18話 九人の木こり
翌日、俺は拳法着に着替えて、下着も買わなきゃなと思いながら一階に降り、朝飯を頂いた。
まだ六時半とちょっとなのに、外で歯を磨いてる佐藤と、食器を洗うマイカしかいなかった。
俺はマイカに尋ねる。
「洗濯をしたいんだが、教えてもらえるか?」
「ええ。大丈夫よ。でも私に洗わせて頂戴」
「いや、それは悪い」
「いいの。家事は任せて」
その後、どちらも譲らなかったが、佐藤が来てこう言った。
「原田さん。人の好意を断るのも失礼っすよ」
「そうか?」
「ええ。私には家事しかないのだから、やらせて頂戴。それに息子が帰ってきたみたいで嬉しいの」
「俺はもうお願いしましたよ」
佐藤を見てみると、この世界っぽい服を着ていた。
「すまない。悪いがお願いできるか?」
「ええ。まかせて!」
俺は歯を磨き、ステータスボードで今日の広告を確認する。
また木こりの護衛があった。
マイカにに挨拶して、サホロへ向かう。
今日も佐藤を追い抜いた。
冒険者ギルドには木こりの護衛が三つあった。
カウンターで聞く。
「同時に三つは受けられるか」
「可能と言えば可能です。ですが、うーん、今日の依頼は全部門が違いますね。西門、東門、南門と分かれているので不可能ですね」
「そうか」
知り合いである、ゴザルがいそうな西門を選びたくなったが、あえて東門の依頼を受けた。
パンを買った。昼メシだ。
それとパンを入れるポシェットと下着を買った。
昨日の経験からして、護衛をしたあとの夜は時間がないだろう。
ポシェットの中身はパンツとパン。新品だけど、なんか一緒にいれるのは嫌だ。
さておき、九時近くになったが、東門についた。
斧とスコップを担いだ人物を探す。
今日の依頼主は女らしい。
若い。たぶん俺やライカと同じぐらいだろう。
赤毛でお団子二つヘアー。
俺は声を掛ける。
「おはよう。あんたが木こりか?」
「あはよう! あなたが護衛ね。私はニャーゴ。よろしくね」
「おう。任せろ」
俺達は東門を出て、東の森へ向かう。
「なあ。この町には木こりは何人いる?」
「九人だよ」
「町の規模からして少なく思えるな」
「まあねー。植林も含めると一時間に一本ぐらいしか切れないし。ちょっと品不足感はあるね」
「なぜ、同じ森で切らないんだ? 今日はギルドに三件の依頼があったぞ」
「派閥があるんだよ。西門のゴザル一派。南門のヤマナ一派。私は東門のラーゴ一派。これらは絶対に仲良く出来ないね。私はよく知らないけど揉め事があったみたい。ゴザル一派の植林した木をヤマナ一派が切ってしまったとか」
「各派閥に三人で九人か?」
「そうだねー」
なら簡単だな。
「仲良くしなくて良い。三人で切りにいけ。月曜はゴザル一派三人が西門で依頼を三つ出す。火曜日は東門。水曜日は南門みたいに、切りに行く日を決めろ」
「どうしてさ?」
ニャーゴは不機嫌そうだ。素人の提案を受けるプロってのはそういうものなのかもしれない。
「なぜ、護衛の依頼を引き受けてくれないか分かるか?」
「知らないよ。Fランクの人はすぐ上がっちゃうから人数が少ないとかじやないのー?」
「それもあるだろう。だが、俺の感想では拘束時間の割に報酬が少ない」
「三千エルでしょ。ギルドが決めたんだからしょうがないじゃん。その代わりゴブリンの報奨金が出るじゃん」
「ゴブリンは無限にいるのか?」
「そんなの困る。定期的に巣を見つけて駆除してるらしいよ」
「俺は昨日ゴブリン十三匹を倒した。報酬としては悪くなかった。だが、いつもそれだけ倒せるとは限らない」
「そうだね。十三匹は多いね」
「でも、一派の三人がまとめて切りに行き、まとめて護衛の依頼を出せば、九千エルの報酬が確実にもらえる」
「そうだね。でも店が開けないじゃないか」
「休みはいつだ?」
「土日だよ。決まってるだろ」
「そこから変えろ。平日を定休日にするんだ」
「うるさい! 休みが土日じゃなくなったら友達と遊べなくなるじゃないか! 家族とも過ごせなくなる!」
「落ち着け。困ってるんだろ? 護衛のなり手がいなくて」
「そうだけど……」
「なんだ?」
「私には決められないよ」
今日が月曜日。
昨日、コザルは休み返上で森に行ったらしい。
それだけ木が足りなかったのだろう。
「昨日は西の森に行った。明日は南の森に行く。明後日にデーモンデーモンに代表を集めろ。俺が話す」
「私には出来ないよ。まだ見習いみたいなもんだしさ。意見しにくいのさ」
「分かった。俺が言う。ラーゴ一派にだけ伝えておけ。水曜の夕方の鐘が鳴る頃、デーモンデーモンに来いとな」
「わかったよ」
上手く纏まると良いが。
そうしてこの日、俺は護衛の仕事をした。
九匹のゴブリンを倒し、護衛代と合わせて一万と二千エルを手に入れた。
翌日、俺はやはり広告にあった木こりの護衛を受ける。南門だ。
その前に西門に向かい、ゴザル一派らしい人物にも明日デーモンデーモンに代表が来るよう伝えた。
南の森も西の森も東の森も繋がっているのかもしれない。ゴブリンの数が減っているのかもしれない。
この日は護衛中に七匹しかゴブリンは現れなかった。




