リセルと精霊たちのがんばり
お楽しみ頂けると幸いです。
【リセル視点】
「待て!リセル、本当に待て!」
イレブンが動けないようだから動けるのはぼくしかいない。守るということが必要ならちょうどいいじゃないか。
「どこから来るの?数は分かる?」
≪方角は北の方角だよ。あっちの方から。数はたくさんとしか分からない。何かが近づいて来てるってことしか…≫
「それだけ分かれば十分だよ!じゃあイレブン、ぼくは行くからね!」
一応一言だけ伝えておくと、片手だけをこちらに向けて魔法を使うのが分かった。
「ああ、もう!せめて少しくらい援護させろ!」
そう言ってぼくの急所を守るように結界が発生したことが分かる。頭を覆うようになっていて、首周りに肘と膝にも付いていて、体幹を前後から守るようにもなっている。
自分の装備として常に持ち歩くようになった盾にも施してくれたようだ。
「俺が動き回るように作ったものだけど急所は大体守ってくれるだろう。この装置は解除しだしたら途中でやめることは出来ない。解除するまでにかかる時間は5分くらいだ。装置を壊すような真似をしなければ大丈夫なはずだから時間を稼ぐだけで良いからな。絶対に無理するなよ!」
「わかった」
相変わらず優しいことを言ってくれる。ただ、危なくなったら全力を持ってどうにかさせてもらう。
「火の大精霊……ってあれ?」
「どこかに行ったのなら仕方ない。そもそもタイミングが良すぎる。こんなことを仕出かす奴らの関係者が何かして来たのかもしれない。大精霊も相性が悪いなら隠れることもあるだろう。精霊魔法を使うのはいいけど、十分に気を付けるんだぞ!」
作業の手を止めずに何から何まで注意してくる。過保護が過ぎる!
「わかったってば!じゃあね!」
教えてもらった方向に向かうことにする。地ちゃんに地盤を固めてもらって木ちゃんに植物で保護して固めてもらう。あとは風ちゃんに持ち上げてもらうだけだ。ちょっと燃費は良くないのが難点だ。
まだイレブンが何か言っている声が聞こえるけど、やるべきことに集中してほしい。
火の大精霊は大丈夫かな?いきなりいなくなってしまったのは何かあるんだろうか。心配だな。
分からない。だったらもう気にするのはやめておこう。考えても仕方ないことは一旦置いておけって散々言われたことだ。
しばらく進むと遠くの地平からこちらに土埃をあげながら近づいてくるものを見つけることが出来た。
平地と違って凸凹なところもあるのにそれを物ともせずにこちらへと向かってくる。
「あれは何だろう。分からないけど、結構速いスピードで近づいてくる。数は20くらい?」
未知の敵と戦うときは取る手段は2つ。1つは全力の攻撃をぶつけて余計な攻撃を受ける前に倒す。もう1つは相手にわざと攻撃させて観察すること。
でも、観察するために攻撃させようにも標的をこちらと決めている可能性が高い。だったら下手に攻撃させるのはイレブンも危険かもしれない。
更に言うならまだ敵と確定しているわけでは無い。ほぼ間違いなく敵対することになるだろうけれど。どうするか迷っていた時に対象から何かが飛び出し、煙を出しながらこちらへと飛んでくる。
ここにイレブンがいれば、違和感を持っていたことだろう。
近づいてきているのが軍用車と呼ばれる種類の四輪自動車であり、移動力を重視しているのか武器は歩兵が持っていそうな程度の威力のものしか取り付けられていない。
そのちぐはぐさに加えて無人で動いていることに混乱を示していたかもしれない。幸いなことにリセルには先入観が無かったのでそういうものだと受け入れることはできた。
しかし、彼女が認識していないのは、飛んできているのがミサイルで殺傷能力として非常に高いものであるということだ。
ただ、危険であることは即座に察知して対応する。
「えええぇぇぇ!?じゅ、盾技『守護』!」
発動と共に盾が輝く。すかさずぼくは盾に隠れるようにしゃがみこんで隠れる。幸いなことに直撃こそしなかったようだけど、近くに落下したようだ。直後に横から衝撃が、上からは巻き上がった土砂が降ってくる。
でもぼくの周囲には水の塊が発生して、土埃や土塊をその水が受け止めて届かないように庇ってくれていた。
「水ちゃん、フォローありがとう。イレブンの結界も役に立ってくれたかな。でもこれって完全に攻撃されてるよね!?」
だったら取れる手段は1つだ。
「ぼくが今取れる最大の攻撃をするしかない!お願いだよ、精霊たち!ぼくに力を貸して!!」
今周りにいる精霊へと話しかける。元から力を貸してくれていた火水風土と植物に加えて、イレブンが『氷魔法』をよく使うため氷の精霊が新たに仲良くなってくれていた。
どの精霊の力があれらの動きを止めるのか分からないから、植物以外の精霊には基本の攻撃をしてもらうことにする。
「いくよ!『精霊の弾丸』!」
それぞれの属性の力が込められた先の尖った円筒形のものが出現すると高速で回転するとそれぞれの精霊が狙いを付けてくれた標的に向かって一直線い飛んでいく。
弾丸というのはイレブンが考える攻撃力の高い形の1つだそうだ。精霊なら自由に形を操作できることを言うと、すぐに練習するように言われて作り出せるように練習してもらった。
イレブンが実物を土で作ってくれたことで精霊さん達もすぐに再現してくれた。
