第12話 回復魔法マイスター
身体が嘘みたいに軽い。
常にあった全身の痛みや熱、不快感が無い。
呼吸も苦しくない。
体も震えない――ロザリンヌが感動と嬉しさのあまり涙を流す。
ロベールが疲れて眠ってしまったノエルを抱えながら誇らしそうに眠りについたノエルに笑顔を贈る。
宣言通り、ノエルはやり遂げたのだ。
弱冠6歳にして、一目惚れした死にゆく運命の女の子ロザリンヌの全身を蝕む尋常ならざる病魔を打ち倒したのだった。
そして本人も含め誰も気づいていないが、この死闘の末、ノエルは回復魔法マイスターの特殊スキルを手に入れていたのだった。
回復魔法Lv20→129
[New]回復魔法マイスター
・回復魔法の効果量増加:絶大
・回復魔法の消費魔力軽減:絶大
・回復魔法の持続時間増加:絶大
・対遠距離/対集団に対しての回復魔法の使用が可能
・愛神の恩寵、癒神の恩寵の獲得経験値増加:+1,000%
愛神の恩寵Lv20→100
[New]愛神の加護
・自分の保有する獲得経験値補正を仲間にも適用
・支援/回復スキルを使う時に対象者への愛が深いほどスキルの効果が大幅に増加
癒神の恩寵Lv20→100
[New]癒神の加護
・活性魔法を付与した対象者に使用魔力量に応じてステータス強化効果を付与。ステータス強化効果の持続時間は活性魔法の持続時間と同じ。
・自分の魔力で敵に攻撃をした時、攻撃が当たった敵から魔力を吸収。一度の攻撃の魔力の吸収上限は攻撃時に使用した魔力量の50%まで。
6歳児とは思えない、見事な大成長である。
大人の回復魔法士や教会の枢機卿クラスでも難しいであろう治療を短時間で超高精度にやり遂げたこの経験がノエルの回復魔法関連のステータスを飛躍的に増大させていた。
そして、ロベールと共同でジンを討ち取ったことで本人のレベルも1→17まで上がっていた。
気の利く一流執事ロベールは、疲れ果てて眠ってしまったノエルを客間のベッドの上――ロザリンヌの横に寝かせた。
横というか、真横だ。近すぎて肩が密着している。
「ろろろろろろろ、ロベール様!?」
突然の事に驚きを隠せないロザリンヌは、目を大きく見開いてロベールを見た。
すると、ロベールは自分の口の前に人差し指を立ててこう言った。
「ロザリンヌお嬢様。お静かに。ロザリンヌお嬢様の愛しのノエル坊ちゃまは、かなり疲れたようで眠ってしまっております。ロザリンヌお嬢様も治療を受けてお疲れでしょう。お二人でお休みになられてはいかがですかな?」
にっこりと微笑んだ後、2人に布団を被せ、綺麗に寝具の周りを整えるロベール。
徐々に赤くなっていくロザリンヌ。
そして自分の真横で気持ちよくカッコ可愛い表情で寝息を立てているノエルを見て完全に耳まで真っ赤になってしまった。
「ロザリンヌお嬢様。ノエル坊ちゃまのお父様とお母様には私の方から根回しをしておきますので、しばらくは誰もこの部屋には来ませんので、どうぞごゆるりとお寛ぎくださいませ。」
追い打ちをかけるような言葉をロザリンヌに言ったロベールは、それでは私はクレルドリュンヌ家の執事としての職務がありますので、と部屋を出ていった。
部屋に誰もいなくなってしばらく経つ。
その間、ずっと深呼吸をひたすら繰り返していたロザリンヌは、意を決して横で寝ているノエルに引っ付いてみた。
心臓はうるさいが、とても心地よく幸せな気分になり、そのまま深い眠りに落ちていった。
翌朝、ノエルは目を覚ました。
何か違和感を感じながらゆっくりと目を覚ました。
誰かいる…?と思って横を向くとキスしてしまいそうな距離にロザリンヌの顔が。
「へ!?」
そして自分の手足を動かそうとするもうまく動かせられない。
完全にロザリンヌに抱き枕にされていることを悟ったノエルは――
(転生した僕。6歳で。朝チュン!?!?)
