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【完結御礼】社内ニート女子、戦国時代で社長する?! ~ 浅井家の殿として織田信長と戦います ~  作者: 香坂くら


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015 長政ハナヲの施政


 チュートリアル・なーこを介して、会社の上司が久々に絡んできた。

 何事かと尋ねたら「活動実績を報告してくれ」との事。上層部に「ところでアノ件、どうなってる?」 って質問されたからやと。今まで忘れてた方々、それにアンタもさんざ知らん顔してたのに、それですか。


「ダルイなぁ」

「気持ちは分るよ」


 上司(このオトコ)にゃ恩も義理もまーったく感じてないし、ムシやなと思ったが、板挟みの()()()はカワイソーやし、しゃーなし今回だけはレポートしてやるコトにした。


 ――まずは経済・産業面から。

 近江浅井家の当主になったわたしが最初に手掛けたのは新田開発。

 六角承禎との前哨戦、肥田城水攻めの舞台になった愛知川と宇曽川の流域。ここら一帯に目をつけ、大掛かりなテコ入れをした。

 両川の堤防作りのため、周辺の岩石群を搬入し、伊吹山付近を織田家よりも先に押さえ、そこで採掘した石灰岩、それに砂や粘土を混ぜ込んで、稚拙で原始的ながらセメントをこさえ、石塁構築時の補強材に使った。

 この治水工事により、近江国の石高がざっくり35万石だったのが45万石にUPした。

 気を良くしたわたしは姉川流域の横山丘陵の先、龍ヶ鼻など他の目ぼしい地域にも食指を伸ばし、今や推定50万石を超えるくらいにはなってると思う。(多少の希望入り)


 ところで永禄のこの頃は石高制やなく貫高制で、通常はコメの収穫量を銭換算して麾下の軍役賦課を決めてたんやが、わたしはそこをさらに踏み込む暴挙をおこなった。

 年度初めに自領内をくまなく検地。秋に出来栄えを検視し石高を割り出す。

 その成績で翌年1年間の国衆(部下)の序列を決めたんで、自然の流れで家中に実力主義が浸透していった。良くも悪くも国衆同士、張り合うようになった。表現を選ぶとすれば、切磋琢磨してくれるようになった。

 むろん、やり方が気に食わないって人は疎外され追い詰められ、出奔や反乱に到る者も数多く出た。

 それらはそれらで好きにさせたし、見過ごせん者は力づくで領外に追い出した。


 あと漁業。

 現代の漁法を参考に琵琶湖で獲れたマスとかアユ、コイ、なまずなどを淀川や宇治川ルートで京や堺方面に輸出した。それと鮒ずしはわたしも好きで、近江名産品として特に力を入れて販売した。

 そして2年目には養殖による増産販売にもチャレンジ。これは残念ながら人気が出ず、コスパはいまいちの状況。


 あーでも、水運を活かした魚以外の取引も軌道に乗り始めている。

 トレンドは、今浜付近で発見した土倉(つちくら)銅山。産掘した銅を鋳造技術で加工、食器や工芸品、仏具などに製品化。

 最近、堺に根を張る南蛮寺の中に太客を見つけ、海外輸出の足掛かりができた。

 銅は加工しやすいし、割と貴重やったんで、なかなか儲かった。

 あとは変わったところでは近江銅貨の流通も開始。その銅貨で取引するなら出自や規模に関係なく商いすることを許した。これはまだテスト段階やが、一攫千金を狙う駆け出しの商売人や堺の町衆の物好きにはそれなりに注目を浴びている。

 

 ――次に軍事面。

 六角氏との攻防の前後から、近江国友村を取り込んだ。

 当然ながら目標は、国産の高性能火縄銃。これの大量生産だ。


 銅と共に高品質の鉄素材を産出しだした今浜の地。

 ここを、後の羽柴秀吉を出し抜いて【長浜】と改めた。

 転入者には永久免税する旨を布告。永住と起業の自由を柱にした街づくりと並行して巨大な【たたら場】を建設。国友製重火器の生産ラインを立ち上げた。

 実は織田信長はこのあたりの浅井家の内情を調べるために以前、お忍び訪問と称し、多数の間者を侵入させていたと判明。

 わたしは思い定め、信長に浅井を一目置かせるためにも、富国強兵路線を貫くことにしたんやった。

 そのために国友の棟梁、国友十余斎を超高待遇で召し抱え、彼に工場運営の重責を負わせた。


 ――最後に政治面。


「浅井社長」

「なんや」


 わたしは浅井家の家臣たちに会社組織の役職名称を使わせることにした。

 これにはチュートリアル・なーこはじめ、遠藤喜右衛門殿や赤尾美作守清綱殿、磯野丹波守殿らも抵抗した。がしかし、わたしもだいぶ頑固なので彼らの方から「良きように」と折れた。


 ちなみに父の久政は会長、専務は赤尾美作守清綱殿、常務は磯野丹波守殿を任命している。

 遠藤喜右衛門殿は一番の腹心やが敢えて職位は執行役員に留めている。このあたりは当人や赤尾殿とジックリ相談し合って決めていた。


「海北取締役が発言を求めています」

「御言葉ですが社長。在番制はそろそろ止めにしてもらいたい」


 ――在番制。これは即断でルール化した制度。

 本城小谷城に主要な国衆は屋敷を持ち、常時詰めるというものである。


「相分かった。んじゃ今後は長浜城に詰めることにしよう。但し詰めるのは執行役員以上の者。子息たちは担当の支城に本隊とともに詰め、常時出陣できるよう、軍事備品と兵員の管理をさせるようにね」

「それならば仕方ないですな。跡取りどもに本領を任せましょう」


 海北善右衛門綱親殿は慇懃に平伏し、場が治まった。お察しの通り茶番なり。

 予め重役衆で手はずを決め、そのシナリオ通りに進行してるんである。


「ま、偏屈の海北殿が認めてしまっとるし。社長の意向に従いましょうかの」


 赤尾専務のわざとらしい嘆息で役員会議を終了させた。


◆◆


『――浅井っ、浅井ハナヲ! 聞いてんのかコラ! オマエっ、歴史曲げて勝手な事してんじゃねーよ。なーにが社長だぁ? 長浜城だぁ? このバカ!』 

「……んじゃ部長。あなたもこっちの世界来てくれますか?」


 上司の怒鳴る声がイヤホン越しに響いた。


「わたしはね。……わたしはこっちの世界で、こっちの人たちと生きてんですよ。……任務は忘れちゃおらんすよ。やけど。これからもわたしは、自分の思うように一生懸命生きていきます。――あなたが知ることもない、この世界でね」



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