高速回転して飛ばすのもイレブンが言っていた。破壊力が増すそうだが、イレブン自身には複数を狙い通りに操作するのはまだ難しいらしい。精霊さん達は正確に1つずつ動かすだけだから簡単だった。
イレブンが地団太を踏むくらい悔しがっていたけど、そのうち出来るようになるだろう。またロマンだからと言っていたし。
余計なことを考えているうちに、弾丸は目標へと到達する。そこから各属性の現象が起こるようにしている。
一番効果が高かったのは土だ。先端部分を硬くしていたので貫通して動きを止めることに成功する。
次は氷で、まだ動く様子はあるけれど凍りつかせることでその場に固定することが出来ていた。
火は燃えるものが無かったので当てることが出来たくらいの損傷しか与えられていなかった。
水と風の攻撃も同じようなものだった。
硬いことで防御力の高いタイプのようだがそれを上回ることが出来れば破壊できるようだ。
土と氷は嬉しそうに飛び回っている。他の3人は悔しそうな感情が伝わってくる。
「土ちゃんと氷ちゃんはどんどん打ち込んで!水ちゃんと風ちゃんは足を止めさせよう。地面を狙って!火ちゃんは目くらましして攪乱させて!木ちゃんも悪いけど邪魔できるかな」
声に出さなくても意思を伝えることは出来るが、言葉にした方がより明確になる。それぞれがわかったという意思を返してくれてぼくから必要なMPを持って行く。
精霊さん達も遠慮してくれてるとはいえ、やっぱり消費は少ししんどい。まだ距離があるうちにMPポーションを飲んで使った分を補充しておく。HPMPは常に高く維持しておくことも何度も言われたことだ。
近づいてくることでようやく相手の形が見えてきた。あれも絵で見たことのある。イレブンがいつか作りたいと言っていたものだ。
「クルマ…って言っていたっけ?さっきのものといい、なんでイレブンが言っていたものがこんなにたくさん?」
疑問が浮かぶがそういうことを一人で考えても結論が出なさそうだ。ぶれそうになった思考を切り替え、再度精霊たちへとMPを贈る。
☆ ★ ☆ ★ ☆
距離のある状態で始まった戦いはなんとか抑え込むことが出来た。何台か横を抜かれそうになったけど木ちゃんが作った木の壁と、水ちゃんが地面をぬかるみに変えていたおかげでクルマは進めなくなっていた。
それに地面に当たっている回転部分が足の部分のようで、一度地面から離してしまえば動けなくなることが分かった。そこからは地ちゃんと風ちゃんがあの手この手でひっくり返して動けなくしていた。
あとは氷ちゃんが完全に動けなくなるまで凍らせていた。火ちゃんが不満そうだったけど。
「火山で火ちゃんががんばり過ぎると危ないかもしれないからね。ごめんね」
そういうとさすがにガマンしてくれた。
「これって生きてるっていうのかな。穴が開いてるのに倒せてないのかな。もっとダメージを与えた方が良いの?」
通常の魔物ならHPがゼロになるまでダメージを与えれば煙と共に消え戦闘終了となる。機械の場合は残骸が残るが、戦闘終了と共にどこかへ消えることになる。
これはゲームの不思議と言ってしまえばそれで終わりの話だ。細かい話、無人の機械はアイテム判定されるので使えば消える。戦闘中は一応残骸が残されることになっている。
現実になった世界ではそれが消えずに残ってしまうが、リセルの中には消えてなくなることが普通だと認識した。そしてまだ動くのかもしれないと判断した。
「地ちゃん、押しつぶしちゃって!念入りにやっておかないと危ないから」
硬めに圧縮した岩盤で念入りに砕いていく。使える部品もあっただろうが、お構いなしに。
そして砕く順番が回ってくるまでは氷の精霊が固めてしまっている。
「ここまでやったのに消えないなら消えないものなのかな?」
元の形が分からなくなるくらいには押しつぶしきった。しかし消えなかった。
「普通だったら体がバラバラになってるよね?うっ、気持ち悪…」
想像したら怖い感じであることを想像してしまった。魔物は消えるが、動物なら解体まで見学したことがあるので生物の中身を見たことはある。魔物が消えるようになっていて良かったと思っている。
「イレブンが来るまでは待とうか。でももう5分は余裕で経過してるはずだよね。何かあったのかな」
戻ろうとしたときに、クルマとは違う音が近づいて来ていることに気が付いた。地面を揺らす音、というよりも地面そのものも揺れているように感じる。
「これはすごくヤバい気がするんだけど、みんなはそう思う?」
精霊は別に体があるわけじゃないけど、ぼくの体の心配はしてくれる。さっきのクルマのこともあって警戒は必要だけどすごく嫌な予感がする。
すぐに戻ってイレブンと合流するか、何が近づいて来ているのか探ってから戻るか。
何も情報が無いのに戻っても役には立たないだろう。時間通りに戻って来ないことを考えると何かあったのかもしれない。対策を立てることを考えると知っておいた方が良いだろう。
「氷ちゃん、火ちゃんで、クルマを一台持って帰れるようにしておいてくれる?ぼくは音が何かを見て来るよ」
精霊たちに指示を伝えるが、見に行くことに関しては反対された。
「だってみんなが見てきても伝え聞きの状態じゃイレブンに伝わらないでしょう?一目見るだけだから。みんながいれば大丈夫だよ。こういうときは早い判断が大事だよ。行こう!」
この判断を後悔するかどうか悩めるのは、生き残ってからだよね。
お読みいただきありがとうございました。