表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

手招きのよろこび

作者: いけ蔵

手招きのよろこび

いけ蔵


 いつもの事かもしれないが、30歳を直前のクリスマス。今年こそは彼女と過ごす予定であった。しかし、予定はあくまでも予定であった。昔から少し人の気持ちを察する能力が欠けている気がする。クリスマス当日は混むので毎年のように、少し前倒しの日程で、男子数名で食事や出かけたりしている。今年はいつもよりも少し豪華に、相模湖までグランピングをしに行く予定である。テニスサークルの同期である長峰葉といつもの友人の三人。しかし今年は4人で行ったほうが安くつくので、3年年下の小野寺朔が仲間に加わった。

 中村一樹は少しプライドが高い所がある。テニスサークルというところは陽キャの集まりのようなところがある。三角眼の糸目そして不愛想となると、自分から声をかけない限りは知り合いになることは難しかった。葉も含めた同期の二人は、二人が先に仲良くなっていた。そこに葉から一樹に声をかけ仲良くなった。見た目も含め学部も各々違う。唯一同じところとしては、キャンパスライフを謳歌したいというところだけだろうか。自分から声をかけることもなく、4年生となり1年生として入部してきた小野寺朔と知り合い、同じサークル内ではあったが、パイプ役となる人がいないと談笑することもなかった。プライドが少し高いからこそ、他校との合同練習の際などは、イケメンでそんなに自ら話をしなくても黄色い声援の持ち主たちにチヤホヤされている朔が少し気に入らないと思うことが多かった。


 キャンプの火を消しながら、残り火で少しマシュマロを焦がす。4人の男たちがほろ酔いでマシュマロを焼いているのは違和感がある。面倒くさいので3つぐらいをまとめて串に刺したため、溶けたマシュマロがつながり“きりたんぽ”のような見た目となり笑っていた。スーパーで買ったはいいが、お酒が進んだため忘れていたもの。最後の火を消すながら、少しあぶってみるかと思って始めたものは意外にもみんなの話のネタとなった。いくらキャンプ場とはいえ、11月下旬となるとやはり寒い。火の安全を葉らが確認してくれて、みんなで、トレーラハウスの中に入る。4人が寝るために、ソファーなども片づける。ホームページの写真と比べて変わらないが、やはり男4人で泊まるとなると、手狭にも感じる。トイレとシャワーは専用の水回りがまとまった棟がありそこに行くことになる。吞んでいるからこそ、トイレが近くなる。トレーラータイプにしたことを少し後悔している。

 シャワーを浴びに行くために、100円玉3枚を握りしめていく、昔の自分だったら、小野寺とこんなに話しただろうか。ここに向かう道中も軽自動車に男4人という環境に違和感なく参加していたことも、面白いと今更ながら、事実上の酔いさましのシャワーとなり、洗うというよりも、時間が切れになるまでの間、流されているかのような気分になっていた。

 トレーラハウスに向かうと丁度小野寺と入れ替わる形となった。葉たち2人は呑みすぎたのか、シャワーも浴びずに小さめのいびきをかきながら寝ていた。


“独り身男子会クリスマスバージョン”を11月に行っていた為、12月は予定あえば普通に同期3人の飲み会ぐらいだろうと思っていた。しかし、みんな予定があるのだろう、特に仕事に情熱を注いでいるわけではないので、休日出勤とは無縁である。他2人もそこまで仕事一筋という感じではないのだろう。役職などの話などは聞いたことも無い。かっこいい言い方をすればワークライフバランスという感じだろうか。皆一様に仕事は生活の一部という感じなのだろう、仕事のために私生活を削るという発想は皆、無かった。しかし師走と言われるだけあって、皆時間が合わない。そんな時にスマホにメッセージが届く“週末空いている?”たったの一言のメッセージ。3学年年下から来たメッセージとは思えないくらいシンプルなものだった。

“まぁ時間も空いているし”

“小野寺の事だからほかの人も誘っているだろう、何人かは知っている顔が居るはずだろう。”と思いながら、“OK!”のスタンプを送信した。


 中村の家は俗にいう“汚部屋”である。大学時代は宅呑みの場所提供してと友人らに言われて場所を提供したことがあった。

「汚い部屋でいいなら…」と言いながら、

案内すると「本当に足の踏み場無いな…」と言われ、「一駅先になるけど、俺の部屋でよくね」と言われ、満場一致で場所を変更したほどである。


小野寺との飲み会は、メッセージで“じゃ、19時に千歳烏山の中央改札口でたところで“というシンプルなもの。その文に「俺のほうが先輩なんだけどな」と心の中でつぶやくのであった。

朔は万人受けするイケメンである。休日の朝に行っているライダーに出てきそうな雰囲気であった。でも決してレッドではなく、おそらくブルーだと心の中で思う。少し冷静そうな感じと、イケメンに対するコンプクレックスだろうか、決して主役ではないと考えていた。

