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隙間産業

全ての望みを叶えてもらって転移した結果

作者: 獅堂 凛

何でも好きなだけかなえてあげるよ。

そういわれた場合、あれもこれもと言いたくなりますよね?

そう思ったので、書いてみました。


※序盤に一部、不快に感じるかもしれない表現がありますのでご注意を。特に食事中の方は。

「ぱんぱかぱーん!あなたは異世界転移のすぺしゃる対象に選ばれました!」


「はぁ?」


というか、ここは何処だ!?

確か俺は帰宅途中に駅そばを食べている最中だったはず。

なのに気がついたら辺り一面真っ白!

ああ、俺の仕事鞄が無い!!!

ちょ、ちょっと、あ、あれがないと次の契約が!!!


「という訳で、転移特典としてあなたの望みが全て叶った状態で異世界へ行ってもらいます!」


まぁいっか。

おそらく今居るのは夢か小説とかである異世界転移という名の人身拉致というやつだろう。

うんうん、ちょっと今の上司と折り合い悪かったから、転移できるなら別にいっか。

となると、望み、か・・・。

しかも何でもときた。

つまり


「俺の時代が来たーーーーー!!!」


こういうことだな!?

よしよし、こういうイベントがあるのなら今までの過酷労働にも意味があったというわけだ。

何がボランディアだ!

年に2回も休日に皆集まって会社の大掃除とか!

そういうのは清掃員にやらせれば良いだろ!

社員は家でゴロゴロさせろ!

しかも何かあればすぐに俺の責任にされていたしな!

確かにあの備品を準備し忘れた結果、俺の部署はかなりの損害を出したけれど。

そもそも俺なんかに重要備品を管理させる上司が悪いだろうが!

だから俺は悪くない!

それから・・・


「あー、ちょっとちょっと。一人でうなってないで望み早く言って?それとも特典なしで転移する?」


はっ!

そうだった、今は希望を考えなければ。

優秀な俺をこき使っていたあいつらの事は今は置いておこう。

さて、何でも・・・となれば、まずはコレだな!


「よし、1つめは不老不死だ!」


「不老不死ですねー。他にもありますかー?」


「次は、全てを1撃で倒せる強さだ!」


「『全て』を1撃で倒せる強さですねー。まだありますかー?」


「それから、全ての攻撃を無効にする防御能力だ!」


「『全て』の攻撃を無効にする防御能力ですねー。もうちょっといっちゃいますー?」


「どんな所にも一瞬で移動できる瞬間移動能力!」


「『どんな所』にも一瞬で移動できる瞬間移動能力ですねー。瞬間移動能力希望者は初めてですよー」


「おや、そうなの?」


「はいー」


「?まぁいいか。次は時間を止める能力だ!」


「『時間』を止める能力ですねー。これも初めての希望ですよー」


「んん?これも初めてなの?もしかして俺が初めての転移者とか?」


「いえいえー、これまで数え切れないほど転移特典与えてきましたけれど、初めてですよー」


「うーん、まぁ、他の奴の発想が貧困だっただけだろう。次は異性にモテモテになる能力だ!」


「『いせい』にモテモテですねー。おお、これも初めてですよー」


「ふーん、意外と他の奴はそういうのに興味ないのか・・・。次は他者を操る催眠能力だ!」


「『他者』を操る催眠能力ですねー。もっといっちゃいますかー?」


「もちろん!次は存在感を自由に消せる能力だ!」


「なるほど、『存在感』を自由に消せる能力ですねー」


「ついでに姿を消すのも自由自在にしてくれ!」


「『姿』を自由自在に消すっと。他はどうですー?」


「俺に絶対服従で便利な部下が欲しいな!」


「絶対服従で『便利』な部下ですねー。他に他にー?」


「うーん、元の世界と自由に行き来出来る能力って可能?」


「大丈夫ですよー。『元の世界』と自由に行き来ですねー」


「おう!これだけあれば何でも出来るだろう!!!!!」


「じゃあ、転移しますねー」


「おう!」


「では、これまでの希望を叶える対価としてあなたの能力値と成長性と運を全ていただきますー。であ!」


「え」


「転移ー」


「おいちょ」


そして白い部屋には何も居なくなった。





















「はっ!?」


今最後にとんでもないこと口走っていなかったか?

