第13話 家族会議
ロザリンヌとの同衾事件から2日後、父と母、執事のロベール、ロザリンヌそして僕の総勢5名での家族会議が始まった。
同衾事件の日、ロザリンヌが目を覚ましたのは夜に近い時間で、その間ずっと僕は抱き枕になっていた。
人生でこんなにトイレに行きたい気持ちが溢れかえったことは無いだろう。
ロザリンヌは夕方ごろに一度目が覚めたが、寝起き直後のロザリンヌはかなり混乱していた。
この同衾+ノエル抱き枕にパニックになってしまい1回気絶した。
なので正式にロザリンヌが起床をした時間は遅く、もう夜になっていた。
余談だが、同衾事件の後から、僕とロザリンヌはお互いのことを呼び捨てで呼び合うようになった。
そんなことをぼーっと思い出していると、母がとても元気よく家族会議の始まりを知らせた。
「これから、クレルドリュンヌ家の家族会議を始めまーす!今回の議題は~。」
母のテンションがやけに高い。
めっちゃ不安だ。
「ノエル坊ちゃまとロザリンヌお嬢様の今後について、でございます。」
ロベールが答える。
(そこはお前が言うんかい!)
「うむ。これはとても重要な内容だ。ロベール、議事録は任せたよ。」
(ロベールに議事録とられるとかほぼ録音に近いじゃないですかそれ…)
「御意。私めが事細かに記録させていただきます。」
ノエルは震えていた。
今回の震えは武者震いではない。
シンプルに不安と恐怖からだ。
ノエルだけではなくロザリンヌまで家族会議に招集されており、どのような事態になるか予想がつかない。
この家族会議、父が司会進行役を務めるらしい。
かなり気合が入っているご様子である。
「ノエル。前へ。」
「は、はい。」
促されるまま、椅子から立ち上がり、みんなの前に立つ。
「ノエル。正直に答えるんだ。お前は、ロザリンヌ・フェアリースター嬢の事を愛しているのか。」
(いきなりものすごいド直球の爆弾きたあああ!!!!!)
「…はい。とても素敵な女の子だと思っています。」
(なにこれ、恥っず!!!!いっそ殺して!!)
「よい。座りたまえ。」
「…はい。」
そしてまた促されるまま椅子に座った。
「ロザリンヌ嬢。前へ。」
「は、はいいいい!」
ガッチガチになりながら前に立とうとするロザリンヌ。
立って歩いた瞬間、椅子を倒した。
そして慌てて椅子を元に戻した。
「ロザリンヌ嬢。同じく正直に答えるんだ。私たちの息子ノエル・ド・ラ・クレルドリュンヌの事を愛しているのか。」
「あ…あ…」
もうロザリンヌは透き通った真っ白で綺麗な肌であることを忘れてしまうほど、真っ赤になっていた。
「あああああ、愛していますっ!!!!!!!」
恥ずかしがりレベルがカンストしているロザリンヌからしてこれは人生最大の告白だっただろう。
(ええ!?好きとかじゃなくて、もう愛してくれてんの!?)
「よ、よい。座りたまえ。」
「ふぁぃ…」
自分の椅子に戻ったロザリンヌはもはや魂が抜けてしまっているような状態になっていた。
もとから白くて綺麗なのだが、なんだろうか、今の白さには精気を感じないぞ。
「ゴホン。お互いがかなり強く想い合っていることは明白のようだ。」
「うんうん。明白ですわね♪お母さん、孫が楽しみです。」
「ぶはっ...!!!母上、僕まだ6歳ですよ!!」
この発言がロザリンヌの豆腐メンタルに止めを刺した。
ガタン!
