第11話 浄化と再生
ノエルの白い魔力が右手からロザリンヌの体内に向けて送り込まれていく。
送り込んだノエルの魔力はロザリンヌの身体を廻って病巣に到達。
ロザリンヌの体内に溜まった瘴気とそれによって汚染された部分を魔力で絡めとり、吸い取っていく。
ここで重要になるのが、汚れてしまった魔力を綺麗な魔力で包み込むようにして体内で二次汚染をさせないように魔力を抜き出す事だ。
魔力を抜き出す工程は、最も慎重かつ丁寧に行わなければならない。少しでも油断するとロザリンヌの体内の魔力も一緒に抜いてしまうことがある。
自分の魔力を他人に抜かれるということは、体内で生成したエネルギーを抜かれるということであり下手をすれば命にも関わることだ。
逆に抜こうと思って抜けるほど簡単なものではないことも確かだが、病気で体が弱っている人で且つ治療中は抵抗力が極度に落ちているため一歩間違えると意図せず魔力を抜いてしまうこともあるのだ。
「今から、僕の魔力を抜き出します…ロザリンヌさん、苦しかったら言ってくださいね。」
「わ、私は何ともないわ。今のところ、だいじょうぶ…」
ノエルが右手をロザリンヌの胸から上に離し、流し込んだ魔力を引っ張り上げるように自分の手元に魔力を戻していく。
戻し始めてから1分ほど経つと、粘性が強くベタベタとしたどす黒いタールのような物質が魔力に混ざってロザリンヌの身体から出てきた。
「これが...!瘴気…!?」
「なんと…これはかなりの高濃度の瘴気…ロザリンヌお嬢様が生きているのが不思議なほどでございます…」
「わ、私の身体の中にこんなものが…!」
1回目の浄化魔法が終わり、野球のボールほどの量の瘴気を除去することができた。
これから2回目の浄化魔法に移ろうかという時に、除去したタール状の瘴気を見ながらロベールがノエルに賛辞を贈る。
「ノエル坊ちゃま、お見事でございます。これほどまで緻密かつ大胆な魔力のコントロール、枢機卿様クラスでも難しいやもしれません。ロザリンヌお嬢様はノエル坊ちゃまに救われる運命だったのかもしれませぬな。」
「ははは。褒めすぎだよ、ロベールさん。僕がどうしても助けたいから、気持ちが必要以上に魔法に籠ってるのかも。」
「はうっ…!」
「ロザリンヌさん!?大丈夫?苦しい?」
不意打ちを受け、ロザリンヌはまたまた耳まで真っ赤になってしまっていた。
「あっ…ごめん変なこと言って。」
「ちちち、違います!すごく嬉しいです…ほんとに嬉しい。」
2人して赤面してしまい、甘くも気まずい空気が流れる。
こんな空気をサクッと変えてくれるのはロベールさんしかいない!
と思ったら、ロベールは書置きを残して席を外していた。
“浄化魔法は完璧にできておりましたので、安心しました。ずっと執事としてのお仕事を放置しておりましたので、30分ほどお屋敷の掃除をして参ります。”
(ロベーーーーーーール!!!!)
心の中で叫びながらも、話題を頑張って切り替えるノエル。
「じ、じゃあ、浄化魔法、続けるよ。痛かったり苦しかったりしたら言ってね。」
それにあざと可愛いウルウルの上目遣いで返すロザリンヌ。
「ノエルくん…はい!…お願いします!」
(ロザリンヌさん、それめちゃくちゃ効くうううう...!!!!)
浄化魔法を再開したノエルは集中しながらも、ずっとロザリンヌの胸に触れていることもありドキドキだった。
30分が経過した頃、ロベールが客室に戻ってきた。
「ノエル坊ちゃま、ただいま戻り…」
「ロベールさん!ロザリンヌの体内の瘴気、全て除去完了したよ!次は再生魔法だよね!?」
ロベールは大きく眼を見開いて、驚愕した。
目の前には、サッカーボール1個分にも近い高濃度に黒く淀んだ瘴気が、ノエルの白く輝く魔力に包まれてふわふわと浮いていたのだった。
本来であればこの量と濃度の瘴気の除去は、大人の回復魔法士でも数人がかりで何日かに分けて行うレベルだった。
(旦那様、奥様。ノエル坊ちゃまは世界を変える男になるやもしれません。このロベール、全力を以ってノエル坊ちゃまを鍛え上げましょう。)
ロベールは静かにノエルを育て上げる決意を新たにしたのだった。
「ノエル坊ちゃま。お見事でございます…!再生魔法は、患部に直接魔力を注いで再生させるので、魔力量が十分にないとできませぬ。いまはもうかなり魔力を使われているのではと思いますが。」
「ロベールさん。問題ないよ。僕はまだまだやれる。」
(かなり使った感じはするけど、魔力の自然回復で多少は補えるレベルみたいだし。)
「かしこまりました。それでは、再度。ロザリンヌお嬢様の胸の上に手を置いていただき、先ほどよりも大量の魔力を流し込み、患部まで魔力を運ぶのです。」
「うん。わかった。」
ロベールに返事をし、再生魔法を行うために、再度ロザリンヌの胸の上に手を置く。
「んっ…。」
治療とはわかっているものの、やっぱり恥ずかしさからか少し声を漏らしてしまうロザリンヌ。
ロザリンヌの顔を見るノエル。
目が合った瞬間にもっと赤くなるロザリンヌ。
どうやら恥ずかしくてたまらないらしい。
(なんだろう。ほんとに可愛いな。)
「よし。やるよ。ロザリンヌさん。」
「ひゃい!お願いしますっ。」
そんな可愛いロザリンヌに笑顔で頷いた後、再生魔法を使うための集中モードに入るノエル。
「ふぅ――、はあああああああっ!」
ノエルの身体が強く、さらに強く真っ白の魔力により輝く。
その強い光を放つ魔力がどんどんロザリンヌの身体に吸い込まれていく。
魔力を送り込むと同時にダメージを負っている患部を白銀に輝く右目で捉える。
「ここから…ここまでか…。はぁっ!」
ロザリンヌの身体の患部の隅々までノエルの魔力が行き渡る。
ロザリンヌの身体までもがノエルの魔力の影響を受けて、真っ白に輝く、透き通るように白い肌のロザリンヌにノエルの魔力が合わさって、白銀の神々しい輝きを放っていた。
ノエルがロザリンヌの身体に魔力を注ぎ込み始めてから1時間が経とうとしていた。
1時間も大量の魔力を放出し続けているノエルも徐々に疲労の色が濃くなってきており、そろそろ魔力も集中力も限界が近い。
ロベールがいったん止めに入ろうかと思ったまさにその時。
「終わったああああ!!!!!はぁはぁはぁ…」
ロザリンヌの治療が終わった―――――。
<次回予告>
感動
増大
眠る
違和感
あらあら。
少女の命を救った男は、何を手にしたのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第1章 運命の出会いと回復魔法
第12話
回復魔法マイスター