第7話 生還
自室のベッドに寝かされたノエルは、まだ意識を失っていた。
しばらくして、ノエルはまどろむ意識の中ゆっくりと目を開いた。
(あれ?知ってる天井だ…なんちゃって。ここは僕の部屋…だよね。さっきのは、夢でも見てたのかな…)
ガバッ!っと勢いよく上半身を起こす。
「はっ!そうだ夢じゃない!あの子は!?ロベールさんは…!?」
周りをキョロキョロと見渡す。自分はベッドで寝ていて、ここは自分の部屋の様だった。
窓から見える外の景色は薄明るく、薄っすらと遠くの地平線に見える白い空がもうすぐ夜が明けることを告げていた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、いつも通りに返事をした。
「はい。どうぞ。」
失礼します、と言いながらロベールが部屋に入ってきた。
「ノエル坊ちゃま。お目覚めになられたようで、安心いたしました。ここ2日間ずっと眠っておられましたから。」
(2日間寝ていた!?あの女の子はどうなったんだ。)
「僕は2日間も…ロベールさん。あの女の子は一緒にうちに?無事だった?」
僕の回復を喜んでいたロベールが少しばかり重苦しい表情に変わる。
その表情を見た瞬間、ノエルはデジャヴのような変な感覚を覚えていた。
(なんだ、この表情。そしてこの雰囲気。どこかで見たことがあるような…)
「ノエル坊ちゃま。大変申し上げにくいのですが…あの子はもう助かりそうにありません…」
「どういうこと!?僕はあの子を抱えて走ったから知ってる!致命傷なんて無かったはず!」
(おかしい、血が出ていてもかすり傷程度。かなり疲弊しているようだったけど普通は休んで栄養を取れば元気になるはず。)
ロベールが言いづらそうに口を噤んでいる。
「ロベールさん。詳しく教えて。お願い。」
「はい。医師に見せたところ、もともと体質的にも強い方ではないらしいのですが、どうやら進行性の不治の病、それも確実に死に至る病に侵されているようでして…もってあと数か月かと。」
(そんな…あんな小さい体で、僕が前世で抱えていたような不治の病魔と闘ってるって言うのか!?)
ノエルは額に手を当て、考え込んでしまった。
「わかった…ロベールさん。教えてくれてありがとう。後であの子に会いに行くよ。」
ロベールはハッとした表情になり、何か思い出したようだ。
「ノエル坊ちゃま。失礼いたしました。旦那様と奥様に坊ちゃまがお目覚めになったことを伝えて、いま呼んできます。少々お待ちください。」
「ああ、そっか。2日間も眠りっぱなしで心配かけちゃった。」
(どうすればいいんだろうな。あの女の子、どうにか助けることはできないだろうか。)
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ノエル坊ちゃま。失礼します。」
ドアを開けてすぐ、母上が駆け寄ってきて抱きしめてくれた。
「ノエル!目が覚めたのね!心配したのよ!!!」
「ノエル。かなり無茶をしたみたいだね。ロベールから話はいろいろ聞いているよ。」
ついつい前世で早くから親と死別したこともあり、こんな温かく親に心配してもらって愛情を感じていると泣きそうになってしまう。
「父上、母上。ご心配おかけしました。ロベールのおかげで無事に戻ってくることができました。」
(そういえば、あの女の子のことは知ってるんだろうか。)
「あの、それで。僕らが助けた女の子のことなんだけど…」
「ノエル。そのこともロベールから聞いているわ。とても勇猛果敢に一目惚れした女の子を助けに行ったんですってね。」
「本当に私の息子なだけある。惚れた女を命がけで助けるとは。私がアンリと出会った時も命がけでアンリを救ったんだ。」
「え!?一目惚れ!?」
(ちょっと待てー!!!ロベール、勝手に話の内容追加するんじゃねーよ!!!)
「なんだノエル。隠すことは無い。愛に生きる男はかっこいいものだ。」
父がサムズアップしてキラーン☆してるんだが、僕のことを褒めながら自分のことも褒めてるよな絶対。
(これはもう、パパさんママさんの中でそういう感じになってんな。ダメだ、これも取り返しつかない件その2だ。)
「父上、ありがとうございます。あの、それでなのですが、あの女の子は今どこに?」
「ああ、客間のベッドで休ませている。だが…」
「あなた、そのことはまだノエルには…」
(めっちゃ気遣ってくれてるなぁ…って、一目惚れして命がけで救った女の子が不治の病だなんて6歳の子どもには確かに重すぎるよな…)
「ゴホン。ノエル坊ちゃま、2日間も眠っておられましたし、お風呂に入られますか?」
「そうね。ノエル、お風呂に入ってきなさい。ロベール、ノエルのお着替えなどお願いしますわ。」
「うん。お風呂に入ってきます。」
「奥様、かしこまりました。坊ちゃまのお着換えなど準備しておきます。」
体を洗ってから、温かいお湯が満たされた湯船に入る。
お湯に浸かって考え事をしていると、あの女の子のことで頭がいっぱいになっていた。
お風呂から上がると、病み上がりを心配してロベールが普段以上にいろいろお世話を焼いてくれ着替えまですぐ終わらせることができた。
いよいよ、今からあの女の子の寝ている客間に向かう。
別にやましいことをするわけでもないのに、胸がドキドキしてしまう。
これは僕の女性耐性の無さがなせる妙技だろう。
<次回予告>
美少女すぎる
パニック
消える執事
助けてくれてありがとう
妖精と友達
少女に会いに行く男は、何をしてしまうのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
第1章 運命の出会いと回復魔法
第8話
ノエルと美少女