リセルの敗北とイレブンの追跡
お楽しみ頂けると幸いです。
【リセル視点】
未知のところに近づくときは防御第一で。そのつもりで音の出た方角へと進んでいく。さっきと同じように空を飛んで近づくことも出来るけど、向こうから聞こえてくる大きい音を考えると待っていればこっちに向かってきそうな気もする。
でも氷漬けを見られるとそれはそれで危険だね。こっちから近づいていこう。既に山頂付近からは降りてきている。最初に火山に来たところから真逆の方向だと思う。向こう側には何があるんだったかな。しばらく平原が広がって町も無かったと思うんだけど。
本当はそっちにも何かあるんだろうか。大精霊とか朱雀に何かしてるなら悪い人間の集団かもしれない。尚更目立たないように進んでいかないといけないな。
「なるべく地面すれすれで移動するから浮かばせてくれる?」
危険だとは言いつつもお願いを聞いてくれた。精霊さん達のおかげで音もなく進んでいく。しばらく進んでいくと音の正体が見えてきた。
「屋敷が動いているの?」
今までぼくが見たことのある一番大きい建物はユーフラシアの冒険者組合や領主の屋敷くらいだ。それよりももっと大きい。見えてる部分だけでも倍の大きさであることが分かる。見えていない部分を考えるとあり得ないくらい大きいことが予想できる。
「これは危ないよね。イレブンと合流するのに戻った方が良さそうだよ」
来た道を戻ろうとしたときに、ガコンという音が聞こえた気がした。精霊さん達に回避と防御を大声で言われたから一度に出せる限界量のMPを贈る。
その一瞬後に自分が空中で回転していることだけが分かる。音は何も聞こえない。風ちゃんが体の回転を抑えて、土ちゃんが地面を柔らかく、木ちゃんが生やしてくれた草のおかげで、まだ無事に地面にくっつけたと思う。
それでも地面に叩きつけられたことは変わりがなく、傷は無くても相殺しきれなかった衝撃が頭をクラクラさせる。
なんとか水ちゃんが回復してくれて確認するとイレブンの結界も壊されていた。ぼくでもまだ壊せないくらいなのに?本当に危険であることを察知したときにまた精霊さん達から警告が来る。
話を聞くとさっきの衝撃は『精霊の弾丸』と同じような形をしたものだったらしい。イレブンが話してくれた武器と似ているみたいだ。あの筒から発射されたらしく、もう一度打ち込めるのかぼくの方に向いている。
どこから見えているのか分からないけれど、視界を防いでしまえば逃げることくらいは出来ると思う。土ちゃんにMPを渡して壁を作ってもらえるようにしておく。
そろそろMPがきつい。ポーションを飲みたくても動いたらダメっぽくてぼく自身が動くのは危険みたいだ。どう動いていいか分からなくてただ待っていると、動く巨大屋敷の扉が開いてたくさん出てきた。
何かの金属で包まれた人型がさっきのクルマよりも小さいものに乗って出てきた。クルマも速かったけどあれも同じように動けるのかもしれない。
人型が整列して道を作った。何があるんだろうか。コツンコツンと金属の音がしてきた。誰かが歩いて出てくるんだ。出てきたのは他の人型とは違って少し派手な作りをしていた。
「ほ~。偵察無人機を破壊する者がどんなものかと思えば、幼いなりをしているじゃないか。下等生物とはいえ見事なものだ。忠誠を誓うなら飼ってやってもいいぞ。光栄なことだろう?」
言葉は分かるけど、意味は分からない。なんだこいつ。周囲の人型は武器を持っているみたいだけど、最後の派手人型は武器も持っていないみたいだ。今なら油断しているから不意を打てば逃げられるかもしれない。
(土ちゃん、お願い!)
一瞬で臨んだようにあいつらとぼくの間に土の巨大な壁が出来上がる。すぐに物陰に隠れて移動を開始する。今は土ちゃんが壁を作っているから空に浮かぼうにも風ちゃんだけだと難しい。
少しでも軽くしてもらって走るしかない。それにさっきの攻撃を考えると空を飛ぶ方が危ないかもしれない。このまま隠れて戻ろう。時間もかなり経過してるし、イレブンもこっちに来てくれているかもしれない。
「貴様ら、何をしている!さっさとさっきの子どもを捕らえるのだ!私の言葉を無視するなど万死に値する!手足をもぐまでは許可する!破砕弾、雷撃弾も許可する!!」
さっきのやつの声が聞こえる。捕まったら腕も足も取られてしまうかもしれない。そんなこと言われたら逃げるしかない。
攻撃もかなり強力なものが使われるみたいだ。少しでも遠くへ行かないと!そう思ったら土ちゃんが作ってくれた壁が一瞬で破壊された。一気に吹き飛ばされてしまった。
なんとか近くの岩陰には隠れられたけど、ここでもすぐに見つかる。さっきのクルマで2本使っていて、持っている最後のポーションを飲み干す。少しずつ逃げているけど、色んな所から大きな音がする。隠れられるような岩を破壊して探しているみたいだ。
ダメージがあっても構わないから派手に探しているんだ。このままだとマズイ。もっと遠くまで移動しよう。動こうとした瞬間にさっきと同じような衝撃を体に受ける。なんとか防御にMPを贈って精霊さん達に守ってもらえたけど、着地にまで使うMPは残っていなかった。
それでも頑丈で受けたダメージは少なかったけど、やっぱり吹き飛ばされるときの衝撃は厳しい。最初に現れた人型が小型の筒をこっちに向けている。
「雷撃弾、構え、発射!」
その声とともに体に衝撃とは違う攻撃が襲ってきた。喉の部分で悲鳴をあげたのが自分で分かる。意識が遠くなっていく。
(イレ……ご、め……)
≪ご………、ぼ…が……ける……≫
最後に聞こえた声は誰だったのか思い出す前に意識が途切れた。
【イレブン視点】
くそっ!集中できない!この機械が解除の妨害してきやがる。聞くだけで耳鳴りがする高音が出て来たり、解除に必要な場所に電撃が放出される。毒霧もそこそこ強力だったけど俺にはほとんど効かなかった。解毒薬を飲んで完治だ。
スキルのおかげで何となくどこを触れば妨害の解除ができるかわかる。何とか作業をくり返して機能停止に持っていかないといけない。
5分なんてえらそうに言ったけど、そんなものはとっくに10分前に経過してしまっていた。リセルが向かった方からも何度となく地響きが聞こえる。俺の言うことも聞かずに戦闘してしまっているんだろう。
精霊との相性のおかげか接近戦に持ち込まれない限りはとんでもない砲台と化してるから大丈夫だとは思うけど。心配なものは心配だ。なんでこんなに心配になるのか分からないけれど!
