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【完結御礼】社内ニート女子、戦国時代で社長する?! ~ 浅井家の殿として織田信長と戦います ~  作者: 香坂くら


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021 金ヶ崎の攻防2


 チュートリアル・なーこの報告やと、越前国の朝倉領に押し入った織田弾正忠は、後続の異常をすでに察知していた。

 けどそれが浅井久政が加わった六角義治率いる一党の攪乱とまでは思わんかった様子。


「エテ公」

「へへぇ!」

「尻にネズミがかじりついているようだ。退治しろ。必要なら魔法使を使え」

「ハハッ御言葉ちょーでぇます! しからば御免」


 織田と徳川の連合軍はそのまま前進を続けて越前手筒山城に襲いかかり、これをたった1日で陥落させた。その余勢を駆り、今度は次の標的、金ケ崎城に重囲を仕掛けた。

 城主の朝倉景恒はってーと、戦う意志を示さずにあっさりと降伏。敵に城を明け渡した。


 その時分、わたしはやっとこさ余呉方面から塩津を越え、越前に屯する織田の尻尾に辿り着いていた。

 そこで、ある人物の部隊と遭遇したんである。


「やぁだ。そこでコソコソと蠢いているの、浅井のキャワイイ・ボンボンじゃないのォ?」


 コソコソって人聞き悪いな。

 わたしは単にムダな戦いをしたくないだけやの!


「――上洛のとき以来ですね、松永弾正久秀さん。ますますおキレイですね」


 もうお気づきの通り、彼はオカマ。

 この時代に既にこんな人がおるんかと、初対面のときは身震いしたもんや。


「うっふ、もお。お上手なんだからん」


 オカマでも彼は主殺しや大仏焼き討ちなどを仕出かし、後に戦国の梟雄とビビられる人物やし、油断ならん。


「わたしは――。わたしは、父親を迎えに来ただけです。織田に危害を加えるつもりは毛頭ないです。……妨害するのか通してくれるのか、ハッキリしてもらえますか?」

「もおヤダわ。あたし別に信長に味方してないわよ。だって、あたしの望むのは混沌だもの」


 パンと手を叩いた彼の合図で、頭に布を被せられた後ろ手縛りの男たちが10人ほど引き出された。

 全員足軽の恰好をしてるが、一様に織田の具足を着用していた。


「コイツらはね。進軍中の織田にイタズラした子たちなのよ。ホントに天晴れな子たち」


 彼らに近づいた松永弾正。

 わざと刀身をひらつかせてから振りかぶったかと思いきや、何のためらいもなく、たまたま先頭にいた男の首を叩き落とした!

 ドウと倒れ伏した胴体から血しぶきが噴く。


「うわあああぁぁッ?!」


 思いがけない挙動に心臓がバクバクと鳴った。


「さーてと、コイツら。全員被り物してるから、誰が誰だか分かんないわよねぇ?」

「や……やめて」


 手がブルつく。額と首筋にじわじわと湿り気を感じる。痛いほど心臓が脈打つ。

 松永弾正久秀。

 コイツがいったい何を言おうとしているのか。言わんでも分かった気がした。


「やめて……やめて……!」


 ――久政。

 まずは父を助けてから、他の仲間を……!


「う!」


 二人目が、今度は胸を一突きされた。

 彼らの中でさざ波のように動揺が伝わった。目隠し状態なので正確には分からないはず。でも空気が張り詰めたのは感じたようだ。


 どーしよ!

 久政はどいつや!

 躊躇のただ中、三人目の首が飛んだ。


 アカン!

 全員助ける気で動かんと、カンタンに全滅させられる!


