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19話 説得

 水曜日は木こりの護衛を受けなかった。

 すぐ終わりそうな依頼もわからない。

 佐藤が朝にデーモンデーモンではもうアルバイトをしないと言ってたので、その穴埋めをした。

 どうやら、人手が足りないのは見習いにピザの作り方を教えるためみたいだった。

 明日も来てくれるか尋ねられたが、断った。

 俺は、見習いたちのシフトを組んで日替わりに皿洗いをさせたらどうかと提案した。

 何度も同じ事を教えることになるが、負担は増えるが、教えられないよりマシだろと提案した。

 木こりに言ったのと同じ発想。

 デーモンデーモンの店主は、素直に受け入れていた。


 従業員用の裏口から、客用の入り口に入り直す。

 デーモンデーモンに集められた木こりの三派閥の代表たちらしき人たちはすぐに見つかった。

 ゴザルがいたからだ。他は知らない人。

 恐らく、ゴザルと同席している大量のパーマな赤髪を後ろで縛ってる初老の女と、大柄の胸毛と髭がモジャモジャな男が、他の二派閥の代表だろう。

 受け付けで客をさばいてる店員に声を掛ける。


「知り合いが先に入ってるからその席に座る」


「かしこまりー」


 俺はゴザルたちの席のそばまで行く。「原田だ。今日は集まってもらって済まない」といって席に座る。


 大柄の男は言った。


「南の森で木こりをしているヤマナだ」


 赤髪の初老の女も自己紹介してくれる。


「東門を縄張りにしているラーゴさ」


「私は以前、お世話になりましたね。ゴザルです」


 さて、どこから話そうか。なんかラーゴには睨まれてる気がする。


「今日集まってもらったのはだな……」


「聞いてるよ。あたいらに土日も働けって言ってるらしいじゃないか」

 ラーゴはやはり不満そう。


「私はお互いの派閥で話し合い、休みをずらして、切りに行く人数を増やすと聞いてますね。冒険者さんのためにも私たちのためにも、三人で切りに行くようにすると」

 コザルは今日も物腰柔らかい。


「今まで何とかなってきたんだ。変える必要なかろう」

 ヤマナは豪快に喋るが、意外と保守派なのかな。それとも面倒臭いだけかな。

 俺はヤマナに言う。


「もう森での縄張りは決まってるんだろう? 他に手はない」


「私は問題ありません。曜日もお任せしますよ」


「俺は切りたい時に切る。ごちゃごちゃ決められるのは嫌だね」


「あたいは土日に休みたいだけさ。曜日で切りに行く日を決めるのは賛成だね」


「なんだと。おいラーゴ! お前は休みを変えないつもりか? 土日の両方を休むつもりかよ。それなら俺もやっぱり反対だ!」


「そうだね。これは譲れないよ」


「そんなに土日が大事か?」


 俺は頭をフル回転。ペンと紙買ってくるんだった。


「仮に店を閉めて切りに行く日を、月曜日をゴザル、火曜日をヤマナ、水曜日をゴザル、木曜日をヤマナ、金曜日は誰も切らなくて、土日はラーゴとする。な?」


「まてよ! それじゃあ休みがないじゃないか! 何考えてるんだよ! これだから素人は!」


「全くだよ。土日に店を閉めたら、結局その日は休めないだろう」


 そうだった。店を閉める日を休みじゃなくて、伐採にあてるから休みがなくなる。

 でも、そんなに怒らないでよ。

 俺だってシフトなんて考えたことないのに。あー難しい。

 頭ショートしそう。


「ならば、土日はみんな休む。店の定休日をもう一日増やしてもらうのはどうだ? 平日の定休日をずらして、その日に切りに行く。週に一日の伐採じゃ不満か?」


 今度はゴザルが反対した。


「それは困りますね。店を週に三日も休むのは困ります」


「そうだな。客が離れていく。ゴザルあたりが裏切って店の休みは二日。営業は五日とかやりそうだね」


 ラーゴは続けて言った。


「私は最初の案でいいよ。土日以外の日に店を閉めて切りに行く。あとはこちらでシフトを組んで店は二人で回すようにするさ」


「なるほどですね。たしかに三人揃って切りに行くからといって、他の日も三人揃う必要はないですね。加工や取り引きを二人で回してしまえば、店を開いたまま休みが取れる」


「ごちゃごちゃうるさいぞ! ゴザル!」


「ラーゴ。どうだ?」


「やっぱり、いやだね。元はと言えば、人の植林を切ったヤマナが一番悪くて、それを許さなかったゴザルも二番目に悪い。じゃあ、あたいが三番目に悪いかと言われれば、そうじゃない。何の関わりもないのさね」


「根に持つ人ですね。埒が明かないから、東西と南で縄張りを作ったのはラーゴさんでしょう」


「根に持ってるのはお前もだろうが! お前がごちゃごちゃ言わなければ昔のように派閥から一人ずつ出して、同じ森で切れてたんだろうがよ」


「それはそうですが……。あなたが切ったのは百年物。二十年と八十日待った特別な木でしたよ」


 なんでだ?

 簡単にまとまると思ったのに、全然決まらない。

 

 三十分ほど経った頃だ。

 まとめたのは静かにキレたゴザルだった。


「分かりました。私の店は金曜日と日曜日を定休日とし、伐採もその曜日にします。貴方がたは今まで通りに木の不足に悩めば良いでしょう」


 沈黙。


「分かったよ。ゴザルが泥を被ってくれるなら、あたいが月曜日と水曜日に店を閉める。あとはヤマナ次第だね」


「クソ。分かった分かった。俺だけ今のスタイル貫いても冒険者に見向きもされねー。俺は火曜日と木曜日に店を閉める」


 まとまった!

 最後にそれらしくまとめよう。

 俺、あんまり役に立たなかった気がするけど。


 ダセー。

 ダセーな俺。


「平日の休みも悪くないぜ。銀行に行けるし、娯楽施設は空いてる」


 さっき、デーモンデーモンの従業員が言ってたことだ。

 こうして、困ってる木こりたちはいなくなっただろう。

 ちなみに、デーモンデーモンは昼と晩のまかないがつくので悪くない仕事だった。

 シーフードビザもマルゲリータも、うんめーの!

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