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ラウンド1:我が帝国の「版図」こそ最大!

(スタジオの照明が戦いの始まりを告げるかのように少しトーンを落とし、中央のホログラムスクリーンが輝きを増す。挑戦的な音楽が流れ、ラウンドタイトル「ラウンド1:我が帝国の「版図」こそ最大!」がスクリーンに大きく表示される)


あすか:「さあ、いよいよ最初のラウンドの火蓋が切って落とされます!シンプルにして、最も直接的な力の象徴…それは、皆さまがその下に置かれた『版図の広大さ』!一体どの帝国が、その『最大』を誇るにふさわしいのか?クロノス、各帝国の最盛期における版図、そして関連データをスクリーンに表示してください!」


(あすかがクロノスを操作すると、ホログラムスクリーンに4つの帝国それぞれの色分けされた版図が、地球儀上に重なるようにして映し出される。同時に、各帝国の最大領土面積、支配下の推定人口などの基本データがテロップとして表示される。4人の君主たちは、食い入るようにスクリーンを見つめる)


あすか:「データが出揃いました。まずは、大英帝国を世界の頂点へと導かれたヴィクトリア女王陛下。スクリーンに映し出されておりますように、その版図はまさに『太陽の沈まぬ帝国』と称されるにふさわしい広がりを見せております。この圧倒的な『大きさ』について、改めてお聞かせいただけますでしょうか?」


ヴィクトリア女王:(スクリーンに映る自国の版図を誇らしげに見つめ、軽く頷いてから)「ええ、ご覧の通りですわ、案内人さん。わたくしの治世において、大英帝国は北アメリカのカナダから、カリブ海の島々、アフリカ大陸の広大な地域、そしてインド亜大陸、オーストラリア、ニュージーランドに至るまで、その旗を翻しました。最盛期には、その総面積は約3370万平方キロメートルとも3550万平方キロメートルとも言われ、地球上の陸地面積の約4分の1に相当するとされております。そして、その広大な土地には、実に5億3300万人もの多様な民族が、わたくしの臣民として、大英帝国の平和と繁栄のもとに暮らしておりましたの。これこそ、神の恩寵と、わたくしどもイギリス人の勤勉さ、そして進取の気性がもたらした、疑いようのない『偉大さ』の証左でございましょう。」


(ヴィクトリア女王が言い終えると、チンギス・カンが組んでいた腕を解き、低い声でフン、と鼻を鳴らす)


チンギス・カン:「…5億、だと?それは確かに大した数だ。だが、女王よ、その『版図』とやらは、まるで豹の皮の模様のように、あちこちに散らばった切れ切れの土地ではないか?海で隔てられ、統制もままならぬような土地を寄せ集めただけで、『最大』を名乗るとは片腹痛い。」


ヴィクトリア女王:(眉をひそめ、やや語気を強めて)「なんですって?切れ切れですって?チンギス・カン陛下、それは海洋帝国の力を理解しておられぬ方の言葉ですわ。我が大英帝国は、世界最強の海軍力によって、これらの領土を強固に結びつけ、地球規模の交易網と情報網を確立しておりましたのよ。大陸に縛られたお方には、想像もつかない芸当でしょうけれど。」


チンギス・カン:(挑戦的な笑みを浮かべ)「海軍だと?そんなものは、嵐一つで海の藻屑となるではないか。真の帝国とは、大地にしっかりと根を張るものだ!我がモンゴル帝国を見よ!(立ち上がり、ホログラムスクリーンに映るモンゴル帝国の版図を指し示す)東は日本海、朝鮮半島から、西は現在の東ヨーロッパ、ドナウ川流域まで!北はシベリアの森林から、南はインドシナ半島にまで達する!その広さ、およそ2400万とも3300万平方キロメートルとも言われる!しかも、それは全て陸続き!一つの揺るぎなき、連続した大帝国なのだ!我が騎馬軍団が一度駆けだせば、その蹄は帝国の端から端まで、遮るものなく大地を揺るがすことができたのだぞ!これこそ真の『最大』よ!」