どうにか茫然と座っていたロザリンヌが孫発言に耐え切れなかった。
ロザリンヌは机の上に上半身を倒して突っ伏す形で気絶した。
「ロザリンヌ!?おい!大丈夫か?」
どこかぶつけた所は無いかを確認してみたが大丈夫そうだったので、そのままの状態で寝かせておく。
「あらあら…」
(あらあら…じゃないんすよ、ママさん。)
「ロベールから極度の恥ずかしがり屋だとは聞いていたがここまでとはな。」
「あなたもやりすぎですよ?まるで婚約みたいですわ。」
夫婦そろって2人とも非常にやりすぎだったが、テンションが異様に高いせいか気づいていない。
「ふむ。とはいえ、お互いの気持ちを確かめるという最重要目的は果たしたわけだ。詳しい諸事情はロベールから聞いているしな。お付き合いすることに関しては何も問題ないだろう。」
「そうそう。ノエルがこんなに熱い男だったなんてね!キャー!」
(えっ!茶番じゃねーか!てか、キャーってなることやってないだろ。ロベール何を言った。)
「そ、そうだったんですね。僕はてっきりロザリンヌとのことでお叱りを受けるのだとばかり…」
「ハッハッハ。ノエル坊ちゃま。旦那様と奥様も似たような出会いをされておりますから。」
「そうよ、ノエル。2人がラブラブなら最初から何も言う気はなかったわ。ロザリンヌちゃんは見るからにノエルに惚れてたけど、ノエルはどうなのか分からなかったの。だから確認させてもらったわ。」
「全くだ。まだ子どもなのになかなかどうして本心を隠すのが上手になってしまって。これも貴族の性というものかな。」
ホイホイと驚くほどにトントン拍子に両親公認でお付き合いOKを言い渡されたのだった。
ちなみにロザリンヌはまだ気絶している。
家族会議もいったん落ち着き、全員そろっている中々ない良い機会なので、思い切って質問をする。
「父上、母上、僕は7歳になったら1年ほど冒険者として旅をしたいと思っています。許可をお願いします。」
「なるほど…」
父と母だけでなくロベールも少し驚いた反応をしていた。
「うーむ。それなんだがな、ノエル。いつ伝えるべきか悩んでいたのだが、実は7歳になったら国王陛下の使いの者がお前を迎えに来る。そして陛下と共に大聖堂の本堂へ行き、陛下の御前でステータスを開示するようにと仰せつかっているのだ。」
「んな!?」
「それが終わってからなら、小等部に入学する8歳になるまでの約1年間、冒険者として旅をするのも良いと思っている。だが1人旅というのは私もアンリも心配で仕方がない。護衛をつけるか、鍛錬を積んで強くなった姿を見せてから旅に出てもらいたい。これでいいかい?」
「はい!かしこまりました、父上。」
「ノエルが居なくなったら、すごく寂しいわね。特にロザリンヌちゃんが寂しくて泣いちゃうかもしれないわね。」
そうだった。
冒険にいくということはロザリンヌとはしばらくお別れすることになってしまうんだった。
「少し、冒険については考えます…」
「あらあら。本当にロザリンヌちゃんが大好きなのね、ノエルは。」
「はい。まだ6歳で子どもの身ですが、お恥ずかしながら…本気、ではあります。」
「ふぇ!?」
「あらあら。」
いつ起きていたのか、ロザリンヌが僕をみて口をパクパクしながら赤面している。
(なんてタイミングの悪い…はぁ…)
「では、父上。念のために7歳からの旅の準備として、これから毎日時間を決めてロベールさんに特訓を付けてもらおうと思います。」
父は満面の笑みで言った。
「もちろんだ。世界一、強い男になれ!絶対にな!ではロベール、ノエルのことを頼んだぞ。」
「御意。かならずしや世界最強の男にして見せましょう。」
何故いきなり目指せ最強なのか。
父が声を高らかに終了宣言をした。
「よし!これにて家族会議は終了とする!ノエル。ロザリンヌちゃんを幸せにしてやれよ。」
「だから父上、そういう話はまだ早いですって!」
「あ、それとな。ロザリンヌちゃんは事情が事情だろう。今後もずっとうちに住むといい。」
「おお。父上!ありがとうございます。やったね!ロザリンヌ!」
ロザリンヌが嬉しそうに笑顔でコクコク頷く。
「ロザリンヌちゃん。毎日ノエルと同衾することも可能だ!」
「え!?父上。何言ってるんですか!」
「あうぅ…」
赤くなっているロザリンヌに母が満面の笑みで追い打ちをかける。
「ロザリンヌちゃん、私が花嫁修業しっかり面倒見るわね。」
「はうぅ…」
ノエルの両親の前なので頑張っていたが、限界を超えたロザリンヌは顔を隠して机に突っ伏してしまった。
「ノエル坊ちゃま。この先ロザリンヌお嬢様とともに幸多からんことを。」
「ロベールさん。ありがとう…」
ノエルは天を仰ぎ見て深呼吸をする。
天を見ても目に映るのは邸宅の天井なのだが。
(はぁー。いろいろありすぎだよ。いったん深呼吸して落ち着こう。うん。)
少し間を置いて、ノエルはロベールの方を向いた。
「ロベールさん。いまから魔法の鍛錬、付き合ってもらえます?」
「ノエル坊ちゃまがお望みとあれば。いつでも付き合いましょう。」
「よし!じゃあ父上、母上、ロザリンヌ!行ってくる!」
父と母はいってらっしゃいと手を振ってくれた。
だが僕の服をちょこんとつまむ可愛い生き物が1人。
「ノエル。私も少しだけ魔法使える。だから…一緒に鍛錬したい。」
「え!?ロザリンヌ。魔法使えたの!?」
少し自信なさそうにロザリンヌが言う。
「う、うん。ちょっとだけ。」
「そっか。わかった。一緒にいこう。」
ロザリンヌは満開の笑顔で言う。
「やったー!ノエル。大好きー!一緒にいこー。」
ロベールも嬉しそうに笑う。
「ハッハッハ。ノエル坊ちゃまは幸せものですな。さあ、ロザリンヌお嬢様も一緒に参りましょう。」
こうして7歳からの冒険に向けて、いまから約1年間ほどロベールとロザリンヌとの魔法の鍛錬が始まるのだった――。
<次回予告>
新章スタート
草原
1人の少年
魔獣
新魔法
妖精
ハイタッチ
家族会議を経て、約1年の鍛錬を経た男は、どこまで進化するのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第2章 激闘の王都と新たな旅立ち
第1話
鍛錬の成果