寝起きから状況がかなりぶっ飛んでいた。
疲れ果てて意識がぶっ飛んでいたので、きっとピンク色なことは起きるはずもない。
(というか、僕らまだ6歳だしな。ないない。ついうっかりアラサーの思考をしてしまった。)
ただ、一目惚れした相手とガッチリくっついて同じベッドに寝ているという状況に、全く冷静ではいられないノエル。
29年+6年の人生の中で最も驚いているかもしれない。
混乱しつつも非常に幸せな状況であることに変わりは無い。
横で寝ているロザリンヌの寝顔を見ながら、本当に救えて良かったと改めて心からそう思う。
そして、しばらくこのままでいようと幸せ気分いっぱいに珍しく2度寝を決め込んだのだった。
「優くん、優くーんっ!!!」
夢の中で可愛いあの愛神様と癒神様の声が聞こえた気がした――。
「優くん!あ、いまはノエルくんだった!おーい!聞こえる~?おーい!おーい!」
(いや、めちゃくちゃ聞こえるな。これ絶対に女神様だ。けっこうしつこいな。)
「はい。ノエルです。」
「あ!よかった♪気づいてくれた!回復魔法で命を救った功績を称えに来ました~!なんちゃって。」
「もしかして何かあるんですか!?」
「私からは、愛神の加護をプレゼント♪」
「私からは、癒神の加護をプレゼント♪」
「ええええ!?もう恩寵のレベルが100まで上がったってことですか!?」
「そだよー。めっちゃ驚異的なスピードだよね!まー、あれだけ回復魔法を連続使用すればそうなるよね。」
「たしかにー。あの魔力量であんな長時間連続使用すると教皇様でも1か月は入院コースだよねー。」
「ねー。そうだ!追加で伝えることがあったの!神々の代行者Lv∞のスキルがあれば成長限界を突破できるって知ってると思うんだけど。」
「そうそう。それねー!恩寵だけはLv100以上に上げようと思ったら神々の代行者Lv∞だけじゃ上げられないから気を付けてね。」
「神々の試練のクリアが必要なのー。」
(神々の試練…また今度詳しく教えてもらおう。)
「そうなんですね!いろいろ、ありがとうございます!」
「うんうん。これからも頑張ってね!ずっと応援してるから~!またね~!」
「はい!わざわざ、ありがとうございましたー!」
応援のメッセージをわざわざ伝えに来てくれるなんて、愛神様と癒神様は本当に優しい神様なんだなと夢の中でふわふわと気持ちよくなりながら思っていたその時。
コンコン。2度寝を決め込んでから数時間後、超一流執事のロベールが部屋のドアをノックした。
「んあ…はい。入ってどうぞ。」
寝ぼけているせいで、変な返事になってしまったが、意味は伝わったのでヨシ。
ガチャ。
ロベールが父と母を連れて客間に入ってきた。
そう、父と母を連れて。
「あらあら。」
「これはこれは。」
「お坊ちゃま…!」
三者三様のリアクションをしてこっちをみている。
「うわっ!?」
ガバッ!一気に頭が覚醒して、ものすごい勢いでベッドから上半身を起こす。
「父上、母上、ロベールさん!これにはいろいろと訳があって...!」
「んうぅ…ノエル…くん…」
勢いよく起き上がったノエルのせいで、ノエル抱き枕が離れてしまったロザリンヌはノエルの下半身に抱き着きなおす。
(まずい...!)
「ノエル。一目惚れしたとはいっても、女の子ともう同衾しているなんて、ママはびっくりよ。」
「ノエル。まぁ、いろいろと事情はあるだろうが、順序は大切だ。こうなったら、もう責任を取るしかないな。」
「ノエル坊ちゃま。おめでとうございます。」
(まずい!まずい!まずい!)
「ちょっと待っ…!!!ロザリンヌさん。起きて!!」
「んにゅ…ノエルくん…」
ノエルが体をゆするがロザリンヌは起きない。
とても幸せそうな顔をしてノエルに抱き着いて絶賛爆睡継続中だ。
「ノエル。女にとって同衾は大問題なの。一生が変わるわ。あとでロザリンヌちゃんも交えて、お話ししましょうね。」
「ノエル。お父さんは一目惚れした相手との結婚自体には反対しようと思っていない。だけどロザリンヌちゃんの事をちゃんと紹介してからにして欲しい。あとで詳しく、分かるね?」
「ノエル坊ちゃま。命を懸けて救うと誓ったロザリンヌお嬢様と結ばれること、この執事ロベール、心より祝福いたしますぞ。」
父と母が、超一流執事ロベールの発言に目を輝かせる。
「まぁ!ノエルちゃんがそんなことを!?あなたに似てロマンティックなこと言っちゃうのね!」
「ほう!その年で言うじゃないか、ノエル。男は覚悟を決めたら、一生だ。私のアンリへの愛のようにね。」
(うへぇ…収拾つかないこれ。なんかもう…いいや。ロザリンヌが居てくれたらなんでもいいや…)
ノエルはロザリンヌに抱きしめられながら、家族からの質問攻めがある事にはもう諦めムードだった。
そして父と母、ロベールが部屋から出ていく。
部屋から出ていく時、部屋のドアを閉める前に一礼して行ったまさにその時、ロベールの口元がニヤついているのを僕は見逃さなかった。
(はっ!!!!あいつだ!あいつまたやりやがった…!)
本当に全力を懸けて救った。
幸せそうに僕の横で眠っているロザリンヌの頭を撫でながら、窓から外の景色――広大な草原や森や大空を見ていたら、そろそろ冒険に出てみたいな、と不意に思い立ったノエルだった。
そして、ロザリンヌを救うためにぶっ倒れるまで回復魔法を使い続ける中で分かったことがある。
この世界の魔法の仕組みだ。
多種多様な魔法が存在しているため、自分の魔力を消費することによって、魔法が発動する。
この世界の人たちは、こんな感じで大雑把に考えてしまっているらしいが実際はそうじゃない。
自分の身体から放出した魔力を自分の思った通りに動かしたり変形させたり性質を変えたりして、魔力に味付けをすること自体が魔法なんだ。
たとえば、僕が今使えるマジックバレットも回復魔法も原理は同じ。
魔力を自分のやりたいように動かした結果、先人がマジックバレットや回復魔法と命名した魔力によって引き起こされる現象が起こっただけなのだ。
きっと、魔法に名前が付けられているせいで、本質が見えなくなってしまったんだ。
魔力を消費した魔法を発動するんじゃない、魔力を動かすという行動そのものが魔法なんだ。
つまり、この世界では魔力を自由自在に操れるように鍛錬すれば、空想上のどんな魔法だって思いのままって訳だ!
明日からロベールに炎魔法や水魔法を教えてもらって、新しい魔法を考える材料にしよう――。
ここからが冒険だ――!
<次回予告>
家族会議を始めまーす!
議事録は任せたよ。
僕まだ6歳ですよ!
旅をしたい
目指せ最強
人生初の同衾をした男は、いま何を思うのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第1章 運命の出会いと回復魔法
第13話
家族会議