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13話 この世界の飯は美味い

 結構混んでるな。

 建物に入るとチーズの焼ける匂いがした。

 飯屋は繁盛していた。満席だ。

 とは言え、店が大きいせいか、俺たちの前には三組しか待っている人はいなかった。


「流石は五つ星ですね! 今日も混んでます」


「五つ星とはなんだ?」


「品質アップのスキルが五段階ってことですね。つまりレベル四十超えってことですよ!」


「レベルとスキルが関係あるのか?」


「はい。最初から最後選べるのが一段階目です。以降レベルが十上がるごとに一段階上げられます」


 ふーん。スキルにはレベル制限があるってことか。


 やがて、俺たちは席に案内される。

 ここはピザ屋だった。

 俺は三百エルのピザ二枚と二百エルのミルクを頼んだ。

 宅配ピザを基準に考えるとピザ二枚は多そうだが、どうも周りを見てると、一人用の大きさらしい。

 ライカは「私が奢りますから、マルゲリータにしましょうよ」と言ってたが、「これ以上借りは作りたくない」と断った。

 

 しばらくするとピザとミルクが運ばれてくる。

 どうやら、品物が席についた時に会計するらしい。

 俺は取引きボードで初めての支払いをした。

 待っている間にライカが教えてくれていたし、一度風呂屋で見ているので間違えなかった。

 カードを取り引きボードの上にかざす。

 店員が確認する。

 

「八百エルです」


「了解した。八百エル」


 これで俺の所持金二千二百エル。

 贅沢したような気もするが、運ばれてきたピザを見ると高いものを頼めば良かったとちょっと後悔した。


 何も乗ってない!

 焼いたピザ生地だけだ!

 チーズもないよ!


 はぁ。

 俺は残念な気持ちを顔に出さないようにしながら、ピザを口に運んだ。


 うまい!


「どうですか? こちらの世界のご飯はお口に合いますか?」


「ああ」


 うまいぞー!

 あれかな。多分小麦農家にも『品質アップ』スキルがあって、料理人にもあって、つまり俺のいた世界より品質がアップしているらしい。


 まあ、俺は外食をあまりしなかったし、寿司といえば回転寿司かスーパーの寿司で、焼肉といえば食べ放題で、つまりあまり高級な飯屋に行ったことがないから、元いた世界の高級品とは比べられない。

 だか、心躍るぐらいには、この世界のピザ生地はうまい!


 顔に出てたのか、ふと目が合った時、ライカは俺を見ながら微笑んでいた。


 はー。満足した。


 店を出ると佐藤は風呂屋から帰ってきたらしく、もう待っていた。

 やはりリーゼントは維持できなかったみたいで、センター分けだった。


「待たせたな」

「すみません。お待たせしました」


「いや、丁度今ついたところっすよ」


 俺は佐藤に聞く。


「やはり、この世界でリーゼントは無理そうだな」


「ん? そんなことないっすよ。ヘアスプレーはないっすけど、ヘアワックスはあるみたいっす。それにこの世界の美容院なら、説明すれば大丈夫っぽいっす」


「ほう」


「まあ、高いから先の話ですね。セットは八千エル、でも二万エルは貯めてから行った方がお得らしいっす」


「なんでだ?」


「この世界の美容師には『髪の成長半年ストップ』スキルと、『形状記憶』スキルがあるっすよ。これが追加料金で結構するっす。だから、二万エルは必要ですね」


「そうか」


 よく分からなかったけど、要はリーゼントを諦めなくていいらしい。

 しかし二万エルか。

 この世界ではどのぐらいで稼げる額なんだろう。

 そういえば、佐藤は働いたと言ってたな。


「おい」


「なんすか?」


「今日はここでどのぐらい働いて、いくら稼げた?」


「時給千エルで、八時間働いたっす。しかも、まかない付きでしたね」


「そうか」


「水も温かくて、そんなに悪い動労環境ではないと思うっす。ただ、水道がポンプなんすよ。明日絶対筋肉痛っすよ」


「お疲れ様です!」


 ライカは労う。佐藤は顔を赤くする。


「さあ、帰りましょうか。もうずいぶん遅くなってしまいましたね」


 それから城下町を出て、また畑一面の土の道を歩く。

 佐藤の足の心配をしたが、スニーカーを履いていた。そういえば格好も寝間着じゃない。

 なんでも、朝飯をコンビニで買った帰りに転移したらしい。


 村があるのかと思ったが、畑に交じってポツポツと家があった。

 自分の畑の近くに、家を建てるのか普通らしい。

 二時間ほど歩くと、ライカの家に着いた。

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