4話 俺は高校生だ
「あの! 聞こえてますか? 通じてますか?」
女の声が聞こえた。理解出来たぞ!
俺はまだ少し恐怖が残ってたし、殺生の罪悪感もあったが、それを悟られぬよう男らしく返した。
「あぁ。通じてるぞ」
ありゃ。女が相手だからか、思っていたより渋くなってしまった。もう引き返せないから、このまま続けよう。
「良かったです。先ほどは意味の分からぬ言葉を話していたので」
意味の分からないか。『離れてろ』のことだな。
「そうか。もう大丈夫だ」
「本当にありがとうございました!」
「気にするな」
「怪我とかはないですか?」
俺は自慢のリーゼントを撫でながら、答える。
「大丈夫だ」
本当は足の裏が痛いけど。多分、擦りむいてるけど。
「私、農民だから戦闘力が皆無でして。農民兵ならばゴブリンなら追い払えたかもなのですが」
ん?
何やら意味がわからないぞ。
「農民と農民兵とはなんだ?」
「職業のことですよ。農民は農作業に特化したスキルしかありません。農民兵ならば多少の戦闘スキルも覚えられます」
スキル。『交換』ボタンのあとに出てくる四角たちのことか?
異世界人もこのタブレットみたいな感じで、スキルを習得するのかな。
「お前らもポイ活でスキルをとるのか?」
俺はタブレットを見せながら言った。
「わー。さっきから気になってたのですが、ステータスボードを持っているんですね。凄いです!」
どんどん分からない言葉が出てくる。
混乱しそうだが、一つずつ聞いていこう。
「ポイ活でスキルを習得するのか?」
「あ、すみません。珍しかったのでつい……。ポイカツとは聞いたことないです。あ! もしかして、あなた様は異世界から来たのですか?」
俺から見たらここが異世界だが、女から見れば俺のいた世界が異世界なのか。
「あぁ。そうらしい」
「ワー! 凄い! 凄い!! 本当にいるんですね。異世界から来る人が!! 変わった服を着てるからもしかしたらと思ってたんですよ!」
「質問に答えてくれ」
「あ、すみません。驚いたのでつい……」
「あぁ」
「えっとですね、すみませんがポイカツが何かはわかりません。私たちはレベルアップでスキルポイントを会得し、神殿のステータスボードでスキルを選んでいきます」
ステータスボードは、このタブレットみたいなやつのことだよな。
さっき、珍しいと言ってたし、神殿にしかないのかな。俺はとりあえず、説明の続きを聞こうと思った。
「ほう」
「それでですね、えっと、何から話せばいいのかな。職業も分からないですよね。さっきの様子だと」
「そうだな。教えてくれ」
「十二歳の誕生日に神殿でステータスボードから神託を見ます。神様が相応しい職業を教えてくださり、授けてくださるのです。職業、その数は無数にあると言われています」
「なるほど」
「五歳ぐらあたりから、なりたい職業の見習いになることで、その職業につく可能性が高まるのですが、必ずではありません」
職業選択の自由がないのかよ。ひどく遅れてるな。俺の感覚だとそう思えてしまう。でも神様とやらが、適性を見極めてくれるならば、AIに支配されてるようなSFっぽくて、むしろ進んでるのかもしれない。
と言うか神殿に行かないと、俺の職業も分からないのかな。
俺は聞いてみた。
「異世界から来たやつは何の職業になる? 十二歳ならとっくに過ぎたが、大丈夫なのか?」
「うーん。分かりません。異世界から来た方はとても珍しいです。それこそ、おとぎ話だと思っていました。おとぎ話では、勇者様や召喚者様など凄い職業になってましたね」
女は視線を俺のタブレットに向けてこう続けた。
「ご自身のステータスボードで確認してみては?」
俺はタブレット、いやこの世界ではステータスボード言うらしい。
とにかく見てみる。
画面左下、『交換』の隣に『ステータス』があった。
なにやら文字が点滅している。
『ステータス』をタップしてみると、俺の職業などが分かった。
職業 無職 レベル1
力 20
体力 20
耐久力 10
俊敏性 20
魔力 10
聖魔力 10
待て待て。俺は無職じゃねー。高校生だ。
いやこの世界に高校生がないのかもしれない。
いやいや違うな。この世界の職業はとても重い意味を持つらしい。信託らしい。
でも、もっと凄いのじゃないのか。
異世界から来た人は勇者様とかなんだろ。
俺は少し困惑した。落ち込んだ。
数字の羅列の下にはメニューボタンがある。『スキル』と。
そして数字の羅列の上には文字が点滅しているメニューボタン『次のレベルまでの経験値 6/5 レベルアップ出来ます』
タップしてみるとムカつくポップアップ。
『職業に就いてないのでレベルアップ出来ません』
おいー!
ちゃんとレベルアップ出来ます書いてあったじゃねーか!
俺が怒りを覚えていたら、女がステータスボードを覗き込んできて言った。
「あれ 何も書いてませんね」
どうやらこのステータスボードは俺にしか読めないらしい。
「無職とあった。レベルアップも出来なかったぞ」
「うーん。凄い職業なのかと思いましたけど、神託は神殿でしか受けられないのかもしれませんね」
「神殿は何処にある?」
「城下町にあります。私、今からキャベツを売りに市場に行く所です。ご案内しますね」
「まて!」
「はい?」
「靴を持ってないか? 転移したとき履いてなかったんだ」
まぁ、持ってないよな、と思いつつ一応聞いてみる。
女は少し驚いた様子だった。目を少し見開き言った。
「痛くありませんでした?」
「あぁ、少しな」
本当はかなりな。
「ですよね。城下町に兄が働いてます。靴職人なんですよ」
「売ってくれそうか?」
「はい! 当然ですよ」
待てよ。俺は金が無い。
日本の金も持ってきてないし、こっちの世界の金もない。
「すまん。やはりいらない」
「どうしてですか? 痛むのでしょう?」
「その。なんだ。持ち合わせがなくてな」
「そっか。異世界から来たんですもんね。それに信託も受けてないからカードもないですよね。心配しないでください。助けて頂いたお礼に私が買いますよ」
「いや。それは筋が通らねー」
女に買わせるなんて出来んぞ。
「いえいえ。命の恩人なのですからそのぐらいさせてください。一番安いのにになりますけど……」
「そうはいかない」
「遠慮しないでください! 私の気がすみませんから」
佐藤仮もそんなことを、カツアゲから助けた時に言ってたな。
それじゃ気がすまないと。
そういうものなのか。このまま断っても埒が明かなさそうた。
俺は甘えることにした。
「そうか。すまんが頼む」
「はい! 城下町までは頑張ってくださいね! 靴がない所を申し訳ないですが、ゴブリンの運搬もお願いします!」
なんだと。
この死体、運ばなきゃいけないのか。