 集合場所につくと、もう小野寺は待っていた。「おっ」「おつかれさまです」というような本当にシンプルな会話を行い。壁に背を向け、改札口を眺めた。

 朔がつぶやく「今日は俺と先輩だけですよ」

 「まじかよ、二人で何を話すんだよ」というそんな会話をした記憶がある。


駅前から3分ほど、歩くとふらっと入れるような居酒屋は無くなった。

「どこにお店あるん?」

「二人なんで、俺んちですよ。安心してください先輩の家よりもきれいですから」

すべてが朔のペースで進んでいく。普段なら絶対にない。人見知りというか人選びをしてしまう癖が未だに抜けない。特に飲み会などはそうなってしまう。どんな会話をしていいかわからない。

 学生時代から住んでいるという1Kの部屋「なんだかんだでもう10年か長いな」と朔がつぶやく。

 一樹は不思議な気持ちでいた。なぜそんなことをつぶやいたのか朔はつぶやいたのか。

荷物は多いが整理整頓されている印象だ。決してスリッパなどは無いのだが、自分の部屋と比べたら本当にきれいなものである。コンビニで買ってきてくれたおつまみと、もともと家にあったのかも知れない缶チューハイを呑みながら、談笑していた。

 30歳と27歳まじかの年齢になったとしても、次の日が休みだと基本的な呑み方は変わらないのだろう。お互いに自然と独り身なのを確認した後に、「俺の職場なんて、事務のおばさん以外全員男ですよ。先輩よりも出会い無いですよ」とつぶやかれ

「そこは確かに俺のほうが恵まれているは」とつぶやく。客観的に見ればどんぐりの背比べなのだろうが、そんな言葉をかけられると、独身の自分でも安心して過ごすことができる。なんというか。ポジティブな飲み会のはずが、クリスマス時期は自分以外みんな大切な恋人や幼い子供なら親たち家族と過ごすのだろうと哀しく見つめてしまう自分がいた。


 自分と他者を比較して相対的に幸福度を測ってしまう。幼いころからの癖かもしれない。一樹は比較的裕福な家庭に育った。幼いころは少しでも興味を持ったことは習い事をさせてもらっていた。中学生になるころには、常に祖父母を中心とした親族から「将来なりたいものは決まっているの? なりたい職業から逆算して考えない」と言われていた。

 両親は庇ってくれるというよりは、「その通りだな」というだけで、女のいとこが庇ってくれるだけだった。男と女でこんなにもかけられる言葉が違うのかと疑問に思ったほどである。


呑みながらそんなことを考えていた。自然と顔が暗くなったのだろうか。朔が「先輩泊まっていきます?」と言った。

「あ、泊まるわ」と了解を得た。こたつのスイッチをオンにしたまま眠りにつく。幼いころだったら絶対に許されないことをしている。ちょっとした罪悪感があるのが、友人宅に泊まるときの贅沢な気がする。


朝方視線を感じる。重めの瞼が開く、なぜか朔が見つめている。「なんだよ」とつぶれた少し低い声で答える。「なかなか起きないなと思って」とつぶやく。そして少し目線を逸らした。「俺の時計の見間違いですね。まだ5時でした」

「見間違いすぎだろ」

「おかげでこんなに早く目覚めちまったよ」と上半身を上げた。

真顔の小野寺が、ベッドに腰を掛けていた。

左手で「とすとす」と叩く。一瞬布団をたたいているかのような音だったが、呼んでいるのだろう。自然と隣に座る。少し重たい頭を前屈みにして。

ふと冷静になり、今度は天井を見上げる形で、顔を持ち上げ「タオル借りてもいい? 俺寝起きのままだ」と伝える。借りれて当たり前という感じのセリフ。

返事がないので、小野寺の方を見つめる。

 そのとき、酒の匂いが口腔内に戻ってくる感覚と、乾燥した唇の温もりを感じる。

「なっ」自然と朔の鎖骨あたりに手をのせ、離すように押しのけるが、肩に手を回されてるので、小野寺の身体が動くことは無かった。

次はしっかりと口づけをされるという認識のもと、唇が重なった。

 師走の6時ごろはまだ暗く、耳を澄ませば鳥が鳴いているぐらいである。そんな中自然と二日酔いの力のせいか、セミダブルの寝具に二人して二度寝をする。10時ごろに目覚めて、朝食なのか昼食なのかわからないものを、朔が用意してくれた。こたつに入るとスイッチがオンのままであることに気が付いた。互いに顔も洗っていない。そんな中で食べる食事は初めてだった。自分には無縁だと思っていたイケメンの後輩が、なぜ自分のことを手招きをして温もりをくれたのかは、未だに不明だが、家族ではない人と年を越すことになれたのは彼のおかげだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