だ、だが、全てに対して無敵だから問題ないだろう!

よし、とりあえずは


「おい、部下、でてこい!」


部下を呼び出して情報を集めさせるか。

・・・

・・・

・・・

ん?


「あれ?おーい、部下ー、出てこーい」


来ないぞ?

特典!


「うぐっ!?」


おなかが急に・・・だ、だめだ、もれ・・・


(ただいま、雄大な自然を映しております)

(ただいま、雄大な自然を映しております)

(ただいま、雄大な自然を映しております)


「はぁ、はぁ、はぁ・・・、いったい何だ?」


って、おい!

茶色の塊が動き出したぞ!?

まさか!


「ご主人様、何かご用ですか?」


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー」


おいまてこら!

何で部下がこんな茶色の塊なんだ!?!?

って、あれ?


「急に空が暗く・・・」


ブチッ

・・・

・・・

・・・


『自動蘇生します』


「はっ!?」


え、今何があったの?

なんか、蘇生とか聞こえたのに・・・って、


「な、な、な、なんだありゃー!?」


目の前に、今まで無かったはずの毛むくじゃらの大きな大きな柱が立っていた。

いや、これは


「巨大な、猫…?」


巨大な巨大なブチ猫だった。

え。

これ、高さ10m超えてない?

うわ、全く足音立てずに去って行った・・・


「て、っちょっとまて!」


何だ、この世界は!?

まさかさっきのは猫に踏み潰されて死んだから蘇生したのか?

おいおいおい、じゃあ完全防御意味ないじゃん!


「だ、だ、だ、だまされたーーー!」


あの野郎、詐欺りやがった!

何が無敵だ!

あ、でも一応蘇生したから不死ではあるのか?


「・・・こういう場合のお約束だと、ステータスオープン!」


『その特典は実装されていません』


「まてこらーーー!」


何じゃそりゃ!?

え、まさか特典希望しておかないといけないの???

最初に言えよ!!!

あ。

さっきの茶色の塊、潰れたまま動かないぞ・・・?

まさか・・・。


「おーい、部下くーん?」


しかし、茶色の塊は反応しない。


「え、部下は死んだら終わり? まじ?」


どうやら部下は蘇生しないらしい。


「はー。なんかいきなりやる気がなくなった。とりあえず町を目指すか」


とりあえず死なないのなら何も無いよりましか。

そう思いながらふと思い出す。


「そうだ、転移能力あるじゃねぇか! さっそく使うぞ! 人の居る町へ転移!」


叫んだ瞬間、目の前の景色が切り替わった。

よっしゃ!

これは大当たり・・・?


「何だ、ここ・・・?」


そこは『どんな所』という看板で埋もれた空間だった。

前を見ても左右を見ても、上を見ても下を見ても。

『どんな所』という看板しかない。

はー、どこから光入っているんだろう、看板に囲まれているはずなのに文字がよく見えるぜ!


「って、ふ ざ け る な!!!」


何だそれは!?

どんな所といえば、何処でもって意味だろうが!

なんで『どんな所』看板置き場なんだよ!!!!!

しかも隙間なく看板おかれているから出られないし!


「くそー!元のところに戻れ!」


叫んだ瞬間再び目の前の景色が切り替わり、元の場所に戻っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、何だこれは!? くそ能力ばかりじゃねえか!」


あの野郎こけにしやがって!

っとまて、そうだそうだ、俺には元の世界に戻れる能力があるんだった。


「ふふ、この能力を希望しておいた俺ナイスだな・・・。元の世界へ戻れ!」


『元の世界という値が設定されておりません。初回移動時には座標を入力ください』


「ふざけるなーーーーー!!!!!」


元の世界と言えば俺がいた世界に決まっているだろうが!

そんなこともわからないのかよ!

この糞システムが!!!


