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現代の花咲か爺さん

作者: 解体業

風刺です。

 「コホッ、コホッ」


 フライパンの前で立っている彼は、抑え気味に咳をした。


 タンポポの根を乾燥させ、細かく刻んだものを炒める。じわりと広がる香ばしい匂い。これは、タンポポコーヒーの準備だ。カフェインを含まず、健康に良いと言われる飲み物。彼の商売道具の一つだった。


 咳をしたのは偶然で、意図的ではない。だが、動画に入ってしまったのはよくない。


 タンポポコーヒーを完成させた後、彼は撮影した映像を見直し、咳をしている部分を切り取る。不要なシーンは排除し、綺麗に編集された動画を作る。肝心なのは「自然で健康的な生活」を演出することだ。本当に健康的であるかどうかはどうでもいい。


 SNSに、タンポポの「情報」をあげる。以下のような言葉を添えた。



———

〜〜←ここから、タンポポの効果に関する「正しい」情報をチェック!

タンポポコーヒーは実際にガン細胞を破壊し、健康な細胞をガンから守ることができます。毎日飲んで、健康にいいし頭もスッキリ!

自然の恵みをいただくことで、本来の健康を取り戻しましょう。

頭の硬い日本の医者は秘密にしようとしています。

↓私がタンポポコーヒーをつくる様子


———


 洗練された文句を添えるのにも、努力がいる。その証拠に彼のパソコンでは、何を検索しても、「真実」があらわれてしまうようになった。SNSにこのような情報をあげ始めた時は、彼らに響く言葉を模索して何時間も検索をした。彼のパソコンで、「真実」しかヒットしなくなってしまったのは、ユーザーが見たいものを見せるという検索のアルゴリズムのおかげである。



 投稿ボタンを押す。彼はスマホを机に置き、さっき淹れたタンポポコーヒーを、慣れた手つきでキッチンシンクに流した。貧富を問わず染み付く、インクのようなシミがシンクに出来てしまっていることは禁句だ。ピンクの陳腐な造花のブーケがカウンターの端に飾られている。


 彼が律儀に、毎日タンポポコーヒーをつくっているのには、ある理由がある。それは、「私は毎日これを飲んでいます」という文言と共に、過去に一度撮った動画を再利用したものを毎日SNS上にあげていたところ、コメント欄で「昨日の動画と全く同じ動画じゃないですか? 本当に毎日飲んでいますか?」と指摘されたからだ。



 スマホにSNSの通知が次々に届く。


「情報共有ありがとうございます」

「健康的な生活を始められそうです……!」

「医者は既得損益に縛られてるから、こういう情報は大事ですね!」


 彼は平穏に整頓されたコメントを流し読みしながらパソコンで、自身が運営するサイトを開く。


 「特別な方法で氣を込めた」と銘打った、タンポポの根やタンポポでつくったハチミツ……投稿のたびに売れてきた。今までに何周もしてきたサイクルだ。動画をつくる、投稿する、商品を売る。この繰り返し。


 彼は恐る恐る売上げを確認した。


 今月の売上はようやく目標額を超えたようだ。これでまたひと安心。しかし、気を緩めることはできない。こんなものは一時的なのだ。これまでに得た客の中でも、ある日突然離れていく者もいたし、新規の客を得られなければ先細る一方だ。


 一つの投稿が、文字通り、命取りになるかもしれない。次の投稿が次の売り上げを決める。そのような恐怖を抱えながら彼は生きている。


 彼は深いため息をついた。だが、それは満足のため息ではない。


 また咳をした後、彼はパソコンを閉じた。



 私が彼を「花咲か爺さん」と呼ぶのは、彼が今までに何度も「花」を咲かせてきたからである。彼はタンポポを掘り起こすが、その代わりに一部の人の頭に「花」を咲かせて、彼らの頭をお花畑に仕立て上げてきたのだ。十分、「花咲か爺さん」と呼ぶに値するだろう。一度「花」が咲いてしまえば、締めたものだ。余程のことがない限り、その「花」は枯れない。なぜなら、「花」が咲いた者は、「花」が咲いていない者からは距離を置かれて、「花」が咲いた者同士でしかつるまないからだ。「花」が枯れるのは、「花」が咲いていない者から訴えかけられた時。時間の経過で枯れることもあるが、このパターンは稀だ。

 




 しばらくしても、彼の咳は止まらなかった。


 最初は気にしていなかったが、時が経つにつれて悪化している。けれども彼は、タンポポを使って風邪を治そうとは微塵も思わなかった。





 彼は病院に行った。診察を受け、薬を処方された。


 帰り道、彼は処方された普通の風邪薬を持って、空を見上げながら歩いていた。数日飲めば良くなるはずだ。


 ふと、彼は小さく笑った。


 「体調が悪くなったら、病院へ行くのが一番だよな……餅は餅屋、ってことか」

 そう言って、彼は軽く首を振った。


 彼は自分自身について、深く考えるのはやめていた。自分の行動全てを受け入れていた。しかし、それが彼を疲れさせていた。何だか虚しいような気がしてきても、もうそれに抗う力は彼に残っていなかった。


 彼は、道端にタンポポが生えているのを見つけた。すると、軽く頬を撫でるような風が吹いた。道端に生えているタンポポの綿毛が、ふわりと舞い上がって遠くへ飛んでいった。それを見送りながら、彼は目を閉じた。


 彼は黙って歩き出した。

風刺でした。「先見の明がある男」もよろしく!

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