ほとんど解除しきれてきたと思うけど、全貌はまだ見えない。どれだけ性格の悪い改造がされてるんだ。いい加減にしてくれ。
「あれ?これは見たことあるぞ。じゃあ、もうすぐか!」
最後から2つ目の作業が突然現れた。記憶にあるとおりに作業すると解除される。最後の作業といってもスイッチを切るだけだ。
実際に見慣れたわけでもないが、10回目の電子盤を外すとまた動きを止められた。別に妨害じゃない。よくあるやつだ。
「赤と青のコード、どちらかが正解でどちらかがダミー。ダミーの場合は装置ごと自爆、それはこの火山の噴火が再度巻き起こるくらいの爆発である、ね」
お~い、なんだこれは。設置場所が帝国でなければこんなことが起こるんかい。ヒントになるようなものは探してみても何もない。
魔力を通そうにもこの機械自体が魔力吸収をしてくるから効果が無い。魔力を使わないスキルだけで判断しないといけないが、そのスキルでも分析できないとなるとお手上げだ。
「色だけで言うと好きなのは青なんだよね」
でも制限時間は3分ほど。あと残り2分か。う~ん、赤か青か。2分使って悩んでも結論はこっちだってことで変わらないだろうな。だったらもうこっちでいいや。
意を決して決めた方のコードを切る。
プチッ
何も起こらない。
「……セーフか?は~~~~~…。良かった…。止まったみたいだ」
魔力を吸収する機能は停止した。これで問題は無いだろう。アイテムボックスに入れようとしたが、入らない。どこかに生物が隠れているか、まだ所有権を奪いきれていないらしい。
どちらか判断つかない以上爆発されても困るのでこのまま置いておくことにしよう。代わりに取られないように結界で包んだうえで地面の下に埋めておく。上に色々と積み上げておいて簡単に発見されないようにしておく。
さて、止めたことで何か変化あるだろうか。魔力を吸収するとか、この世界にはかなり問題のある技術だ。ここまで凶悪な設定だったのかな。解除手順も違っていたし…。
「おっと、考察は後にするか。リセルのところに行こう」
≪ありがとう≫
どこからか声が聞こえた。この声は
「火の大精霊か?どこにいるんだ?」
≪急いで≫
焦ったような声で端的にしか話してくれない。
「何にだ、どこに行けばいいか知ってるのか?」
少し待っても返事がない。周りと見渡しても火口に来るまでに見た赤い玉はどこにも見当たらない。
「あ~、もう!とりあえずリセルのところに行くからな!お前あとで何があったか聞くから全部教えろよ!」
この状況では返事は期待できない。結界に乗ってリセルが向かった方角へと飛ぶ。しばらく進むと音が聞こえてくる。
「これって砲撃音ってやつだろ?ここでそんな音がするっておかしいだろうよ」
イヤな予感がぬぐえない。出来ることは進むだけだ。向かって行く最中に音はちょうど収まっていく。リセルが止めたのか?逆じゃないことを祈るぞ。
次に見えたのは氷の塊だ。降りて確認してみると一つを除いて氷の中には四輪車が閉じ込められていた。クリア後なら作れるだろうけど、なんでそんなものがこんなに大量にあるんだ?やったのはリセルか。
一台だけ放置されてる?壊れてるみたいだな。水浸しってことは一度は氷漬けになった後で解除されたのか。ここで一度戦闘を行った後に、また別の何かに気を取られたんだな。
水浸しの一台は俺用に持って帰るつもりだったんだろう。意思は汲んでおくか。今度はアイテムボックスに入った。氷漬けのものは入らなかった。たぶんこれの所有権はリセルだな。だったら合流してからで良いか。
これ以上にに手がかりはなさそうだ。先へ進もう。無茶なことしてなければいいんだけどな。
このときリセルなら大丈夫だろうとまだ呑気に考えていた自分をあとで死ぬほど後悔した。
お読みいただきありがとうございました。
作成時間が取れたので、20時にももう一話投稿します。




