環境の改善…これらは、帝国の経済的繁栄がもたらした、民衆生活における具体的な『進歩』でございますのよ。」


チンギス・カン:「フン。女王よ、その『進歩』とやらも、結局は帝国の中心に住む一部の者たちだけの話ではないのか?お前の言う『多様な臣民』とやらは、その恩恵を等しく受けることができたのか?我がモンゴルは、征服した地の民にも、ヤッサの法の下で一定の権利を認め、交易の利益を分かち合った。もちろん、抵抗する者には鉄槌を下したがな。だが、従う者には、その生活を保障し、帝国の富の一部を還元したのだ。そうでなければ、あれほど広大な帝国を、あれほど多様な民族を、短期間であってもまとめ上げることはできぬわ。」


乾隆帝:(静かに一同を見渡し、諭すように)「…皆さまのお話、それぞれに一理ございますな。ピョートル大帝殿の国家の富強、ヴィクトリア女王殿の民の生活向上、そしてチンギス・カン殿の利益の分配。なれど、『繁栄』とは、単に物質的な豊かさのみを指すのではありますまい。民の心が安らかであり、社会に秩序があり、文化が花開き、そして何よりも、その豊かさが次代へと受け継がれていく『持続可能性』。それら全てが揃ってこそ、真の『繁栄』と呼べるのではありますまいか。我が清朝は、確かに末期には様々な問題を抱え、西夷の侵略を許すことにもなりました。それは為政者としての不徳の致すところ。しかし、その二百数十年にわたる治世の中で、多くの民が戦乱を知らず、穏やかに日々を送り、家族を養い、ささやかながらも文化を享受できた時代があったことも、また事実でございます。急激な富の追求や、一部の者のための繁栄は、いずれ大きな歪みを生み、帝国の土台を揺るがすことになりかねませぬぞ。」


(乾隆帝の言葉に、スタジオは再び静けさに包まれる。各君主は、それぞれの「繁栄」のあり方について、改めて考えさせられているかのようだ。あすかはクロノスに目を落とし、いくつかのデータを指でなぞる。)


あすか:「『持続可能な繁栄』…乾隆帝陛下、それは現代社会においても非常に重要な視点でございます。確かに、各帝国の『繁栄』の形は様々でございました。クロノスによりますと、例えば18世紀の清朝の一人当たりGDPは、当時の西欧諸国と比較しても決して低いものではなく、むしろ安定した農業生産に支えられた豊かな社会であったことが示唆されています。一方で、大英帝国は19世紀に産業革命を背景に急成長を遂げましたが、その陰では都市部の劣悪な労働環境や深刻な貧富の差が存在しました。ロシア帝国は国家主導で工業化を進めましたが、農奴解放後も農村の貧困は依然として大きな課題であり続けました。そしてモンゴル帝国は、広大な交易ネットワークから莫大な富を得ましたが、その富の分配や、征服された地域の経済的復興については、記録が限られている部分もございます。」


(スクリーンには、各帝国の経済指標や、当時の民衆の生活を描いた絵画、あるいは写真などが映し出される。豊かな収穫に喜ぶ農民、活気ある市場の様子、一方で煙を吐く工場やスラム街の風景など、光と影が交錯する。)


あすか:「人口の多さ、経済力の大きさ、そして民の暮らしの豊かさ…これら全てを考慮した上で、果たしてどの帝国の『繁栄』が最も『最大』と呼ぶにふさわしいのか。これもまた、容易に結論の出せる問題ではなさそうですわね。富の定義も、時代や文化によって、そして何よりも、誰の視点から見るかによって大きく変わってくるのかもしれません。」


(あすかは、深く息をつき、対談者たちに穏やかな視線を向ける。)


あすか:「さて、ここまで『人口』と『経済的繁栄』というテーマで、皆さまの帝国の輝かしい側面、そしてその影の部分についても触れてまいりました。このラウンドで明らかになったのは、それぞれの帝国が、その時代背景と独自の価値観に基づき、異なる形で民を養い、富を築き上げてきたという事実でございましょう。その繁栄が、果たして誰のためのものであり、どれほど持続可能なものであったのか…それは、歴史が私たちに投げかけ続ける、永遠の問いなのかもしれません。」


(スタジオのBGMが荘厳なものへと変わり、次のラウンドへの移行を予感させる。ホログラムスクリーンには、古代の法典、議事堂、そして整然と行進する軍隊のイメージが映し出される)


あすか:「次のラウンドでは、これら広大な版図と多くの民を、いかにして『統治』し、その秩序を『維持』してきたのか、その点について深く掘り下げてまいります。帝国の屋台骨を支える統治システム、そしてその命運を左右する存続期間…これらもまた、『最大』を語る上で避けては通れないテーマでございます。ラウンド3『民草を養いし「人口」と「繁栄」!』は、これにて終了でございます!」

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