12話 再会
俺より二十センチほど低い小柄な黒髪リーゼントのそいつは、俺に詰め寄り胸ぐらをつかむ。
「お前のせいで! お前のせいで俺はこんな世界に!!」
「落ち着け。確か佐藤だよな? オレも被害者だ」
そいつはカツアゲの被害者の佐藤仮だった。むしろ俺が佐藤仮のせいでこの世界に飛ばされたのだから、俺が怒ってもいいはず。
だけど、あまりの迫力にタジタジしてしまう。
「そうだよ。佐藤だよ! 何が被害者だ! こっちはな、確かに見たんだ。ステータスボードに最初に表示された文をな!」
「とりあえず落ち着け。何が書いてあった? どうして俺のせいになる?」
「ちゃんと見たんだよ! 『おめでとうございます。 原田哲夫さんの招待に成功しました。2000ポイントブレゼント』ってな」
なるほどね。
ってことはだぞ。
「じゃあ、お前のせいじゃないか! 招待したのはお前だろうが!」
俺は一喝。キレ返す。
「な、なんすか。逆ギレっすか」
佐藤は俺の胸ぐらから手を離した。
目は涙ぐんでる。まだ鼻息は荒いが、落ち着いたようだ。いや俺にビビったのか。
俺も怒りを抑え静かに言い聞かす。
「よく思い出してみろよ。招待に成功って書いてあったんだろ? じゃあお前が原因じゃないか?」
そうだ。俺はやってない。
「本当に本当に覚えがないんすか? 俺の言った通りの、アプリを使ったんすね?」
「ああ。黄色い笑顔のだろう」
「クソが……。どこのどいつだよ。原田さんや俺を飛ばしたのは……」
そう言って佐藤は座り込んでしまう。
「最後に確認っすけど、本当にポイ活活動ってアプリだったんすよね。ステータスボードに書かれてる異世界ポイ活には見覚えないんすよね?」
ん? んん?
見覚えあるぞ。
俺が選んだのは『異世界ポイ活』だった。気がする。
黄色い笑顔が目立っていて、検索の最初に出てきたアプリを選んだのだが。
どうしよう。俺は俺のせいでここにいる、らしい。
そして佐藤も巻き込んだらしい。
黙ってようか。
いやダセー。
ダセーぜ、俺。
自分に非があるのなら、謝るべきだ。
「すまん。俺がインストールしたのは異世界ポイ活だった。ただ、あの黄色い笑顔のアプリだったんだ」
「やっぱりお前かー!」
佐藤は立ち上がり、俺の顔に大振りのストレート。
俺はあえて避けずに、鼻に当たらない様に少し顔をずらし、佐藤のパンチを受けた。
あまりダメージはない。少しジンジンする。
佐藤は今度は俺の胸を叩き、何度も叩きながら、弱々しく言った。
「どうするんすか……。多分もう戻れないんすよ……」
「悪い。だがわざとじゃないんだ。よく考えてみろよ。悪いのは怪しいアプリだ」
「そうっすね。原田さんも来たくて来たわけじゃないんすよね」
佐藤はまた座り込む。
数秒の沈黙。
ライカが俺に小声で尋ねる。
「この方も異世界人ですか?」
「ああ、そうだ」
ライカはしゃがみ込み、視線の高さを佐藤にあわせる。
「あのー、この世界も悪くないですよ。私は異世界の事を知らないですが」
「それは知らないだけっすよ」
「そうかもしれないですね。でも起きてしまった事を嘆いても何も変わりません。この世界で頑張るしかないのです」
「分かってるんすよ。周りの人に聞いて、神殿でカードを作り、デーモンデーモンで皿洗いして働いたんすよ。だから余計に辛いっす。インターネットや電気のないこの世界が辛いんすよ」
「インターネットやデンキが何か知りませんが、住めば都です。慣れますよ」
ライカは佐藤の手を握り、「頑張ってください」と励ました。
佐藤は顔を赤くした。
「そうっすね。誰かのせいにしても、落ち込んでも、何も変わらないっすよね。……俺この世界で生きていきます」
「はい! 何かの縁です。それにハラダさんのお友達ですし、生活がうまく回るまで私もサポートします」
なんかライカの話はアッサリ飲み込むんだな。俺は思った。
佐藤は立ち上がり、ズボンをパンパンと払い、汚れを落とす。
「ありがとうっす。えっと、おねえさん」
「ライカです」
「ライカさん。感謝っす! 俺は佐藤っす」
「よろしくお願いしますね。サトウさん!」
「はいっす! ところで原田さんたちは、飯っすか?」
「ああ」
「じゃあ俺は風呂にします」
「それならば、終わったら戻ってきてください。ここで待ち合わせましょう。寝床もないのでは困るでしょう? 家に空き部屋が一つあります」
「良いのか?」
それで、ライカは俺と別れる気がなかったのか。
でも、借りが増える。
俺は悩んだ。
「だってハラダさんはお金ないでしょう? 命の恩人を野宿させるわけにはいきません」
「感謝っす。原田さんも好意は受け取ったほうが良いっすよ」
「そうか。そうだな。すまないが今日は泊めてくれ」
「はい!」
「それじゃ俺は失礼するっすね!」
佐藤は心の中では不安だろうに、表面上はすっかり立ち直った様子だった。のんきに風呂に行くと言い出した。
そんな佐藤をライカが呼び止める。
「あ、待ってください。取引ボードの使い方は分かりますか?」
「はいっす! 上にカード、下に取引ボードですよね。あとは了解すると」
「合ってます。私がいなくても大丈夫そうですね! 行ってらっしゃい!」
佐藤を見送り、俺とライカは、飯屋に入った。




