第8話 ノエルと美少女
客間のドアを開ける。
女の子はベッドで上半身を起こしている。ついさっきまで窓から外を眺めていたようだった。
ドアが開いたことに気づいて、こっちを振り向いた女の子はとても美しかった。
綺麗で繊細な銀色の髪、透き通るような白い肌が朝日に照らされて息を呑むような、神々しささえ感じさせる美しさを醸し出していた。
そして、目が合った途端ドキッとしてしまったのは、瞳が燃えるように赤い色をしていて更にその美しさを強調していたからだろう。
(美少女すぎる…)
「すごく綺麗だ…」
「えっ?」
(やっべ、声に出てたああ!!!!)
女の子は耳まで赤くなってすぐに目をそらして下を向いてしまった。
女の子の方からすると、いきなり綺麗な服を着たカッコイイ同年代っぽい男の子が部屋に入ってきたと思って見てみると、自分を強く抱きしめながらジンに立ち向かってカッコよく命を救ってくれた人だと分かりドキドキが止まらない。
そして挨拶をする前に、その本人から不意打ち気味に大変に甘い言葉を言われてもういろんな意味でパニックになっているのだった。
そして、気が付いたらロベールはいつの間にか席を外していた。
(めちゃくちゃ気を利かすじゃないかロベール…できる男だな。でもそれは今じゃないぞ!)
「ゴホン、ごめん。いきなりその…ついあまりにも綺麗でうっかり口が滑っちゃって…」
「だだだだだ、大丈夫です!助けてくれてありがとうございます!」
そう言って女の子は頭まで布団をかぶってベッドに寝転んでしまった。
(やっちまった…とにかく少しでも会話しないと…)
「あ、そのままで良いから少しお話したいんだけど、大丈夫かな...?」
「だだだだだ、大丈夫です!助けてくれてありがとうございます!」
(いやいや!それさっきと全く同じ返し!村人Aかよ。NPCかよ。いや僕のせいかー!)
「えーっと…僕は、ノエル・ド・ラ・クレルドリュンヌと言います。ここクレルドリュンヌ家の嫡男です。気軽にノエルって呼んでください。良かったら、君の名前を教えてくれないかな?」
ガバッ!っと布団から出てきて上半身を起こした女の子は、ノエルの方を見ながら自分の名前を伝えた。
「わ、私の名前は、ロザリンヌ・フェアリースターです。その…見た目がアレで変に見えるかもしれないけど、吸血鬼とかじゃないですっ…」
(見た目からそういう風に見る人もいるのか。いやいや吸血鬼だなんてとんでもない!)
「ぜんぜん変じゃないよ!そんなこと思ってない。ロザリンヌさん、これからよろしくね。そういえば、森の奥で何をしていたの?」
「わ、私たちフェアリースターの一族は昔から森の奥で妖精と一緒にのんびり暮らしてるんです。妖精さんとはお友達です。でも、そこにいきなり凶悪なジンが現れて、フェアリースターの村まで降りてきて、村のみんなを…みんな私を庇って逃がしてくれて…ううっ…ぐすん…」
(ヤバい泣かしちゃった!!!!!)
「ああああ!ごめん!まだ言わなくていい!落ち着くまでゆっくり休んで。落ち着くまでここに居ていいから。安心して。」
「の…ノエルくん。ありがとう。」
ロザリンヌは、ポロポロと涙を流しながら、ノエルに向かって微笑んだ。
(ぐはっ…!!!!)
「そ、そうだ!お腹空いてない?何かもらってくるよ!ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」
「あのっ…」
ガチャガチャバタン!勢いよくそそくさと部屋をでたノエル。
ロザリンヌが何か言おうとしていた気もするが気にせずキッチンへ向かう。
(いやー、美少女に名前呼びされると心臓鷲掴みにされたくらいに呼吸が苦しくなるな。免疫無さ過ぎてつらいわ。)
とか思いながら、キッチンで物色を始めるノエル。
何か良さそうなものは無いかとゴソゴソしているとそこにロベールがやってきた。
「ノエル坊ちゃま。一目惚れ美少女殿との顔合わせはいかがでしたかな?」
「ロベールさん!もー頼むよー。気づいたら居なくなってるんだもん。緊張して死ぬかと思ったよ。」
「ハッハッハ。あの勇猛果敢なノエル坊ちゃまも美少女殿の前では形無しですか。」
ロベールは心から楽しそうに良い笑顔をこっちに向けて笑っている。
「あ!そうそう。何かサッと出せる美味しい物とか無いかな?」
「ふむ。探してみますが…もしや美少女殿に?」
(美少女を連呼すんなよ!くっそ!なんかバカにされてる気がすんぞ!)
「うん。ひどく緊張してる様子だったから、何か美味しい物でも食べさせてリラックスしてもらおうかとおもってさ。」
ロベールが、ふむふむと顎に手を当てて少し考えて数秒。
「それであればパンケーキを焼いてバターと蜂蜜をかけてお持ちしましょう。一緒に紅茶をと思いますが、茶葉は何がよろしいですかな?」
「パンケーキいいね!ロベールさん。ありがとう。茶葉はダージリンで、甘いミルクティーが好きな可能性もあるから、いつものセカンドフラッシュじゃなくてオータムナルにして欲しい。砂糖とミルクは別で準備をお願い。」
「ハッハッハ、美少女殿のおもてなしに気合が入っておりますな、ノエル坊ちゃま。」
ロベールはものすごい良い笑顔で笑って、いいね!って感じでサムズアップしてくる。
(ぐぬぬ…やっぱりバカにしてんだろ!)
「じゃあ、任せたよ。僕は先に客間に戻って待ってるから。」
「かしこまりました。30分ほどで参りますので、一目惚れ美少女殿とごゆるりと。」
ロベールにもろもろ任せた僕は手ぶらでロザリンヌのいる客間へとゆっくり向かったのだった。
<次回予告>
客間再び
お着替え
可愛すぎだろ死ぬわ
甘くて美味しい
吐血
救った少女の部屋に向かう男は、良い所を見せられるのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第1章 運命の出会いと回復魔法
第9話
ノエルとロザリンヌ