15話 初じめての仕事は護衛
翌朝、俺が目覚めると佐藤の姿はなかった。
どのぐらい寝たのだろうか。
頭スッキリ、大分寝たような気がする。
部屋を出て、一階に降りて、リビングに入ると、なんだか良い匂いがした。スープかな。
窓からは、井戸だろうポンプのそばで歯を磨く佐藤がいた。
俺は外に出て、声を掛ける。
「よう。早いんだな」
佐藤は水で口をゆすいで、吐き出し、俺に挨拶した。そして話を続ける。
「七時間ピッタリしか寝てませんからね」
「ほう。なぜ分かる?」
俺はこの世界に来て時計を見てない。
時間を知らせるっぽい鐘なら、聞いた覚えがあるけど。
「スキルっすよ。『異世界ポイ活』の方のスキルっす」
「そうか。俺も欲しい。何ポイントだ?」
「時計スキルが千っすね。アラームスキルも千っす」
高い。いや、規則正しく生活すれば、飯三食、温泉、睡眠で三千ポイントだから、大したことないのかな。
俺は時計スキルを習得した。
なんとなく、今が七時ちょっと前だと分かった。
「便利だな」
「ちなみにそれパッシブスキルですね。アラームの方はアクティブスキルっす」
「そうか」
俺はうんちくを聞くのが嫌で、分かったフリをした。
「それじゃあ、俺はもう行くっす」
「どこにだ?」
「サホロですよ。今日も『広告』にデーモンデーモンのアルバイトがありましたからね」
「広告ってステータスボードにあるやつか?」
「そうっすね。千ポイントも貰えるっす。原田さんも広告見た方が良いですよ。ちゃんと広告の下にある始めるボタンタップしないとダメっすよ」
「分かった」
俺は家に戻った。
するとライカが歳を重ねたような中年の女が、キッチンから出てきた。
似てるな。ライカの母親だろう。
「おはようございます。ライカの母のマイカです。昨日は娘が助けて頂いたそうですね」
「おはよう。大したことはしてない」
「いえいえ。命の恩人ですよ。あ、これ、朝ご飯です。どうぞ召し上がってください」
マイカは木のお盆を持っていた。
スープにパンにオムレツだった。
受け取るとスープの中身が見えた。キャベツとベーコンと大豆が入ってるみたいだった。
うまー。
てっきり『品質アップ』のない家庭の味は落ちるかと思っていたが、やや下ぐらいだった。
家庭のチャーハンと店のチャーハンぐらい違うかと思っていたが、コンソメ味だろうスープは美味かった。パンもオムレツもうまい。
「歯ブラシもありますよ。置いときますね」
そう言って歯ブラシをくれた。
ぶしつけだとは思ったが、値段を聞く。
「そうですね。三千エルかしら」
高いな。俺の感覚だと一エルは一円ぐらいの価値だと思う。
歯ブラシ高い。
食べながら歯ブラシに目をやると、木でできていた。毛先は茶色。なんか動物の毛っぽい。
さておき、これで俺の借りは幾らになったんだ。
確か昨日の借りが四千エルぐらいで、泊めてもらったのと朝食で安く見積もらせてもらって五千エルとして、歯ブラシが三千エル。
一万二千エルくらいか。返せるかなと思った。
しかし、歯を磨かないわけにはいかないし、お礼を言って受け取った。
食後に歯を磨いたあと、歯ブラシはよく乾かしてくださいねと言われた。やり方を教わりながらタオルでよく拭き、風通しの良い場所に置く。
そして部屋に戻った。
今日の予定を決めるためである。
佐藤の話では、ステータスボードに表示される広告には、仕事の紹介もあるらしい。
見てみる。
『人手不足で困ってるデーモンデーモンを助けよう』
『ポーションを10瓶買おう』
『護衛のなり手がいなくて困ってる木こりを助けよう』
『美容院で髪をセットしよう』
なんか色々ある。全部は見れそうにない。
俺が気になったのは『護衛のなり手がいなくて困ってる木こりを助けよう』だ。
護衛なら多分大丈夫。
俺強くなったし。
広告をタップ。内容を見てみる。
Fランクの仕事は報酬が少なくて、人手不足になりやすい。
護衛代を上乗せしたくても、ギルドが決めることだから変えられない。
これだと仕事ができない。
誰か助けてあげよう。
完了したら千ポイント。
みたいな事が書いてあった。
最後に始めるのアイコン。
俺はタップ。
俺はマイカに礼と出かける旨を言い、冒険者ギルドに向かった。
一人なので走った。
サホロとライカの家の距離は、昨日歩いて二時間ほどだった。多分八キロメートルぐらいだろう。
前の世界では、毎日十キロメートル走ってたから、余裕だろうな。
途中佐藤を追い越し、門についたのは八時ぐらい。
門番に町に入る許可をもらい、冒険者ギルドに行く。
ここも人にぶつからないように速度を落とし、ランニング。
ギルドの掲示板から木こりの護衛の張り紙を選び、受け付けに渡す。
突き返された。
受け付けの女には、取り引きボードにカードを置くよう言われた。それから、カウンターに空いた穴に依頼書を入れるように促される。
これで手続きは終わりらしい。
木こりは門で待ってるとのこと。
さて、人生初の仕事だ。
気合入れていきますかー。




