第1話 死に至る病
剣と魔法の異世界に転生し、運命の出会いを経て、世界を救うかもしれない。
1人の男の異世界転生の物語がいま始まる――。
ある病院のベッドの上で寝ている男が1人。
どうも、初めまして。僕の名前は、月城優。
半年ほど前に厄介な病魔に目を付けられて以来、ずっとこうして入院生活を余儀なくされている。
現在29歳独身彼女無し童貞の大黒柱である。なかなかカオスなステータスなのだが、身内がみんな早くから他界してしまったので仕方がない。ちょっとつらいが。
趣味はゲーム、ラノベ、漫画、アニメといったクールジャパンな素晴らしい日本の代表的なカルチャーであるそれらを、日々全身に浴びながら過ごしている。
つまり、一言で言うとめちゃくちゃクールな男だ、と思いたい。きっとそうに違いない。
大黒柱ってところでお察しの通り仕事はしていた。ほんとに酷い職場で苦しいばかりだったが。
今では唯一の肉親となった妹の麻理奈と一緒に暮らしている。
重い持病のある麻理奈をどうにかこうにか養いながらこの厳しい現代社会を生き抜いているのである。
そんなこんなで忙しい日々を過ごしていたのだが、ある日突然、僕までも病魔に侵され入院生活を余儀なくされてしまった。
だが不思議なことに、僕が倒れる1週間程前から妹の麻理奈がすっかり元気になり、先日晴れて健康体で成人式を迎えることができた。これは本当に唯一の幸運だ。素直に嬉しい。ちなみに天気も晴れだった。
驚くことに僕は職場でいきなり倒れたそうで、意識不明の状態で緊急搬送されたということだった。病院で目を開けた時には妹がパニックになって大慌てしていた。
そんな心配症の妹を安心させようと声をかける。
「そんなに慌てんなよ。たぶん貧血みたいなもんだ。すぐに退院して家に帰るさ。」
「もうっ!ほんとに心配したもん。いきなり職場で倒れて意識不明って聞いたもん。家に帰ってきたら、無理せずにしばらくはちゃんと休むこと!」
「へいへい。」
心配してくれた妹に照れ隠しもあり、ちょっと雑でぶっきらぼうな返しをしてしまう。とってもクールだが、シャイボーイな一面もある僕だった。
そして念のために検査入院になり、もろもろ全身検査した結果、なかなかに最悪な状態だった。
僕の病気は常時進行性で治らないものであり、進行も通常のものと比較しても比べ物にならないほど急速に進行しているという絶望的な診断結果だった。
主治医っぽいお医者さんがカルテを見た後、暗い表情をして気まずそうに重苦しく僕に向かって死の宣告をした。
「恐らく、もってあと半年か1年だと思われます。」
その場で妹は泣き崩れてしまった。一方で、僕はどこか俯瞰しているのか何故かとても冷静だった。
(そうか、僕は死ぬのか。半年後か1年後か…念のためにかなり前から生命保険には加入してるから、麻理奈の生活は当面は大丈夫だろう。ずっと走り続けてきたし、最後はちょっと羽を休めるとしますかね。)
僕は淡々と主治医っぽい人に返答した。きっと妹に弱い所を見せたくなかったのもある、多分。
「わかりました。ありがとうございます。もしもの場合、延命措置などは必要ありませんので。」
自分でもずっと体の調子が悪いのは少し前から感じていたと思う。これまで色々と無理をし過ぎていたのかもしれない。
だが後悔はない、唯一の肉親で最愛の妹である麻理奈が二十歳になるまで守ることができたんだ。
少しだけ心残りがあるとすれば、麻理奈の今後を見守れない事だけかな...とか父親めいたことを思ってみる。
(いやぁ、ホントに学生の頃からお金稼ぐことしかしてない人生だったなぁ...親がいないっていうもの大変なもんだ。さて、人生の終わりを迎えるにあたって我が国のクールなカルチャーであるゲームアニメ漫画ラノベを堪能して魂に焼き付けておかないとなー!)
そして、なんやかんやで宣告通り半年後、運命の日はやってきた。もう自分の意思では体のどこも動かせなくなっていた。
喋る事も出来ない僕は、最後の瞬間まで僕の手を強く握ってくれている心優しき妹に向け、目で最後のお別れを告げる。
徐々に意識が遠のいていく中、妹の声だけが頭の中に響いていた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!うぅ...今までいっぱいありがとう...うわああああん!」
(麻理奈、今まで苦労した分も絶対に幸せになれよ。もともと才色兼備で誰からも好かれてたんだ、病気を克服したお前は無敵さ。)
(お父さん、お母さん、僕も今からそっちに行く。たくさん話をしよう。あれから色んな事があったんだ。)
―――――――――――――
ピーというフラット音と妹の嗚咽だけが病室に響いていた。
<次回予告>
白い世界
走る閃光
絶世の美女
サンタマッチョ
チラ見
死を迎えた男は、いま何を思うのか。
次回
回復魔法を極めて始める異世界冒険譚
プロローグ 死と転生
第2話
神々との邂逅