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第1話 逃げるために飲み干します

現在改稿を進めておりますm(_ _)m

「さぁ飲みなさい」


 王妃の言葉に逆らう事も出来ず、ミューズは渡された毒杯を躊躇いつつも飲み干した。


「うっ……」


 すぐに毒が体内を廻っていく。


 意識が朦朧として立っている事も出来ず、その場に倒れ込む。ついには指先すらも動かせなくなった。


 血を吐いてピクリとも動かなくなったミューズを見て、満足そうな表情の王妃と護衛の騎士達は振り向く事なく去っていく。


 遠のく意識の中、ミューズはその気配を朧げに感じていた。


(私……もう、ダメかしら)


 でも、もう悲しみも苦しみも感じることもないのだと、少しだけ安堵する。


 そこでミューズは意識を失った。






 ◇◇◇





 森に逃げた際に、ミューズは追ってくる者の中に継母であるリンドール国の王妃の姿を確認する。


(あの人なら絶対に私に毒を飲ませようとするはずだわ)


 幾度となくその話を耳にしていた為、解毒剤を飲んで毒への抵抗力を高めておく。

 それでも完全な解毒には至らない、想定していたよりも強力な毒のようだ。


 体を動かすことも、目を開けることも出来ず、ミューズの意識は途絶える。


 どうしてこのような事が起きたのか……それはミューズがリンドール国の王女であったからだ。


 継母である王妃に冤罪を掛けられ、国外追放という名目でこの森に打ち捨てられてしまう。


 幽閉や絞首刑、という話も出たが、魔物が出るこの森で朽ち果てるのが相応しいと、監視をつけられてここに連れてこられた。


 監視人は完全に死を見届けてから戻ってくるようにと命じられる。


 けれどその監視人はとても優しかった。


「この森の奥には魔物以外も住むと聞きます。まずはそちらを頼ることにしましょう」


 監視人はミューズを魔物から守りつつ、森の奥のドワーフ達を見つけるまで付き合ってくれた。

 彼らに状況を話すと、端の空き家を貸してくれるといい、そこで過ごさせてもらえた。


 監視人は暫し一緒に過ごした後、ミューズの髪を一房切って、これを死んだ証拠にすると王宮に帰っていく。


 任務が終わったら亡命すると話をしていたが、嘘がバレれば命がないだろうと心配であった。


 しかし人の心配ばかりもしていられない。ミューズは慣れないながらもドワーフの力を借りて、何とか過ごしていく。


 魔法が使えるので怪我の回復をしたり、薬草の調合をしたり、物をもらう代価として力を振るいながら生活していた。


 リンドール国にいた時に病院で慰問活動をしていたのだが、その際に役立つだろうと思って治癒師としての勉強をしていた事が功を奏した。


 ミューズの白く細い手にはあかぎれが増え、肌も日に焼けて浅黒くなる。

 筋肉痛にも悩まされたが、一人で何でもこなしていく内に徐々に治まっていった。


 着てきたドレスは森の中では適していない為、僅かばかり持っていた装飾品と共に引き取ってもらい、代わりに動きやすい人間用の服と靴に交換してもらう。


 人間の国とも交流があるらしく、わざわざ調達してきてくれた。


 しかしそんな日々も長くは続かない。


 少しずつ生活に慣れてきたある日、森で薬草取りをしている際に王妃達の姿を見かける。


 家紋のないお忍び用の馬車と勇ましい姿の騎士達、ただならぬ雰囲気に、見つかってはいけないと、ミューズはドワーフの集落とは違う方向に逃げた。


 ミューズがいた痕跡が見つかったら、ドワーフ達は匿ったという理由で殺されてしまうかもしれない。



 これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


 だが、少し考えてこれは良くないという事に気づく。


 王妃達の進路から見ると、このままではドワーフの集落へと着いてしまうからだ。


 意を決して、緊急用の解毒薬と体力を保つ為の滋養強壮の薬を飲んでおく。


 少しでも生存確率を上げるようにだ。


 そうしてミューズは自ら王妃達の前に出た。


「あぁ……やはり生きていたのね。髪だけでは証拠にならないからと、わざわざ見に来たのよ。本当はその目をくり抜いてもってこいと言ったのに」

 ミューズは思わず後ずさった。


 自ら王妃のもとに来たものの、もちろん怖くないわけがない。


「でももうあなたの身体の一部を持ってくつもりはないわ、国ではもう死んだと言われてるもの。葬儀もあげたし、面倒だからね。あとはここできちんと死んでもらえればいいわ」

