第14話 交渉する
魔力を練り上げ、気合を入れたノエルだったが詰め込んだ知識で気づいてしまう。
この土地面積では自分の建てたい建物が安定しないことに――。
急に魔力を引っ込めて、考え始めるノエル。
(どうする…。せっかくここまで来て中途半端な家を建てるのは嫌だぞ…。)
「ノエル。どうしたの?」
「ノエル様。大丈夫ですか…?」
心配させてしまった。
「ああ!大丈夫!ちょっと追加で考え事をね。」
ノエルは考える。
今の僕の持っている土地の面積は、横幅20メートル、奥行き60メートルの1,200平米だ。
せめてもうあと40mほどは横幅が欲しい。
どうにかならないものかと考えるノエル。
そして閃いてしまった。
両隣の土地の所有者に交渉すればいいのだと。
「よし、ちょっと交渉してくる。」
「え?」
「にゃ?」
ノエルは貴族らしい気品のある振る舞いで、自分の土地の両隣にある青果店のオーナーとレストランのオーナーに挨拶に伺い、その2名を無事に冒険者ギルドの執務室に招待することに成功した。
「少々おもてなしの準備をしますので、20分後に冒険者ギルドの執務室までお越しいただければ幸いです。」
そう言ってノエルは先に執務室へ向かった。
そして約束の20分後である今。
青果店のオーナーであるギルバート、そしてレストランのオーナーであるエリオットは、緊張した面持ちで応接セットの客用ソファに腰かけていた。
フェリスがノエルから受け取っていた高級茶葉と高級ティーセットを使い、ギルバートとエリオットにダージリンのファーストフラッシュをストレートティーで出す。
「どうぞ、ノエル様がいらっしゃるまでごゆるりとお待ちくださいませ。」
フェリスがそっと焼き菓子を高級なお更に乗せ紅茶に添えて出す。
ギルバートとエリオットは息を呑む。
明らかに上流階級でしか使う事の許されない気品の漂うティーセットに上品な紅茶の香り。
自分たちは一体どうなってしまうのかと。
数分経って、ノエルがやってきて対面のソファに腰かけた。
「ギルバート様、エリオット様。どうもお待たせしてしまい申し訳ない。お互いの自己紹介は先ほど済ませていると思うので、さっそく本題に移りたいが、大丈夫ですか?」
ノエルは気品マックスで微笑みながら2人に話をする。
「ノエル様。どのようなお話でしょうか。」
「是非とも、お聞かせくださいませ。」
ノエルは紅茶や焼き菓子を一瞥して一言。
「その前に、是非とも我がクレルドリュンヌ領の自慢の紅茶を味わっていただきたい。ご足労いただいた謝礼も込めて心ばかりだが、王室への献上品にしているダージリンのファーストフラッシュを淹れていてね。冷たくならないうちに飲んでいただければ嬉しいのです。」
ノエルは微笑みながら手のひらで紅茶を指し述べた。
「はっ!はい!すぐに、今すぐ飲ませていただきますっ!」
2人はそう言って紅茶を飲み、感動した面持ちでノエルを見た。
「こ、このような上品な紅茶がこの世にあるとは思いもしませんでした…。ありがたき幸せにございます。」
「いえいえ!そう言っていただけると僕も嬉しいです。もしよろしければ本日お帰りの際に、茶葉を包んでお渡ししますよ。ご家族の方と一緒に楽しんでいただきたい。」
「あ、ありがとうございます…!!!!」
2人はノエルに深く頭を下げてお礼を述べる。
(ふっ―。この交渉、すでに僕の勝ちだな!)
ノエルは以外にも姑息だった。
「顔を上げてください。喜んでいただけて嬉しいだけですので。それでは、本題に入りますね。」
「はい…!」
2人は身を固くしてノエルを見つめる。
「単刀直入に言うと、ギルバート様とエリオット様の所有するあの土地を僕に譲っていただきたい。」
「なっ…!?」
何か言おうとした2人に、少し待てと手のひらを向けて黙らせるノエル。
「これから話す事をよく聞いて欲しい――お2人にとっては損のない、むしろ得しかない話になる。ロザリー、ジャックさん、フェリスさんにも関係があるから一緒に聞いて欲しい。」
執務室にいる全員が緊張で固唾を呑む。
ノエルはテーブルに向けて魔法を発動する――、創造魔法だ。
創造魔法で立体のミニチュアの模型を作り、計画の全貌を説明した。
・ギルバートとエリオットの所有する土地を買収し、更地にする。
・その後、現ギルバートと現エリオットとノエルの土地を跨いで地上20階建て地上77メートルの超高層の建物を作る。
・この建物の外観は全て強化ガラス張りで耐熱と耐寒と耐衝撃性を強化するために、それぞれの3層に仕切り、一層あたりの間隔を5センチメートル空けておき、ガラスとガラスの間には風魔法を絶えず流し、温度を一定に保ちつつ衛生管理をする。
・全てのガラスは瞬間調光ガラスを採用し、使用者の判断により透明にすることも不透明にすることもできるようにする。
・この建物内の個人空間以外の場所については常時風魔法で空調管理を行う。
・個人部屋には自分で空調管理ができる機械や浄化された新鮮な水がでるキッチンやシャワールーム、そして自動洗浄トイレを搭載する。