「ちくしょう、とりあえず人の居る所まで行かないと。何も食わないと多分、普通に餓死してから蘇生するぞこれ」


こうして俺は渋々当てもなく草原をさまようことになった。

そうして歩くこと5分。


「ぜー、はー、ぜー、はー」


息絶え絶えの俺がそこに居た。


「こ、これは、もしや、全能力奪われた影響か・・・?」


歩く速度も遅いし、すぐ息切れするし、ちょっとの段差にもつまずく。

しかも、いくら休んでも全然回復しないぞ・・・。


「やばい、ヤバいぞ、この状況!」


誰かが通りかからない限り、俺はこの辺りから動けないと言うことだ。

そうなった場合、俺を助けるよりも殺して物を奪った方がむしろ儲かる。

俺ならそうする。

いやまて、俺には1撃で相手を倒せる能力があるじゃねえか!

そりゃ、今は手ぶらでパンチの速度も遅いが、こっちは何度も蘇生するんだ!

相手が疲れたところを襲えば俺必勝!


「そうだそうだ、この俺がこんなところで躓くはずはねえよな」


ふー、よし。

とりあえず何か近づいてくるまでは、ちょっとずつでも移動しよう。

どうせ生き返るんだから野宿でもそのまま寝てればいいや!

お、そう考えると楽だな!










そうして餓死を繰り返すこと幾星霜、ついに俺は町にたどり着いた!


「よっしゃー!町だ、町だ!食い物だ!!!」


だが俺は一文無しだい!

どうする!?

ちょっと弱そうな奴を脅してみるか!?

お。

さっそくカモがいるじゃねぇか。


「おい兄ちゃん、痛い目にあいたくガフッ!?」


『自動蘇生します』


今何が起きた?

辺りを見回すと、最後にいた場所から少し離れた路地裏だった。

そして俺が話しかけた男は辺りをキョロキョロしたあと、首をかしげてから何処かへ去って行った。

まじか。

あいつ、見た目詐欺なの?

それとも最後に聞こえた幻聴の全能力対価にとられた結果?

ちょ。

糞の役にも立たない完全防御じゃ割に合わないぞ!?

あー。

まぁいいか。

死なない、というか死んでも自動蘇生ってだけでもかなりの儲けもんだ!

それに餓死しても問題ないんだからある意味金は貯め放題だ!

よっしゃ!

たぶん何処かに冒険者ギルドみたいなところがあるだろう。

そこで登録して薬草でも拾い続けるか!


そうこして歩き回ること3時間。

なお、休憩時間は2時間半。

ついに冒険者ギルドらしき建物を見つけたぜ!


「たのもー!」


ついつい嬉しくて声をはりあげ


『自動蘇生します』


え?

ん?

ここは・・・冒険者ギルドらしき建物の入り口が見える路地裏か。

って、なんで入った瞬間死んでるんだよ!?

おかしくない!?

って、ああ、これか。


『当ギルドに対して挑発的な態度をとった人の処遇に関して、当ギルドは関与しません』


だからって殺すなよ!?

しゃーない、おとなしく入るか。

そうして扉を押し開けて中に入ると


「臭っ!?」


え?

ボロボロの上に臭っ!?

おもわず鼻をつまんだけれど、それでもきついぞ!?

こんな汚れまみれのくせにあんな看板立ててたのかよ!

くそっ、腹が立つな!

まぁ、さっきのこともあるから我慢だ我慢。

何かあったら一瞬で死ぬみたいだしな、俺。

さて、受付は・・・お、あそこみいだな!


「すみません、冒険者登録したいんですけど!」


「紹介状か5000ギル」


「え?」


「紹介状か50000ギル」


「おい、金額増えたぞ!?」


「紹介状か有り金全部」


「ぶっちゃけやがった!」


「さっさとだせ。無いなら失せろ」


「まて、全財産で良いんだな?」


「ああ、さっさと出せ」


「ほら!これが俺の全財産だ!」


そういって俺は服を全て脱いでカウンターの上に置いた!


「まいどー。お帰りはあちらです」


「まて!全財産出したぞ!登録しろよ!!!!!」


「だれも出したら登録するとは言ってない。お帰りはあちら」


「ふざけるな!ならこの服は返してもらうぞ!」


「おーい、お客さんのおかえりだー」


「へーい」


やる気の無い声で現れたのはパッとしない中年男だった。

そうして俺に近づいて来て


「さっさと家に帰りな、ぼうず」


俺の顔面にパンチを繰り出してきた!

