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【完結御礼】社内ニート女子、戦国時代で社長する?! ~ 浅井家の殿として織田信長と戦います ~  作者: 香坂くら


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012 織田於市姫


「於市姫……。於市姫やとぉ?!」


 この城の城主、磯野丹波守殿が音もなく現れて教えてくれた。

 さては物陰で様子見していたな? やったらさ、さっさと助け船出して欲しかったよ。

 織田の姫さま、とっくに行っちゃったし。


「何ゆえ、この地に参られたのでしょうな?」

「それはこっちが聞きたいよッ! つか、信長が連れて来る訳もないよねっ?」


 お見合い?

 いーや確かこの時代にはそんな習慣、ほぼ無かったろ?


「ところで殿。その織田弾正忠殿の姿が見えませぬが?」

「な、な、何やとぉ?!」


 またもや驚き。重ね重ねすぎる!

 磯野丹波守殿が言うには「厠は何処だ」と座を立ち、そのまま本丸屋敷から出て行ったとの事。

 遠藤喜右衛門殿がキレる。


「な、何だと! 貴殿はそれを黙って見送ったのか!」

「儂ではないっ、儂の家来どもがっ」

「家来の不始末は主の不始末であるッ!」


「遠藤殿、磯野殿、ケンカせんで! それよりどうする、追い掛ける?」

「追い掛けて討ち果たしましょう、今ならまだ」

「……いや。ヤツも追捕への備えをしておりましょう。相当の人数を繰り出さねば」


 どうしようか。

 歴史に頭をよぎらせれば、このまま推移した場合、織田は数年のうちに美濃国を制圧し西進する。

 浅井は織田の動向に翻弄される。


 仮に、ニセ信長の背中を取れれば、ひとまず近江国の平和は保たれるし、前々からのうっとおしい任務からも解放される。


 わたしはオデコが痛くなるほど苦悶し、決断した。


「……止めとこう。遠藤喜右衛門殿の言うように、きっと弾正忠は待ち構えてる」


 危惧するのは、あの魔法使部隊だ。

 あれに対抗するには、このお城総出の出撃になる。

 裏で六角あたりを利用してるかも知れない。空っぽの城を横取りするなんて訳もない。


 あの【|織田弾正忠上総介三郎信長《ニセ信長》】なら、じゅうぶんな段取りをした上で今回のお忍び訪問をしているだろうから。


「小谷に帰る。磯野丹波守殿、悪いけど今夜は織田の動きに備えて不寝番の数を増やしておいて」


◆◆


 小谷城への帰路、須賀谷(すがたに)温泉に寄った。

 わたしはこの温泉に足繁く通っている。


 令和にいた頃、魔法学校時代に唯一できた友だちとたまたま、この温泉に来たことがあり、正直何て名前の温泉やったか忘れてたんやが、こっちの世界に来てからの初湯治で「ビキーン」と、まるで頭の上に豆電球が灯ったように思い出し、「この温泉、来たことある!」 ってなった。

 懐かしさと切なさ、そんでもって健康や美容にも良さそうやって理由で、すっかりこの湯場のファンになってた。


 ここの温泉はちょうど小谷城山の裏手にあって、最初は山道の往来に閉口したけれど、チュートリアル・なーこに頼みこみ、土木技法に精通した社員のオンライン指導を受けつつ、遠藤喜右衛門殿や磯野丹波守殿らとともに、木製のトロッコ型ケーブルカーを敷設することが出来た。


 とても簡素で超小型やけど、この快挙にわたし、飛び上がるほど歓喜した。


 そんなこんなで最近はストレス解消効果も感じていて、ほぼほぼ毎日通いしてるかも知れなかった。

 それに特に今日は、色んなコトがあってストレスハンパなくって、どうしても寄りたかった。


 そして。


 そこでわたしは、例の姫さまと再会を果たすことになるんである。

 しかもその場所はあろうことか、まさに湯殿。そこはこじんまりとした露天風呂で、ゴツゴツの岩場から溢れる湯が流れ込む湯泉の中やった。


 美少女、織田於市姫は護衛もつけず、一人で湯に浸かっていた。

 立ち昇る湯気に合わせ振り向いた彼女と目が合ったわたしも同じく、護衛無しの丸裸……やった。


「どうして……ここに?」

「だって。ここで待ってたら、そのうち殿様が迎えに来てくれるって」


「ま、まぁ……。温泉自体はここらの人たちも時々利用してるから、か……」

「でも殿が入るのはいつも、奥殿の端っこの、この隠れ湯殿でしょ? 聞いて知ってるもん」

「うーん……」


 抜け目ないってか、ちょっとコワイ。

 それに、廊下で出会ったときと比べ、なんだか口調が変わっている気がした。

 およそ戦国期の高貴な姫様のそれじゃない。どことなく親近感のある、もっとゆっちゃえば、こう……何処にでもいる現代の女の子っぽい、そんな話し方やった。


 面食らったのと、もうひとつ、わたしの目が釘付けになったものがあった。

 それは姫の体形。


 最初見たときはカン違いかと思ったが、胸元まで浸かっていた身を上げ、近場の岩に腰掛けたものやから、ハッキリと気付けた。


 ……まぁ、幾らこの子が美少女だろうとなんだろうとしょせんは同性やし、幾分のテレと緊張、そしてごく軽い舞い上がり以上の欲情なども多分起こすわけもなく、そうゆーコトでなく、わたしはその指摘したい一点に気持ちを持っていかれて、彼女に先を越された。


「あぁ、浅井新九郎長政さま。女の子だったんだ?」

「……あ。……へ? しまった! ――てか、於市姫、そのオナカ……!」

「ああ、コレ? えへへー。3ヶ月」


 えへへって。3ヶ月って。

 妊娠してるのを承知で信長は、於市姫をわたしに嫁がせようとしたんか?


 いや、それよりも。


「於市姫。姫の兄上はとっくに尾張に帰ったで? 置いてけぼりってか、キミがここにおるん、兄上は承知なんか? つか、どーやって美濃越えして来たん?」

「承知も何も。ボク、家出してきたんだよ?」

「はぁ?」


 荒い岩の群に囲まれた秘湯。茶色に濁った鉄臭のする湯けむりが、わたしら二人にまとわりついた。

 彼女の本意が知れず、一歩、二歩と後ずさって転ぶ。

 丸裸を大っぴらに晒していたのを思い出し、恥ずかしい場所を見られて恥じ、湯船に飛び込む。


「家出だよ。だってモラハラ、セクハラの織田信長なんて。ホンット、サイテーだと思う」

「モラ……セク……」

「浅井の新九郎さまは、こんなボクを追い返す?」

「い、いや……それは……」


 完全にわたしはこの、織田の姫君に翻弄されている。

 そう自覚した。


 ――後日。

 織田家から使者が来た。


 織田於市姫は当方で預かっている。無事でいるので安心して欲しい。

 そんな感じの早馬を送っての、先方の対応やった。


 使者の口上はこう。

 どっちにしろ、近いうちに嫁にやるつもりだったので、そのまま姫を引き取って欲しい。


「でしょうねぇ。手っ取り早く話が進んで良かった良かった。バンザーイ」


 於市姫に報告したら、そう返された。

 その日から織田於市は浅井於市になり、わたしらはまさかの押しかけ婚ってカンケイで、新婚生活をスタートさせた。

 史実って、いったい何なんだ?


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