・この建物に入るための入り口などは全て自動開閉式ドアにし、ドアに触れることで自動で開き、10秒後に自動で閉まるように設計する。
・その建物の1階をギルバートの青果店専用フロアに、2階をエリオットのレストラン専用のフロアにする。
・青果店の入り口付近に屋根付きの屋外自動階段を設置し、2階のレストランの入り口に直通でいけるようにする。
・ノエルの作る新しい建物において、ギルバートとエリオットには入居料や手数料などのあらゆる金銭は徴収せず、完全無償で提供する。
・現在の建物の取り壊しと、新しい建物を建てる費用や作業などは全てノエル負担である。
・青果店とレストランを新装開店する際に必要な設備や機材、備品、材料、商品などその他もろもろは全てノエル負担で最高級のものを提供する。
・現建物にある持ち出しが必要なものは、ノエルが一切の傷をつけず全て運び出し、建物完成まで保管管理する。
・3階以上のフロアには順次別のお店やサービスで入居したいと要望があれば入居させるが、ギルバートとエリオットの店を合わせて合計10店舗――10階までとする。
・お店の入るフロアより上の階は居住棟とし、商業フロアと居住フロアの間になる11階には管理フロアを設ける。
・管理人や清掃員は全てノエルが負担をして手配をし、常駐させる。
・管理フロアには、管理人や清掃員の居住エリアを設け、それぞれの個室部屋を設け無償提供する。
・管理フロアの1つ上の12階には居住フロアに行くためのエントランスを設け、24時間専用のコンシェルジュを常駐させて居住者への生活サポートをさせる。
・同12階にコンシェルジュにも専用の個室部屋を用意し、数名でローテーションを組む形で無理なく業務にあたってもらう。
・13階は居住者が知り合いや友人そして家族が訪問した際に、事前申請式で貸し出しのできる客間を複数用意する。
・14階は2部屋に区切り、ギルバートとエリオットが無償で住めるようにする。
・15階から17階は希望者がいれば賃料を徴収して入居させるか宿として有料で一般開放する。
・18階にはギルドマスターのジャックの部屋、そしてギルド職員の部屋をいくつか整備する。
・19階にはノエルが住んでもらいたい人が4名ほどいるので、4つに分けていつでも泊まれるようにする。
・20階にはオーナーのノエルが住む予定。
・屋外自動昇降機を設置し、商業フロア専用のものを4基設置する。
・居住者専用の入り口を1階に設け、居住者専用の1階から12階のエントランスに直通の屋内自動昇降機を2基設置する。
・12階には居住者専用の屋内自動昇降機を4基設置し12階から20階まで行き来できるようにする。
・屋外の敷地内には屋根ありの馬車用の駐車場、ミニ庭園、敷地をぐるっと囲う柵を設置し、庭師もノエル側で手配する。
・地下フロアには基幹システムを置く。
等々…
ミニチュアの模型を色々弄って見せながら説明するノエルに対して、この執務室にいる全員が、信じられないものを見る目でノエルを見つめる。
「かくかくしかじかで~。以上だ!どうか賛同して土地を譲って欲しい。」
ノエルが発表を終えて、みんなの反応を見ている。
ギルバートとエリオットは茫然自失状態だ。
「何だったんだ…私は夢を見ていたのか…?」
「こんな…あり得ない…これが実現したら世界が変わる…」
ロザリー、ジャック、フェリスは言葉を失っている。
「・・・・・・・・・・・」
全員の反応を見て、ノエルは不思議そうに首を傾げる。
「え?微妙でした?」
全員がノエルに言う。
「いやいやいや!こんなの無理だよ!できないよ!?」
ノエルが飽きれてため息をつく。
「いやいや、できるから。1日あれば全部作り終わって安全点検まで完了するから。」
「・・・・・・・・・・・」
「一体、私は今…何者と会話をしているんだ…。」
「7歳でこんな話ができる時点でおかしいのに、こんな壮大な計画を1日で完了させるだって…?」
「こりゃあ、世界を変えちまうな…。」
「ノエル様って一体…何者なんでしょうか…。」
「うーん。こんな事できるのね!流石、私のノエルだわっ!」
なかなか結論を出してくれないギルバートとエリオットにちょっとめんどくさがるノエル。
「ギルバート様、エリオット様。条件面に不満がありますか?OKですがNGですか?」
ギルバートとエリオットは、ビクッとして姿勢を整えてノエルに首を垂れる。
そして2人は言った。
「何も言う事はございません。何卒宜しくお願い致します。ノエル様。」
「ありがとう!さっそく取り掛かろう!」
そう言ってノエルは全員に自分の手に触れるように指示する。
全員ともノエルの右手の指を1本ずつ握った。
「じゃあ、行きますね。絶大時空間魔法、時空間転移。」
執務室から全員が姿を消した――。
<次回予告>
神業
戦々恐々
拡張空間ポーチ
ドパンッ――!
歓喜の叫びをあげた。
立派に交渉を終わらせた男は、実現できるのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第3章 冒険者の街と崩壊の旋律
第15話
そして、家を建てる