舐めるなよ!

その程度のパンチ、俺の上司に比べればハエが止まるほどだ!


「ぐべっ」


だが、今の俺はもっと遅いんだった!


そして気がつくとさっきの路地裏にいた。

あ、服も元に戻っている!

これはあの変な奴に感謝しても良いかもしれないな。

それ以外の詐欺はゆるさんが!


さて、これからどうするか・・・。

その辺の人に聞いて、求人探すか?

でもなぁ、俺の体力じゃあ多分速攻で首になる。

うぅむ・・・。


腕を組んでうんうん悩んでいると、ふと地面が暗くなった。

いや、地面だけじゃ無くて、町中が暗いぞ!?

いきなり夜になった?

ちがう、上だ!上に何か居るぞ!?


それはあまりに大きな『何か』だった。

鳥のような、船のような、しかし町一つ覆い隠すその大きさはどちらにしろ異常だった。

周りの建物からも次々と人が出てきては空を見上げていく。

呆然とする者、パニックに陥る者、避難し始める者、迎撃態勢をとろうとする者。

人々が様々な行動を取り始めると、急に低く大きな声が響き渡ってきた。


「我は全てを手に入れし者なり。既に他の街は降伏した。この町も降伏しろ」


この言葉だけでもいくつかの窓が割れ、殆どの者が立ちすくみ、あるいはへたり込んでしまった。

だけど


「あれ?窓が割れるほどの振動なのに、俺何も感じないぞ・・・?」


そう、まさに地震でも起きたかのように辺り一面大きく揺れていたのに、俺はその揺れを何も感じなかった。

もしかして、


「これって、特典の全ての攻撃を防御する、が働いているのか・・・?」


となると、俺の攻撃はあいつにも通じる可能性がある!

となればやることは一つ!


「くくく、街にある程度被害が出てから俺があいつを倒せば英雄じゃね?」


屑の発想だった。


さて、そうと決まればさっさと街の様子が分かる場所に移動するか。


「そして街の連中が戦い始めて被害が出てから、タイミングを見計らえば・・・くくくっ!」


そう呟きながら俺はこそこそと移動を始めようとすると


「我々は全面降伏する!だからどうか、住民の命だけは!」


「良かろう。なに、領主に納める税を我に納めるだけだ。そう怯えることは無い。まぁその領主とやらは既に滅んでいるがな!」


「ひぃっ、し、従います、従います!」


え。

ちょっとまて!

何あっさり降伏しているの!?

お前達が戦わないと俺が英雄になれないじゃん!

くそ、どうしたら・・・、そうだ!


「ふざけるな!俺たちの街にやってきて勝手をするな!お前なんて出て行きやがれ!」


路地裏から飛び出して思いっきり挑発だ!


「へいへい!そのでっかい図体は飾りかよ!ほら、何とか言って見やがれ!」


「ほう、我を見ても怯えないか。愉快愉快。まぁ、見せしめも必要だろう。ほれ」


そう言うと、でかい何かの一部が光り、


ジュッ


一瞬で街は消えた。


「・・・え?」


ちょっとまて。

理解が追いつかない。

当初の予定では街に多少の被害→俺登場→俺英雄!だったのに。

今は街消滅!

一撃かよ!


「なに? これに堪えるとは意外だな。・・・ふむ、もしや貴様も転移者か?」


「なに!? もしかしてお前もなのか!?」


「そうだ。となると、我の攻撃が効かないのも特典のせいか。ふむ、ならばこのまま貴様を無視して立ち去るとするか」


「おい待てよ! お前のせいで街が消えたんだぞ! 責任とれよ!」


「お前が挑発したからだろうが。我には関係ない。ではな」


「ふざけるな!」


熱くなった俺はその辺に転がっている石ころを巨大な何かに対して投げつけた。

俺の今の腕力では全く届かないはずのそれは、しかし。


「ぐあぁぁあぁああああ」


何故かものすごいスピードで飛んで行って巨大な何かに辺り、巨大な何かは苦しみ始めた。


「え、当たった? なんで?」


そうして巨大な何かは地面に墜落し、声も身じろぎも無くなってしまった。

俺としてはさっさとこの現場を立ち去りたかったが、そう、数分動くだけで息切れしてしばらく動けなくなるのだ!