 王妃は騎士に何かを命じると、すぐに毒杯が用意さされる。


 ミューズの予想通りな展開だ。


「これを飲めば確実に死に至るわよ。もがいて苦しんで、私の目の前で死んで頂戴」


 周囲はすでに騎士に囲まれており、逃げることはできない。


 しかし、この方が好都合だ。


 剣で斬られたり、魔法で焼かれるよりは、生存確率があがる。


 王宮にいた頃も、王妃は毒を好んで使っていた。気に食わない者、逆らうものに躊躇わず毒を授ける。


 その様子を見て、いつかに備え、ミューズも毒の耐性をつけていた。


 治癒師の勉強は王妃から身を守る意味もある。解毒薬を持ち歩き、事前に飲んでいたのも必ず王妃なら毒を飲ませようとすると思ったからだ。


 ミューズは王妃の気が変わらないうちにと、毒杯を飲み干す。


 空になった杯はミューズの手を離れ、柔らかな草の上に落ちた。


 毒はあっという間に体中を巡る。毒への耐性があるとはいえ、とても苦しい。


 喉は灼けるように熱くなり、口からも鼻からも血が流れ出るのが感じられた。


 血の匂いや味が口内に充満する。


 痛みと苦しさに生理反応で涙が出た。呼吸をしたいが、血が詰まり息が吸えない。


 関節も痛み、ひどい風邪を引いたように頭もガンガンとしてきた。


 痛みから逃れようともがくが、だんだんと体も動かせなくなる。


 王妃の笑い声だけがずっと響いていた。






 ◇◇◇






(私……生きてる?)

 どのくらい痛みにもがいただろうか、もはや覚えていない。意識は戻るが、体は動かせない。


 近くからは世話になったドワーフ達の声が聞こえる。


 目も開けられず見ることは出来ないが、泣いているようだ。


 顔を乱暴に拭かれた。きっと付いていた血や汚れを拭ってくれたのだろう。


 幾人かが入れ替わりで来てくれる気配がする。


 皆泣きながら体の脇に何かを置いてくれていた。

 近くで花の匂いがする為、見舞いの品てあろうか。


(起き上がりたいのに、起きれないわ)


 まだ本調子ではないからか、覚醒と睡眠を繰り返す。途切れ途切れの意識の中、何日目かの夜が過ぎると、突然で体を持ち上げられてどこかに運ばれた。



(風とそして緑の匂いがするわね)


 移動先は外だ。


 数分ぐらい移動しただろうか、体がどこかに降ろされる。


 背中にふわっとした感触が感じられ、鼻腔には大量の花の匂いと、土の匂いが押し寄せてくる。


 そこてゾクリとした。


(もしかして私、このまま埋められてしまうの?)


 このままでは生きたまま埋葬されてしまうと焦ってしまう。


 生きている!と叫びたいが声も出ない。

 おそらく毒の後遺症で動けないのだろう、家にある解毒剤を飲ませてもらえれば治るかもしれないのにとミューズは懸命に叫んだ。


 けれど体が言うことを聞かない。


(誰か、気づいて)


 ドワーフ達と過ごしてわかったが、彼らは魔法や薬物の知識に疎い。誰もミューズが生きているとも気づかないようだ。


(嫌だ、怖い、助けて!)


 ミューズは泣きそうになった。しかし体は反応せず涙も出ない。



「すまない。ここで何があったか教えてほしい」

 唐突に聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。


(助けて!)

 あわやというところで聞こえてきた救いの声に、ミューズは心の中で何度も叫ぶ。


 男性と女性と、そしてドワーフの声が聞こえる。どうやら今までの経緯や状況を話しているようだ。


「このような場所に埋めるのは忍びない……せめて俺たちの国の、貴族墓地にて弔わせてくれ」


 ミューズの体に布が被せられ、力強い腕がミューズの体を持ち上げた。


「ん? 何だか妙に柔らかいな。本当に亡くなって数日経つのか?」


 男がドワーフに尋ねると、約2日3日は経っていると話された。


(それくらい経っていたのね)


 体感ではもっと長い気もしたけど、そうでもないみたいだ。


 男性はミューズを抱えたまま、馬車に乗り込んだようだ。


 やがて振動を感じる、馬車が動き出したのだろう。


「ティタン様、死後数日経っているようなので、浄化の魔法をかけとくです。何なら僕が代わるですよ」


 年若い声が耳に響く、少年とも少女とも言えるような声だ。


「マオありがとう、浄化を頼む。しかし代わらなくていい、俺は大丈夫だから」


 ティタンと言われた男性はミューズを横抱きにして、膝の上に乗せているのだ。


 遺体に対する接し方ではない。


(荷物のようにされないのは嬉しいけれど……)


 とても恥ずかしい。


 相変わらずなにも言えないでいると、顔の部分の布が除けられた。


「さっき感じたんだが、やはりおかしくないか? 亡くなって数日経っているというのに、身体は柔らかい。確かに体温は下がって冷たくはあるんだが、まるでただ眠っているだけのように思える」


 遠慮がちに頬に触られた。


「微かだが、呼吸もしている。間に合ったのではないだろうか?」


 僅かながらティタンの言葉が上擦っていた。


(えぇ、そうよ。私生きてるわ!)


 ミューズも懸命に心の中で叫ぶ。


「そうかもしれないですね。戻りましたらすぐに医師に診てもらうです」


 ミューズは馬車が止まるまでずっと、ティタンと呼ばれた男性の腕の中にいた。



お読み頂きありがとうございました。


応援して頂けると励みになります。


今後も作品をよろしくお願いします(*´ω`*)

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