(チンギス・カンの迫力に、スタジオの空気が一瞬張り詰める。ピョートル大帝は面白そうにニヤニヤしながら、両者のやり取りを見ている)


あすか:「おおっと!いきなり激しい応酬です!ヴィクトリア女王の海洋帝国の『広がり』に対し、チンギス・カン陛下は大陸帝国の『連続性』と『一体感』を主張されました!確かに、モンゴル帝国は歴史上最大の『連続した』陸上帝とされていますね。ピョートル大帝陛下、ロシア帝国もまた、ユーラシア大陸にまたがる広大な帝国でございました。このお二方の主張を、どのようにお聞きになりましたか?」


ピョートル大帝:(椅子をギシギシと揺らしながら、大きな声で)「はっはっは!実に面白い!女王陛下のおっしゃる海の力も、そしてチンギス殿の陸の力も、それぞれ一理あるわな!我がロシア帝国も、最盛期には約2280万平方キロメートル、一説には2370万平方キロメートルにも及ぶ広大な版図を誇ったのだ!確かに、チンギス殿の帝国にはわずかに及ばぬかもしれんが、見てみろ!(スクリーン上のロシア帝国の版図を、大雑把な手つきで示す)東はカムチャツカ、アラスカにまで達し、西はポーランド、フィンランドを飲み込み、北は氷の海から、南はカフカース、中央アジアの砂漠まで!二つの大陸にまたがり、いくつもの時間帯を内包し、数百もの異なる文化と民族グループが、この私、ピョートルという一つの屋根の下にあったのだ!ただ広いだけではないぞ?人が住めぬと思われていたシベリアの奥地まで切り拓き、凍土の下に眠る資源を掘り起こし、国家の力としたのだ!この、未開の地を征服し、文明の光をもたらしたという『大きさ』は、切れ切れの島々や、ただ草原を駆け巡っただけの帝国とは、また違う価値があるとは思わんかね?」


(ピョートル大帝は、ヴィクトリア女王とチンギス・カンを交互に見ながら、挑戦的な笑みを浮かべる)


あすか:「なるほど!ピョートル大帝は、版図の『面積』だけでなく、その『開拓』という側面、そして多様な民族を包含した『多大陸性』をアピールされました!さて、最後に乾隆帝陛下。清朝もまた、中国歴代王朝の中でも屈指の広大な領土を誇りました。これまでの皆さまのご主張、そして清朝の版図について、お聞かせいただけますでしょうか。」


乾隆帝:(静かに扇子を揺らしながら、落ち着いた口調で)「ふむ…皆さま、それぞれに自国の版図を誇るお気持ち、よく分かりまする。武力をもって領土を広げるは、一時の勢いでも可能でございましょう。なれど、それをいかに治め、民を安んじ、長きにわたりその秩序を保つか。それこそが、為政者の真の力量が問われるところ。我が清朝の版図は、最盛期において約1340万平方キロメートル、あるいは1470万平方キロメートルとされておりますな。これには、古来より中華の地である中国本土はもとより、父祖の地である満州、そしてモンゴル、チベット、新疆ウイグルといった広大な地域が含まれております。これらの地域は、それぞれに異なる文化、異なる歴史を持つ民が暮らす地。それを一つの帝国の下に統合し、268年という長きにわたり安定した支配を及ぼした。(他の三人をゆっくりと見渡し)ただ広いというだけでは、それは荒れ地と同じ。耕し、種を蒔き、実りを収めてこそ、その土地は真の価値を持つのではありますまいか?我が清朝が目指したのは、そのような『実りある広大さ』でございます。」