そして数日後、現場を立ち去れなかった俺は偵察に来た兵士達に連行されることになった。


すげえ! 馬車って早いな!

そんなことを思っている俺は、何故か豪華な馬車の中だった。


巨大な何かには外傷らしき物が無かったのに息絶えていた。

その場所は大きな街があった場所で、今は非常に綺麗な更地だ。

そしてそこで倒れて動かない俺。

兵士達より先に誰かが行き来した跡も無い。

つまり。


「英雄様をおもてなしするのは当然のことでございます。あの魔物には我が国も全く対処できず、被害だけが拡大しておりました。いくつかの領主も殺されており・・・」


なんか知らんが英雄にされた。

まあ、当初の予定に戻れたから良いか!

よっしゃ、英雄だ英雄!

これでちやほやされ放題!

うまいもの飲み食いし放題!

なお、この馬車は先遣隊の一人が持っていた小さな革袋から出てきた物で、出てきた瞬間おれは非常にびっくりしてしばらく放心していたんだぜ!


そして馬車に揺られること数日、かなり大きな街とその中央にそびえる城らしき物が見えてきた。


「おおー、これは凄い」


「英雄様にそう言ってもらえると嬉しいですな。我が王都は他の国に比べても大きいですから」


なるほど、ここが王都か。

そして俺がちやほやされる場所だな!

おや?

なにか黒い煙が上がっているけど、俺の歓迎式の準備?

照れるなー!


「な、王都が襲撃を受けているだと!? 防衛隊は何をしているのだ! 皆、急いで帰還するぞ!」


え、あれって襲撃なのか!

ちょ、おれの王都に何をしやがるんだ!


「英雄様もお力をお貸しいただけますでしょうか?」


え、俺?

いや無理無理。

力を使える対象が分からん!

巨大猫には無力で、街の一般人やごろつきにも無力で、巨大な何かに対してだけ無敵だった。


・・・大きさか?

いや、断定は出来ない。

となるとここはごまかすしか無いな!


「私の力は特定の存在にしか効かないのです。が、もし私の力が通用するようであればいくらでもお貸ししましょう」


「そうですか、それは心強い! いざというときはよろしくお願いしますぞ!」


おいおっさん、今誤解したよな?

謙遜って思ったよな?

マジだからな!

マジで俺の力、何に通用するか俺も分からないから、いざという時きても何も出来ないかもしれないぞ!

まぁ、言い訳はしたから大丈夫だろう。


そうこうしながら街に着くと、既にかなりの被害がでていた。

街には行ってすぐ、俺たちの周りに兵士が集まり、


「隊長だ!隊長が戻ったぞ!」


「隊長ならあいつを何とかしてくれるはずだ!」


「隊長! 留守を任されておきながら申し訳ありません! 現在王都は魔物の襲撃を受けております。敵は1匹で2mほどの大きさなのですが、こちらが攻撃をしようとすると全く動けなくなってしまい対処できないのです!」


「動きが止まる? 何と面妖な。だが、麻痺や呪縛の類いはわしには効かん。よし、皆の者いくぞ!」


「「「おおー!」」」


そうして王都を荒らし回る魔物のところへと兵士は皆向かっていった。

もちろん俺を連れたまま。

馬車で。


あほか!


俺を下ろせよ!

馬車をしまえよ!

そして俺を置いて早く行けよ!

何のんびり移動しているんだよ!

ほら、また爆発起きたじゃねぇか!

士気が高いのはよく分かったから、さっさと行きやがれ!


「あースラム街がよく燃えていますな」


「ふむ、浄化の手間が省けたか。・・・なるほど、被害の大半がスラム街だから住民避難も落ち着いているのだな」


「しかしこのままではスラム街から出てきてしまいます。ですので、早く討伐ないし捕獲しないと」


こわっ!

スラムだから見捨ててたのかよ!

こいつらマジで人間か!?

スラムに住む人だって同じ人間じゃ無いか!

そいつらを見捨てるだなんて・・・!


