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002 潜入生活


 ーーわたし浅井ハナヲは、勤め先からある密命を受けて戦国時代にやって来た。


 ……密命。

 それは、浅井長政に成りすまし、【ニセ織田信長を捕まえて令和に強制送還】すること。

 でもただ送り返すだけで無く。

 ホンモノの信長もその時代のどこかにいるはずで、探し出して【織田信長に据え戻す】コトも絶対条件やった。


『ニセ信長は元同僚だから』

「ウン。それは知ってる」

『彼は、歴史改変をしようとしてる』

「それは初耳」

『んなワケねーだろ。予習しなよ、バカ』


 口の悪いチュートリアル担当の()()()の説明によれば、脱走前の彼は、本能寺の変など起こさせず、織田幕府の統治下で日本を強国化して、恒久平和のため、誰もが成しえなかった世界一統を実現させてやると息巻いていたそう。


『そんな夢物語を描くバカな大人を秘密裏に捕らえ、会社に連れ戻すのが浅井ハナヲさんの役目よ』

「表ざたになる前に内々に処理したいって肚やね。それは出発前に上司からくどいほど言われた」


『ヤツの背中に触ると自動的に拘束魔法が発動して、社に強制送還できる仕組みだから』

「聞いた。抵抗の余地を与えんよう奇襲するんやね」


 でもそうカンタンに行くかなぁ。

 ニセ信長だって当然その捕縛方法は知ってるやろうしなぁ……。


『じっくりと時間をかけて戦国期に溶け込み、自然な流れでニセ信長に近づく。油断させておいて背中を獲る。だそうよ。理解した?』

「せめて、織田信長に近しい尾張国の誰かに成りすませんかったんかな。あまりにグズグズしてたら、その間にホンモノが消されそう」


『ホンモノをって。そんなことをした場合の時空に生じる悪影響くらい、ヤツも承知してる。もう一度言うよ? どれだけ自然に現地に溶け込むか。アンタ、ホントに魔法使?』

「うひ。ごめんなさい」


 んじゃ言わせてもらいますが、初日のあの失態は何やったの! 不自然もいいとこやったっしょ!

 などと心の中だけで文句を言うわたしだった。


◆◆


 ――弘治3年(1557年)。


 わたし、12歳になった。

 六角家で実質人質状態のまま、あいも変わらず肩身の狭い不遇な日々を送っている。


 近頃、剃髪して当主の座を譲った六角承禎(じょうてい)、その跡取り息子には常態的にいじめられてるし。

 その悪たれっ子の名前は、六角次郎右衛門督(じろうえもんのかみ)義治(よしはる)

 まぁ、武士っぽい立派な名前やが、問題は中味。


 いったい何処で手に入れたのか、丸縁のメガネをかけてるし、なぜかバーベルとかを自作してて、やたらと筋トレにハマってて、現代風の浅黒ボディビルダー体型をしてる。

 総じてその風貌は、およそ戦国武将らしくない。


 わたしとは()()()なんで、この時代だと少年から大人へ、心身ともに成長する段階に差し掛かってるはずなんやが、やたらと子供じみてて暴力的で精神年齢がちっとも向上しとらん。もっと悪く言えば性格が破綻してる。

 そのせいなんか、父親の六角にも嫌われてるっぽい。だって、いつも反感を買うような事ばかり仕出かすんやもの。そりゃアカンよ。


 それに、自分よりわたしの方が実力的にやや優位に立ってるのも、どうやら気に食わないみたい。

 まだ元服前のわたしを戦場に引っ張って行き、伝令や、時には敵中に送り出して偵察させたりする。

 当然、父親の六角承禎にはナイショで。言えば「大事な人質を!」 とかってどやされるのがオチやろし。(それが建前かどうかは知らんけども)


 で、自分は采配そっちのけ。大抵、自陣の奥で筋トレに励んでいる。

 そのクセ負け戦になると、素早い。部下たちを置き去りにして一目散に逃げ退る。

 おかげで何度死ぬ思いをしたことか。


 実際、コイツの暴言に反応したせいで、本物の浅井長政は死んじゃったみたいやし。

 とある戦場で渡河する場面になった。

 衆目の中彼に「泳げねぇテメーは、釣り糸垂らすしか能がねぇ。考動って言葉知ってるか? 何で親父はこんなヘボを生かしてんだ?」 なーんて風に煽られ、カッとした彼は泳げもしないのに「無能かどうか。いざ、ご覧あれ!」 って真冬の川に飛び込み。やっぱり泳げず溺れ。しかも風邪を引き。


 あーまーそう聞いたらどっちもどっちなんやけど。

 にしても長政くんっ、短慮すぎるやろっ! と同情心強めに手を合わせた。


 そのあたりのエピソードは、チュートリアル・なーこから教えてもらった。


 ところで後々コイツは、わたしが浅井家に帰参を果たして独立してから、「ナマイキだ」などと、打倒わたしをスローガンに掲げ、共闘を目論んで美濃国の斎藤家との縁組を勝手に進め、父の承禎に大目玉を喰らった。一時期、「反省しろ」と山籠もりを命じられている。義治は「思う存分筋トレできる」と嬉々として従ったそう。

 それはまた別の話。


 さて、六角承禎の代から六角家は、湖西の近江朽木谷に身を寄せ御座所としていた室町13代将軍の足利義輝公をバックアップし、京に跋扈する三好氏による専制政治打倒にたびたび挑んでいた。


 三好氏ってのは四国を基盤にし、このころ畿内に一大勢力を築いていた戦国大名で、そのトップの三好修理大夫長慶って人は、織田信長登場以前の事実上の天下人で、当時その名を日本中に轟かせてた大物政治家やった。


 その三好修理大夫長慶を追い払い、京へ返り咲きたい足利13代将軍義輝は、5年の月日をかけて力を貯め、家臣たちを集めて、ついに京への進軍を開始した。


 ときは永禄元年(1558年)のこと。


 その上洛軍に六角軍も加わっていたんである。(ついでにわたしもね。何度も言うけど元服前なのに)


 そのときのわたしは六角承禎の本陣で守衛の任に当たってた。それなのにバカ息子義治にたびたび呼びつけられて最前線での威力偵察なんかをさせられている。何度も言うがコイツの独断で、だ。


『史実を見た限り、勝てないみたいね、この戦』

「え。じゃあ、どうなんの?」

『結局和睦を結んで、三好の言いなり政治が始まるっぽいわね』


 膠着状態に嫌気がさした六角承禎が仲を取り持ち、和平を結ぶそうだ。

 そうする事で、とりま六角の体裁も保たれるって訳か。

 なんにせよ、戦場で死んじゃいそうな目に遭わずに済みそうやな。


 それから少し後、足利義輝将軍は念願の京への帰還を果たし、親政体制を構築すべく、三好一党との政治的調整に入った。

 お飾り将軍になっちゃいそうな気がスゴークするけど。

 比較的平和裏にコトが進んで良かったと思うべきだよね。


「猿夜叉。お前もそろそろ大人の儀式をしても良い頃合いじゃのう」


 猿夜叉。ずーっと慣れないヘンな名前、わたしの名。

 大人の儀式って言われてもなぁ。


 こっちの世界に来て早、1~2年かぁ。女の子ってのがバレないかってずっとヒヤヒヤしてたし、もし義治にでも知られたらどんな目に遭わされるかってゾッとしたけれども。何とかここまで無事に過ごせたよね。


 今後もどうか、ややこしいコトになりませんように。

 それと、とっとと任務を終わらせられるように、なにとぞ運も味方してくれますように。


 なむなむ。 


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