静止命令(ルタンサレト)!」


 わたしの魔法技のひとつ、相手を束縛する魔法。

 松永弾正の動きが止まった。眼を剥き頬をヒクヒクさせている。効いたようだ。


「……何をしたの?」

「忍法金縛りの術、や!」

「――ムダよ」


 護衛が、ヤツの代わりに四人目と五人目を袈裟斬りした。斬られた者たちは呻きとともに絶命した。悲鳴を上げられないのは、頭巾の中で猿轡でもかまされてるからなのか。

 そして、こんな絶望的な状況を目の当たりにしてるのはわたしだけ。

 

「待って! アンタの言う事、なんだって訊くから! それ以上しないで!」

「うふ、可愛い子。じゃあ、あなたはねえ、生き残りのコイツらを使って織田の尻をさんざんに噛み散らかすの。思う存分に信長を苦しめなさい。あーそれと。まずはあたしにかけた術を解いてちょうだい」

「わ、わかった」


「待て。その必要はねぇ!」


 大柄の丸縁メガネ・マッチョが現れた。両手に剣を握っている。

 ……コイツ。六角次郎右衛門督義治……や!

 そしてその隣。

 浅井久政がいかにもな仏頂面で立っていた。

 ふたりの周囲には30人ほどの猛者たち。


「父上?!」

「儂はお前の父上などではないっ! 儂は一介の、名もなき武者」

「……ナニゆってんの? アタマ、打ったん? あなたは浅井久政で、わたしは浅井長政。わたしはあなたの息子です! 助けに来ました」

「だから儂は――」


「……天井知らずのおバカさんねぇ。――久政はね、素性を隠して闇働きしてる最中なの。それを敵前で堂々とバラすなんて」


 あ。そゆコト。


 お礼のつもりで術を解いてやると、松永は「どうぞ」と道を譲った……と思ったら、また別の一隊が乱入し、隊伍を組んでいきなり発砲してきた。

 主たちの盾になった六角の郎党がバタバタと斃れる。わたしらの味方は一気に半減した。


「なあっ?!」

「あらあら、サル隊だわ」


 計算狂っちゃったわ。と舌打ちする松永弾正。


「おりゃ? そこにおるのは顔まる出しの裏切者でごぜーますか?」

「木下……藤吉郎秀吉……!」


 いつの間にか松永弾正一党は全員そっくり消えていた。入れ替わって秀吉隊だ。

 一斉射撃の部隊は見慣れた服装で統一されている。

 今度の敵は松永の部隊と違い、旗幟鮮明。明らかに敵対行動をとっている。


 やがむしろその方が思い切れて助かる。


「――六角義治。わたしの攻撃と同時に突っ込めるか?」


 相手は現代式銃を抱えた魔法使たちや。簡単には勝たせてくれないやろ。


「あーん? 何命令してんだ、えぇ? ――」

「【魔力砲(プリエカノン)】」


 六角義治のいきり声なんて聞いてられない。


 突き出した右手の甲から、砲弾のような衝撃物を跳ばした。

 わたしの得意技のひとつだ。


 連中は魔法技の【障壁魔法】を駆使しつつ、第二射を放ってきた。

 例のロシア製狙撃銃に上乗せした魔法弾や。


 やが、わたしはその瞬間を待っていた。


 一斉砲火の集中を浴びたわたしは、【霧状化(ブリュイヌ)】と【疾風(クーデヴァン)】の魔法を同時発動させ、ヤツらの懐に飛び込んだ。


 自らの肉体を一時的に気体に変え、あらゆる攻撃を回避する【霧状化(ブリュイヌ)】、その字のごとく迅速に間合いを詰められる【疾風(クーデヴァン)】、これらの詠唱(ゲベート)無しの同時使用は誰でもできる技やない! わたしってばスゴイんやで!


 その隙にわたしのお願いを聞き届けた六角次義治が突撃を敢行。

 敵が張った【障壁魔法】は予想通り対魔法効果やったので、物理攻撃には対応できず、3人の魔法使が彼らによってたちまち討ち取られた。


 秀吉はヒョイヒョイと器用に攻撃を避け、必死になりながらも指揮を執り続けている。耳が張り裂けそうなほどの声を上げて護衛の槍足軽たちを動かし、ともすれば形勢崩壊の危機を食い止めた。


 が、その身柄を拘束したのはわたしの体術やった。

 彼を突き倒し地面に釘付けした。これは初めて甲賀流術が実戦で役立った瞬間やった。


「木下藤吉郎! アンタの主の織田弾正忠は何処や! 連れてけッ!」


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