まぁ、同じ状況なら俺も喜んで見捨てるんだけど。


そしてついに俺たちはその魔物と退治することになった。

見た目は2m超えの虎。

ただし、虎縞ではなくて時計縞。

いや、俺も意味が分からないのだけど、縞模様の形がどう見ても時計なの。

・・・うん?

攻撃の時に動きが止まるのって、もしかして・・・


「王都を荒らす魔物め! この私が来たからにはこれまでだ! いざ、覚悟!」


俺が考えている内に隊長と呼ばれたおっさんが魔物に突っ込んでいき、やはり動きが止まった。


「な、何故我の動きが止まるのだ! 我には麻痺も呪縛も効かないのだぞ!?」


おっさん、多分相手の能力は『相手の攻撃時間』を止める能力だぞ。

だから麻痺とか呪縛とかの耐性は意味が無いのだろう。

チートだなぁ。

・・・チート?

・・・もしかして、俺のチートって・・・


そして俺は魔物と隊長の間に割り込み、


「おい、お前の相手はこの俺だ! 『時間』よ、止まれ!」


俺がそう叫んだ瞬間、あれほど縦横無尽に動き回っていた魔物の動きがピタリと止まったのだった。


「今だ! 俺が拘束している間にこいつを倒せ!」


そう兵士達に発破を掛けると、兵士達も相手の動きが止まったことに気づいて一気に襲いかかっていった。

全く動けない状態で囲まれた兵士から攻撃を受けた魔物はすぐに絶命した。


「やったぞ!」


「俺たちの勝ちだ!」


「「「おおー!」」」


「英雄様が押さえてくれたからだ!」


「「「おおー!」」」


そして俺は盛り上がった兵士達に高い高いをされたのであった。

もちろん、何度か蘇生したよ?

俺の耐久力じゃ、地面に落ちなくても駄目だったらしい。

兵士に何回か胴上げされるだけで、そのダメージで死んだ。

貧弱だなぁ。

まぁ、すぐに復活するから良いんだけど。


そして俺は落ち着いた兵士達に連れられて、王宮の中に入っていった。


だが俺の貧弱なステータスでは当然のごとく皆の歩く速度に付いていくことができず、しかし周りが俺に合わせてくれた結果、ゆっくり歩く謎の集団ができあがってしまった。


そして案内されたのは謁見の間。

そう、王様に会うことになったのだった。


「よくぞこの国の危機を救ってくれた! しかも王都に現れた魔獣まで討伐してくれるとは! 褒美として、儂との結婚を許そう!!!」


そして王様直々に意味不明なことを言われてしまった。


「・・・へ?」


「うむ、もはやこれは決定じゃ! 儂はおぬしに惚れてしまったのじゃ!」


どういうこと!?!?!?

何で国を救った褒美が年取ったおっさんとの結婚なの!?


「イセイ王! どう為されたのですか!?」


ほら、となりの王妃様っぽい人が混乱して、王様の首を絞めながら問いただしているじゃ無いですか!


・・・まて。

今なんて言った?

いせい、王・・・?


「儂は心を奪われたのじゃ! そなたのことは愛しているが、それ以上にどうしようも無く惚れてしまったのじゃ!!!」


っておい!

いせいって名前なら無差別かよ!!!


こうして俺は這々の体でこの国から逃げ出すことになった。

当然、暴走した王からの追っ手も放たれたが、彼らも思う所があったのか、


「あ、あの英雄殿、大丈夫です、このままお逃げくださいませ・・・」


と逃げることを手伝ってくれたおかげで隣国に逃げ出すことができたのであった。

彼らが手伝ってくれなければ、一人の時の10倍は死んでいただろうから、本当にありがたかった。


そしてようやく自由を手にした俺は、思わず叫んでしまったのであった。


「あ の く そ や ろ う ! ! !」


まだ使っていない特典もあるが、もはや怖くてつかえない。

こうして俺は、先行きの見えない旅をとぼとぼと始めることになったのであった・・・



おわり

最後までお読みいただきありがとうございますm(_ _)m


※2023/06/18 ジャンル別日間59位! ご評価頂きありがとうございますm(_ _)m

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