(乾隆帝の言葉には、静かな自信と、他の君主たちとは異なる価値観が滲み出ている。含蓄のある言葉に、スタジオの熱気が一瞬鎮まる。ヴィクトリア女王は扇子で口元を隠し、チンギス・カンは腕を組んだまま眉間に皺を寄せ、ピョートル大帝は興味深そうに顎を撫でている。あすかは深く頷き、議論のポイントを整理しようとクロノスに視線を落とす。)


あすか:「『実りある広大さ』…乾隆帝陛下、それはまた深いお言葉です。ただ広いだけでなく、その地をいかに豊かに治めるか、ということですね。さて、皆さま、それぞれのお立場から自帝国の版図の『大きさ』を主張されましたが、やはり気になるのは、その『質』、そして『統治のあり方』との関連でございます。ヴィクトリア女王、先ほどチンギス・カン陛下から『切れ切れの土地』というご指摘がありましたが、海洋で結ばれた帝国の強みについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」


ヴィクトリア女王:(扇子を閉じ、毅然とした表情で)「ええ、案内人さん。チンギス・カン陛下は、陸続きの帝国こそが真の強さだとおっしゃいましたが、それは些か視野が狭いと申し上げざるを得ませんわ。海は、隔てるものではなく、繋ぐものです。我が大英帝国は、蒸気船と電信という、当時の最新技術を駆使し、七つの海をまるで自国の庭のように駆け巡りました。これにより、本国と植民地との間で、迅速な情報伝達と物資の輸送が可能となり、地球規模での効率的な統治と経済活動が実現できたのです。インドの綿花がマンチェスターの工場で製品となり、それが再び世界中の市場へと運ばれていく…このダイナミズムこそ、海洋帝国ならではの『力』であり、『富』の源泉。大陸に閉じこもっていては、決して生まれ得ない『大きさ』ですわ。」


チンギス・カン:(声を荒らげることなく、しかし威圧感を込めて)「フン。船だの電信だの、小賢しい玩具よ。そんなものは、嵐が来れば沈み、一人の敵兵が線を断てば途絶えるではないか。我がモンゴル帝国は、駅伝制度ジャムチを整備し、帝国の隅々まで早馬が駆け巡り、大ハーンの命令を迅速かつ確実に伝えたのだ。何よりも、我が目の届く範囲、我が兵の足が踏みしめる大地こそが、真の支配地よ。海のかなたの土地など、本当に『支配』していると言えるのか?現地の総督が寝返れば、それまでではないか?」


ピョートル大帝:(手を叩いて)「それだ、それだ!チンギス殿の言うことにも一理ある!俺も海軍の重要性は誰よりも分かっているつもりだが、やはり直接支配の力は大きい。だがな、女王陛下、あんたの帝国の『切れ切れ』ぶりは、ある意味、効率的だったかもしれんぞ?我がロシアのように、だだっ広いだけで冬はカチコチ、夏は泥沼じゃ、統治する側も骨が折れるからな!(笑いながら)その点、豊かな港を押さえて、そこから富を吸い上げるというのは、賢いやり方かもしれん。もっとも、吸い上げられる側はたまったもんじゃないだろうがな!」


ヴィクトリア女王:(ピョートル大帝のやや無遠慮な物言いに、むっとした表情を見せつつも)「…ピョートル大帝陛下。我が帝国の統治は、決して搾取だけではございません。法による支配、教育の普及、そして何よりも、キリスト教的価値観に基づく『文明化の使命』を、我々は真摯に…」


乾隆帝:(ヴィクトリア女王の言葉を遮るように、静かに口を挟む)「女王陛下。その『文明化の使命』とやらが、時として被支配の民にとりては、大きなお世話となることもお忘れなきよう。文化とは、それぞれの土地に根差し、長き時をかけて育まれるもの。それを一方的に『優れた文明』の名のもとに塗り替えようとすることは、新たな混乱と怨嗟を生むことにも繋がりかねませぬ。版図の広大さを誇るならば、そこに住まう民の心をも治めてこそ、真の『最大』と言えるのではありますまいか。」


