16話 裏拳はまだ痛い
門についた俺は木こりらしき人物を探す。
ちなみにライカと通った門が南門で、他に西門と東門があるらしく、城がある方が北らしい。
木こりは西門にいるとのことだった。
いた!
斧を二つ、スコップを一つ肩に担いだ男がいた。
年齢は三十近くだろう。
俺から見ればおじさんだが、まだまだ恋愛ドラマの主人公になれる若さがある。
髪は茶髪で、とてもとても短い。10ミリぐらいの長さの坊主だ。
多分あいつが木こりだろう。
俺は近づき声を掛ける。
「おはよう。あんたが護衛の依頼をした木こりか?」
「あぁ、良かった。今日は切りに行ける。おはようございます。そうです。私が依頼しました。するとあなたがギルドから来た護衛ですね」
「そうだ」
「今日はよろしくお願いします。私はゴザルと言います。あなたは?」
「原田だ。俺に任せとけ」
「ええ。お願いしますね」
なんだか物腰の柔らかい男だった。
俺達は西門を出る。
南門を出て少し進むと畑が広がっていたが、西門を少し進むと牛がちらほらいた。他に小屋もあって、木こりの話だとそこには豚や鶏がいるらしい。
なるほど。かすかに獣臭がした。
「斧はアイテムボックスにしまわないのか?」
「私のアイテムボックスには木材関連しかしまえませんよ」
「そうか。俺が少し持つか?」
「いえいえ、大丈夫です」
などと世間話をしながら一時間ほど歩いた。
まだ森は見えない。
「森までどのぐらいかかる?」
「そうですね。町から三時間ってところでしょうか」
「そうか」
しばし、沈黙。
森が見えた頃、ゴザルはさっきの続きを話した。
「森は結界石の効果が届かない場所ですね。安全地帯は全て開墾済みです」
「結果石?」
「おや。ご存じない? 城にある魔物を追い払う有り難い石のことです。そのおかげで人里に魔物は入れないのです」
俺は違和感。昨日、畑道でゴブリンに遭遇した。
「昨日、畑の方でゴブリンに襲われてる女を助けた」
「ははは、ご冗談を。それはありえないですね。安全地帯だから畑があるのです」
「いや、本当だ」
「そうですか」
ゴザルは笑っている。危機感を持ってない。
これは信じてないやつだな。
俺は信じてもらうのを諦めた。森についたからだ。木こりが「ここからは警戒してくださいね」と言ったからだ。
「分かった」
俺は何かが襲って来ても迎撃出来るように警戒した。
少し森の中に進むと、木こりが「これ切りますね」と俺に言う。
カーンカーンカーンと、リズミカルに斧で木に切り込んでく。
音に誘われたのか、ゴブリンが三匹現れた。昨日とは違い、手には大きな棍棒。刃物じゃない。
とは言え、当たったら痛いじゃ済まなさそうだ。
俺は慎重に、かつ相手に攻撃される前に、ジャブで一気に二匹倒す。昨日と同じように吹っ飛ぶゴブリン。
最後の一匹はあえてジャブで倒さず、ストレートをお見舞いする。
顔を狙ったが、狙ったからなのか、首が飛んだ。
グロさとまだ少し残る罪悪感で吐きそうになる。
ゴザルは手を止め、こちらを見ていた。そりゃそうか。
近くで戦闘が起きてるんだ。警戒もするだろう。
「いやはや、お強いですね。Fランクとは思えない」
「そうか」
俺はゴブリンをアイテムボックスに収納しながら答えた。照れていた。
アイテムボックスは、不思議と死体だけじゃなく、パンツごと吸い込んでいく。どこかに飛んでいった頭も吸い込んでいく。
棍棒だけが残された。
確か俺のアイテムボックスは武器も収納できるんだったよな。
棍棒に近づけてみる。反応はない。
そうだった。武器じゃなく、金属だった。
間抜けな姿を見られたかなと、ゴザルに目をやると、木を見ていた。
目撃されてない。良かった。
ゴザルは、またリズミカルに木を切リ込む。
三十分ほどたった頃、俺に声を掛けてくる。
「倒れますよー」
俺は木の方を見る。
俺と反対方向に木は倒れた。
ゴザルはアイテムボックスを出し、木をしまう。
それから、切り株に一撃。
斧を切り株に食い込ませたまま、「眠れ」と言った。
それから切り株を掘り起こし、これもアイテムボックスにしまう。
それから木の苗らしきものを植えていた。
俺はハッと気がつく。
警戒が疎かになっていた。
もう一度気がつく。
ゴブリンの棍棒がなくなっている。
なんでた?
気にはなったが、今は警戒が先だ。
ゴザルは木をもう一本切ったところで、休憩した。
昼飯を食べるらしい。
俺は一口だけパンをもらった。形だけ一食とるためだ。
明日からは自分で用意しよう。
それから更に二本切った所で、「今日はこの辺で帰りましょうか」とゴザルは言った。
俺はゴブリンを十三匹倒していた。
基本ジャブで倒した。一度、後ろから襲われたので裏拳を使ったが、とても痛かった。どうやら『なんとか強化1』には拳の保護も含まれるらしい。
体内時計が教えてくれる。今は十六時ぐらい。
ほんのり空がオレンジになっていた。
帰り道、色々聞いてみた。
「木こりにも品質アップはあるのか?」
「ありますね。植林時と加工時にありますよ」
「なぜ植林する?」
「私たちが植えないと森は減る一方ですからね」
「ほう」
「スキル持ちの木こりが植林すると、その木は大体一日で自然界の一年分伸びます」
「それは凄いな」
「ただし、効果があるのは八十日までですね」
「八十年分だろ。充分じゃないのか」
「いえいえ。もっと成長してもらわないと困る木の種類もあるのです。百年物や二百年物が必要な種類が」
「そうか。そういうものか」
「はい」
「それとさっきの話。畑でゴブリンに会ったのは本当だ」
「そうですかー」
また信じてもらえなかった。
そうして俺たちが街に着いたのが十九時ぐらい。
ゴザルと別れ、ギルドで精算した。
もう門が閉まるので、屋台で焼き鳥っぽいのと、他の屋台でパンを買って、急いで食べた。
慌てながら、服屋で拳法着を買う。七千エルだった。これでも見習い作のもので、付加効果がない変わりに安いのだそうだ。
それから風呂屋キッカイで汗を流す。
門が閉じる二十時ギリギリになってしまった。
俺は宿の値段も調べられないまま、ライカの家に帰る。またランニング。ツンツンヘアーになるように、まだ乾いてない髪を手で抑えながらだからか、走りにくい。
途中で佐藤を追い抜いた。
今日の稼ぎは、護衛代三千エルとゴブリンの報奨金一万三千エル。
使ったのが、夕飯代千エルと、拳法着七千エル。
残金七千エルぐらいになった。