(乾隆帝の言葉に、ヴィクトリア女王はぐっと言葉を詰まらせる。チンギス・カンは満足げに頷き、ピョートル大帝は「なるほど、そりゃもっともだ」と呟く)


あすか:「これは…乾隆帝陛下から、非常に本質的なご指摘がございました。『版図の広さ』と、その地に住まう『民の心』。両者をいかに繋ぎ、治めるか。チンギス・カン陛下、モンゴル帝国は広大な地域に多様な民族を抱えていましたが、その統治において最も重視されたのは何でございましょうか?やはり『力』でしょうか?」


チンギス・カン:「力なくして秩序なし。それは当然だ。だが、ただ力で押さえつけるだけでは、いずれ反発を招く。我が帝国では、『ヤッサ』という法を定め、モンゴル人も被征服民も、その下では(ある程度は)平等に扱った。宗教にも寛容であったぞ。キリスト教徒も、イスラム教徒も、仏教徒も、それぞれの神を拝むことを許した。なぜなら、彼らが帝国の法に従い、税を納める限りにおいては、何を信じようと我がモンゴルの力には影響せぬからだ。むしろ、多様な民の知恵と技術こそ、帝国を強くする。ただし、裏切り者と反抗する者には、死あるのみだ。」


ピョートル大帝:「合理的だな、チンギス殿!俺もそうだ!信仰なんぞはどうでもいい、国家に役立つかどうかだ!だがな、版図が広けりゃ広いほど、反乱の芽も増えるってもんだ。我がロシアでも、南のコサックどもがちょくちょく騒ぎを起こしてくれたからな!やはり、皇帝の威光が隅々まで届くような、強力な中央集権体制と、何より裏切り者を即座に叩き潰せるだけの軍事力が不可欠だ!広大な土地を維持するってのは、それだけで骨の折れる仕事なんだよ!」


ヴィクトリア女王:(少し落ち着きを取り戻し)「…確かに、広大な帝国を維持することの難しさは、わたくしも痛感しております。だからこそ、我が国では、現地の慣習を尊重しつつ、徐々にイギリス式の法制度や行政を導入するという、現実的なアプローチを取りましたの。全ての植民地を一律に支配するのではなく、自治領には大幅な自治権を与え、それぞれの地域に合わせた統治を心がけました。それこそが、多様な文化を持つ広大な帝国を、比較的平和裏に(…時には困難もございましたが)長期間維持できた秘訣の一つだと考えておりますわ。」


あすか:「なるほど…『力』による直接支配、『法』と『寛容』による統制、そして『柔軟性』と『段階的導入』による維持。版図の広さを語るだけでも、これほどまでに多様な視点と戦略があるのですね。まさに、一言で『最大』と申しましても、その意味するところは計り知れないようです。」


(あすかはクロノスに何かを打ち込みながら、対談者たちの顔をゆっくりと見渡す)


あすか:「皆さまの熱のこもったご主張、そして版図を巡る深い洞察、大変興味深く拝聴いたしました。このラウンドでは、それぞれの帝国が誇る領土の広大さ、そしてそれを支える独自の論理がぶつかり合いました。果たして、この『版図の広さ』という指標において、視聴者の皆さまはどの帝国に最も『最大』の魅力を感じたでしょうか…?それはさておきまして、帝国の『大きさ』を測る物差しは、まだまだございます。」


(スタジオのBGMが変わり、次のラウンドへの期待感を高める。ホログラムスクリーンには、世界地図の上に、文化や技術が伝播していくイメージ映像が流れ始める)


あすか:「次のラウンドでは、その帝国が後世の歴史にどれほど深く、そして広範な『影響力』を及ぼしたのか、その点について熱く語り合っていただこうと存じます!ラウンド1『我が帝国の「版図」こそ最大!』は、これにて終了でございます!」

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